ヒスタミン食中毒

食品化学新聞 リレーシリーズ  No.323 2007年12月13日掲載

西川研次郞 技術士(水産/総合技術監理部門) 西川技術士事務所

飲食店や給食施設で、毎年ヒスタミン食中毒が 10件前後発生している。
発症したのは、マグロ、カジキ、シイラなどの照焼、ブリの西京焼き、サバのみりん焼き、サンマハンバーグなどの青魚 (赤身魚) の製品を食べた人で、その原因は、これらの製品中に多量のヒスタミンが蓄積されていたためである。

なぜヒスタミンが蓄積されたか

ヒスタミンは本来魚肉中に存在する物質ではなく、海産青魚の鰓や内蔵に付着しているヒスタミン生菌 (モルガン菌など) が産生するヒスチジン脱炭酸酵素が、魚の死とともに肉中に多量に存在する遊離のヒスチジンに作用し、産生されるものである。

これらの細菌は通性嫌気性の中温菌なので低温では発育は遅いが、21℃を超えるとよく発育し、さらに32℃を超えると特によく発育する。従って、漁獲後の魚の保管温度管理が不適切で21℃を超える温度に長時間魚が置かれると、産生された多量のヒスチジン脱炭酸酵素によりヒスタミンが生される。しかも、一旦産生されたヒスチジン脱炭酸酵素は、冷蔵環境下でも活性があるので、ヒスチジン脱炭酸酵素が産生されてしまった後で魚を冷蔵しても、酵素の活性によりヒスタミンは産生される。また、この酵素は冷凍中でも安定なので、冷凍魚であっても解凍して肉温が上昇すると再び急速にヒスタミンが生される。

ヒスタミンの発症濃度

冒頭に述べたヒスタミン食中毒の原因食品中には、極めて高濃度のヒスタミンが存在していた。
例えば、平成15年(2003) 2月のメカジキ照焼からは440~7600 ppm、平成18年(2006) 2月のブリ西京焼きからは2200 ppm、平成19年(2007) 10月のサンマハンバーグからは830~1900 ppmであり、このような高濃度になったのは、原料魚の保管温度管理が大変不適切であったためである。一般に食中毒が発生すると言われている濃度は1000 ppm以上とか、500 ppm以上ではあるが、販売を禁止するヒス タミン濃度の基準はわが国には無い。

ヒスタミン食中毒を減らすにはどうしたらよいか

ヒスタミンは耐熱性が強く缶詰の殺菌条件でも分解しないので、一旦ヒスタミンが産生されると、加工品の製造過程では除去できない。従って、ヒスタミンが産生しないように魚を取り扱うことが必要となる。それには、まず漁獲後は速やかに魚を冷却し、極力0 ~4 ℃の範囲の低温に保管し、その後も加工中や流通中は低温に保つことが必要である。この加工中や流通中の温度管理を徹底するためには、販売する魚体中のヒスタミン濃度に基準を設けることが必要と考える。

米国ではすでにFDAとEPAの規則とガイダンスの中で、マグロ、シイラおよび類似魚類に対する安全性の上限基準値として50 ppmが規定されている。この50 ppmは安全性の点から考えると極めて低い数値であるが、FDAの考え方は、ヒスタミンの毒性の発現の濃度は5000 ppmと考えられるものの、鮮度低下魚におけるヒスタミンの分布は一様ではないので、一カ所で50 ppmが発見されると他の部分では 500 ppmを超えているおそれがあるという考え方によるものである。

確かに50 ppm以下が守られればヒスタミン食中毒は発生しないが、そのままわが国に適用するにはあまりにも低すぎる濃度基準である。一方、厚労省と農水省の「対EU輸出水産食品の取扱いについて」の規則の中には50 ppmよりずっと高いヒスタミンの基準値が示されている。この規則は国内には適用されないものではあるものの、食品衛生の管掌官庁が示した数値であるから、この数値を国内にも適用して管理をすすめることが有意義ではないかと思う。

食中毒を発症するヒスタミンの限界値を学問的に決めるのは困難と言っているばかりでは、いつまでたっても基準値は決まらない。米国の考え方をそのまま適用することはできないが、ヒスタミン食中毒の減少を図るためには、リスクマネージメントとしての暫定基準値を定めることが必要と思う。ヒスタミンはHACCPで取り扱うべき化学的危害の一つなので、今後わが国で、HACCPを実施する水産加工業者が増えていけば、暫定規準値は守られて行くことになると考える。

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