ディフェクト・アクション・レベル

食品化学新聞 リレーシリーズ  No.342 2008年6月19日掲載

西川研次郞 技術士(水産/総合技術監理部門) 西川技術士事務所

マッシュルームの缶詰には100gあたり、20匹までの虫の幼虫が混在していても良いという規則が米国にある。これを聞くと多くの日本人はそんな規則はおかしいと思うかもしれないが、米国FDAのディフェクト・アクション・レベル (Defect Action Level) にはそのように規定されており、マッシュルームの缶詰以外のアスパラガスやブロッコリーなどの植物原料にも一定量の虫の混在が容認されているも のがある。

食品の中には、原料目身に本来存在していたり、栽培中や製造中に食品への混入が避けられなかったりするものの健康被害を与えない欠陥を有するものがある。ディフェクト・アクション・レベルは、それらの欠陥について、最大値を設定し、リミット内であれば混在を容認するという規則である。その理由は天 然に存在し、避けることができない欠陥のうち、食品そのものの見た目は悪くなるけれど健康に被害を及ぼさない欠陥を、栽培中、収穫中、製造中に完全に取り除くことは経済的に意味がないという考えによる。また植物にたかる虫を完全に除去するために必要以上の農薬を使用することは、虫そのものの存在は健康被害をもたらさないのにもかかわらず、使用する農薬による健康被害の懸念を食品に与えることになるということでもある。

原料に混入している虫を工場の製造工程で除去する方法は、目視による選別しか無い。しかし、目視選別には100%の除去を証明する方法はないから、選別人員をいくら増やしても虫が残存する可能性は無くならない。だからといって、虫の混在を見過ごしても良いということではないので、一定のリミットを定 め、その許容限界以内なら残存を容認するのである。また、食品の安全上、コントロールが必要なのは虫が媒介する病原菌であって、健康被害をもたらさないそのものの存在ではない。上記のマッシュルームの缶詰においても、健康被害をもたらす病原菌は加熱工程において適切に殺菌されている。

平成12年(2000)の加工乳による食中毒事件が発生したときは、体長数mmの虫が混入しているという消費者の苦情から、製造業者による食品の自主回収がいくつも行われた。確かに日本の一般の消費者の 感覚では虫は不潔な異物なので、虫が混在している食品が商品として販売されるなどとは到底考えられない。それで、消費者は食品中の虫の混在ゼロをあくまでも主張し、製造業者は回収しない場合の企業の信用失墜を怖れて虫が存在した食品のロットを全量自主回収することになる。しかしこのようなゼロリスクの主張や自主回収は食品安全面から考えれば全くナンセンスで、不必要なものである。もとより品質面からすれば虫が存在していて良いということではないので、製造業者は虫の除去には出来うる限り の努力を惜しんではいけないが、それでもなおの混入が見つかったら、取り除けなかったことを謝罪することに製造業者は留め、消費者もそれを認めるべきであって、多額の回収費用をかけ資源の損失をもたらす自主回収まで行う必要はないのである。

では、日本でも虫の残存についてディフェクト ・アクション・レベルを設定したら良いではないかと言う意見が出てくるかもしれないが、必ずしも設定したら良いというものではない。それは、虫の混入数の上限値を科学的根拠に基づいて決めることが困難なこともあるが、それよりも、日本の消費者やマスコミが、ゼロリスクは存在しないこと、ならびにたとえ虫の死骸の残存があっても、そのロットが加熱等 の手段で適切に殺菌されていれば虫の死骸の残存は食品の安全性には関係がないという、食品安全の本を理解していれば済むからである。清潔は良いことであり、必要ではあるが、いたずらに潔避すぎるのは止めようではないか。

食品化学新聞社の許可を得て掲載しております