安全なユッケを!

食品化学新聞 リレーシリーズ 2011年8月18日掲載

中山正夫 技術士(農業・水産部門) 中山技術士事務所

◇生肉の旨と怖さ

東日本大震災から50日近く過ぎた4月末、福井、富山県下の焼肉チェーン店で、ユッケ が原因の腸管出血性大腸菌O-111集団中毒事件が発生した。死亡者も出て、「ユッケ禁止」説を唱える衛生関係者も現れた。

実は、私もユッケを好む。その作り方は、脂身のない赤身を千切りにして、しょうゆ、 ゴマ油、ニンニクを混ぜる。これをまるめて中央上部を凹ませて卵黄をのせ、周囲に千切りフルーツや野菜を添える。目で見ても、また、レシピから考えてもエネルギッシュな料理で、食べればたちどころに元気倍増。以前、フランスの地中海に面したレストランで、ユッケの欧州版ともいえるタルタルステーキのビッグサイズに挑戦。残さず食べ終えたことを思い出す。

◇生肉食にご用心

しかし、私がユッケを食べる時は、かなり、用心している。当てにはならないが、入った レストランの衛生状態をみて総合的に判定、また、価格が安すぎる場合は敬遠している。

さらに生肉でない生内臓は敬遠。私の築地分室近くにある親子で営業している古くから の焼き鳥屋だけでは、鳥レバー串の「よく焼き」 (私が命名) を注文している。

考えてみると、全国にはユッケを提供する店が多いのに、いままでこのような大きな事 故が起きなかったのは不思議。しかも今日より衛生管理が十分でない時代にだ。

◇「牛たたき」発想から

ユッケのごときアジア発の伝統食品が、「生である」が理由で消えてしまうとしたら、食文化の立場からも残念至極。20年ほど前になるが、私はある畜産企業のオーナーと一緒に、「牛たたき」を開発した。

もともと牛肉ブロックの内部はきれいなもの。ただし、生体の屠殺、解体、部位分けなどの作業では、腸内細菌より肉表面を汚染しやすい。また、トリミングする時でさえも、下手すれば二次汚染の恐れがある。そこで内部が生でも安全に食べ られる「牛たたき」を先ず考えてみた。

一般に「たたき」調理には2通りの方法があり、一方は「アジのたたき」で、包丁で細かく刃たたきした無焙りもの。他方は「土佐作り」方式で、節取りしたカツオ表面だけを焙り、厚切りに薬味をかけ、包丁の腹でたたきなじませる。

衛生的には後者の「土佐づくり」をアレンジ。トリミングした肉をある程度の大きさにカットなどの処理した後「表面焼き=焙り」を行った。

生肉の表面汚染に対して、金網上、火焔で包むがごとく短い時間、焙ることで殺菌はもちろん、その焼き香により肉の生臭さまでマスキングしてくれる。

その後、クリーンルーム内で真空パックし、液体窒素で急速凍結し保蔵、流通させた。そのため、牛肉には極めて稀に見るという寄生虫の心配もない。

この「牛のたたき」を半解凍。スライスしたニンニク、ショウガ汁で食べると絶品の味だ。ローストビーフの日本版に、サケ・ルイベの冷感が加わる。数ミリ厚の褐色表層の下は、スライスにより鮮やかな紅赤色に変わる。

◇ユッケ対策に応用は!

ユッケの場合も然り。

専門メーカーが生肉表面を軽くトリミングした後に焙り、真空パック品として焼き肉店 に納入してはいかがか。

焼く前の肉をアルコール浴に漬けたり、アルコールスプレーしてから表面焙りの方が、より安全といえよう。

この、表面焙り済み肉は真空パック品なので、焼き肉店に納入された商品の再トリミン グ処理は省略可。なぜならその他の千切りやチョッパー掛け処理は、トリミングに不慣れなアルバイト作業者でも、通常の衛生管理で十分できるからだ。 また、焙りは肉表面だけなので、ユッケにしても食感、色調など気になるまい。

なお、生肉焙りの注意は、拙文「私の技術人生・連載14」 食品工業2010・7・8 (光琳) を参照されたし。(7月1日寄稿)

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