今こそHACCPの正しい理解を

食品化学新聞 リレーシリーズ  No.198 2005年4月7日掲載

西川研次郞 技術士(水産/総合技術監理部門) 西川技術士事務所

黄色ブドウ球菌による食中毒を起した雪印乳業大阪工場が総合衛生管理製造過程の承認工場だったので、HACCPを実施していても食品事故が起こるからHACCPは欠陥手法と誤解している人が今でもいるようである(総合衛生管理製造過程はHACCPそのものではないのに)。他にも、「経営者の判断がなければCL (許容限界) を決めてはならない」とか、「連続モニタリングできない工程はCCPにはならない」など、HACCPを正しく理解していない表現は現在も沢山存在する。何故HACCPを正しく理解していない人がこんなに多いのかと、思わず首をかしげてしまうと同時に、このような間違った表現が散在すると、これからHACCPを学ぶ人がHACC Pを正しく理解しなくなり、日本のHACCPがますます歪んでいくことが心配である。

HACCPでは第2原則でCCPを決め、CCPがあればそのCCPについて第三原則でCLを決定するが、このCLの決定は科学的根拠により決定するのであって、決して経営者の恣意的判断で決めるものではない。

「連続モニタリングできない工程はCCPにはならない」という表現もよく目にし耳にする。何故この考えが間違っているかといえば、CLからの逸脱が発生するかどうかを第4原則でモニターをするのであるから、第4原則のモニタリングの頻度を基に第2原則のCCPを決めるということは論理的に矛盾がある。

工程によっては、間欠的モニタリングであっても安全性を担保できる十分な頻度は存在するのである。

例えば、缶詰の製造工程の中で巻締は連続的に行えないからCCPにならないという説があるが、巻締は缶詰の製造工程の中で最も重要な工程の一つであり、もし、巻締が正しく実施されていなければ食中毒が頻発するので、巻締工程はCCP以外のなにものでもない。

一方、巻締の良否のCCPは打検工程であると言う人もいるが、打検で巻締の良否のコントロールができないことは、少しでも缶詰の経験のある人なら良く知っていることである。 CCPを決めるにはその食品の製造工程に関する正しい知識と経験が必要なので、中途半端な理解でCCPを決めるととんでもない誤りをおかすことになる。

冒頭に述べた雪印乳業大阪工場の製品から黄色ブドウ球菌による食中毒が起った原因は、厚生労働省の調査で、大阪工場で使用した雪印乳業大樹工場製造の脱脂粉乳に黄ブドウ球菌の毒素が存在していたことによることが明らかになり、事件は決着した。

しかし良く考えてみると、食中毒が発生したのは大阪工場で毒素の入った脱脂粉乳を使用したことが直接の原因である。

もし、大阪工場が大樹工場から購入した脱粉乳に毒素が混入していることを使用前に発見して、その脱脂粉乳を使用しなかったら、食中毒事件は全く発生しなかったのである。即ち、購入した脱脂粉乳に対して、大阪工場がHACCPの第1原則である危害要因分析を正しく行って毒素の混入を発見していれば、毒素の混入した脱脂粉乳を使用することはなかったのだから、食中毒は発生しなかったのである。

昭和8年の3月に東京都で発生した、脱脂粉乳に混入した黄色ブドウ球菌毒素による食中毒の前例からして、危害要因の黄色ブドウ球菌毒素が脱脂粉乳に混入している可能性は、十分あり得ることだったのである。 大阪工場がこの前例を知らなかったのか、軽視したのか定かではないが、危害要因分析を正しく行っていなかったことが最大のミスであった。

このことからも、HACCPにおいては、危害要因分析を正しく行うことが極めて大事であることが分かる。日本で市販されているHACCPの本には、危害要因分析は特性要因図 (QCの七つ道具の一つ)で行うとよいと書いてあるものが多いが、残念ながら特性要因図では危害要因分析を落ちなく完全に行うことはできない。もっと完璧に行える手段 (例えば、米国で極めてポピュラー な6欄形式の危害要因分 ワークシートの使用) を採用する必要がある。

HACCPをやっていても食品事故が起ったのではなく、正しいHACCPを実践しなかったところに問題があったので ある。

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専門は、食品工場が利差出し、正しく衛生管理を行うやり方の指導。

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