みんなのHACCP

食品化学新聞 リレーシリーズ 2010年11月4日掲載

中山正夫 技術士(農業・水産部門) 中山技術士事務所

◇ HACCPの思想は昔から

今から40年前、技術士業務を始めた私に、顧問業務を依頼されたK社では、「カップあんみつ」や「葛餅用」に使う「別添ソース」の「小袋入り黒蜜」も製造していた。

その製法の実態を見ると、食品衛生や微生物対策の技術者がいないにも拘わらず、当時 としてはほどほどのレベルに管理されていた。昔からの製法の伝授か、長き経験からの知恵か?は定かでないが、食材の取り扱いや食加工の「ツボ」を心得ていた。

たとえば、「袋入り黒蜜」の熱湯殺菌では、ボイル時間を目覚まし時計で忘れないように管理、殺菌方法に対しては袋同士重なり防止の工夫、そして加熱後は流水で急冷など。また、黒蜜自体は酸味付けと共にpHも低めて、保存性アップを狙うように、レシピ面でも理に適っていた。

従って後日、入ってきたHACCPの初情報には驚かず、なぜ今頃と思ったほど。が、「アメリカの宇宙食づくりから」という啓蒙力ではなしに、「システム化」に意義を感じた。

当時、本家のアメリカにHACCP実施工場を調査に行った人の話を聞くと、分厚い資料や記録の山で驚かされた由。

危害防止に向けて、細かに段階を踏み、書類作成し、記録するのは、よいこと。その思想は正しいが、大手の食品工場ならばともかく、日本の中小企業では果たして可能か?
――と気になった。事実、K社でも危害分析と記録の面に欠けるところもあったが。

◇ HACCPの問題点

HACCPシステムを始めようとセミナーに出席した中小企業の担当者が突き当たるのは、初めて聞く意味不明な用語を使った説明だ。

半世紀ほど前、私自身が経営セミナーで学んだ時を思い出す。どうしてこんなにカタカ ナ英語や難解な用語が多いのか? なぜ、わかりやすい日本語でしないのかと思ったほど。

特別な経営コンサルタント用語? を使うことで、一つの「専門領域」をつくり、価値を 高めるためか? -―との「陰の声」も聞いた。

が、その結果、聴講者はこの方式を十分に理解できないため、形式化に止まる。取り入れた企業も、1年ほどして撤退した例も少なくなさそう。特に中小企業では作業に必要人数がギリギリ以下で、管理担当者も多くの任事を掛け持つ。これはISOの取り入れにおいても全く同じことだ。

書類の整理に追われた当者は、本来の職務に手が回らなくなり、現場管理に穴があくことにもなりかねない。時には食品工場の実態を知らない外部のHACCP指導者に当たるかも。原則に沿ってHACCPを立ち上げ、効果的に運用させるには、個々の工場の対応はそれぞれで、注文住宅設計と建築にも似る。手法や記録の仕方も工場の実態に合わせて設定すべきだ。それにより継続できるシステムづくりが大切。 「人を見て法を説け」 なのだ。

◇みんなでやろう!

当然のことながらHACCPは、記録をつけるのが目的ではない。そのため、表面的な記録が整っているから、「よくやっている」とは別問題だ。

危害をいかに防ぐか、また広がらなくするか? の実践的対応術が必要。それには工場 長以下全員がTPO (時、場所、場合) 的 異常予測し、危害防止、できるように努めねばならない。

たとえば、機械装置内部のひきかかりで、 異微音を発した時は1つの警告。それにより 削り鉄粉その他異物発生もあり得る。従って、現場の方々には、異微臭や、機械装置事自体の異昇温などの変化も察知、報告するシンプルな五感管理法も教えるべきだ。

一方、床に落ちている食品残渣を見て、なぜ、そこに落ちるのか? 落ちなくするには? それでも落ちる時は? などと注意力の養成が大切。そのため、一般衛生管理を含めた 「みんなに納得できる HACCP」として進める。

つまり「わかりやすく実施しやすいHACCP化」に向け、工場調査から始まり、指導法の改善、作業者の適材適所化、記録の省略化、指さし呼称で確認、五感活用のチェック法を取り入れるなど、実効化を図るシステムを私は目指している。

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