成功・失敗事例から学ぶ商品開発、市場開発とそのポイント⑤ 技術の壁で商品化を断念した幻のフライヤー (失敗事例・・・・油揚げフライヤーと専用油) 

             食品と科学 VOL.56.NO.2 平成25年2月10日発行

  鈴木修武 技術士(農業部門) 鈴木修武技術士事務所 

1. 開発の経過と目的

昨年の国際食品工業展(通称FOOMA)で顧問先の説明員をした。前のブースで機械メーカーが色々な食品を移動していた。菓子やパン生地、チョコレート、マヨネーズなどをすくい他の位置に崩さず移動させることが可能なロボットハンドが目にとまった。おおよそ30年前にタイムスリップし、この装置があったらこれから述べるフライヤーが世に出たかと思った。開発者は常に見ながら考えながら暮らしているのかとハットと気が付いた。

当時、元の会社(豊年製油)は豆腐・油揚げ業界に汎用性の油を販売しおり、油揚げに使用した油は酸価が高くなり廃油になっていた。昭和60年代当時は、油揚げ推定生産量約25万トンで油分25%として推定油使用量約6.5万トン、推定販売高約80~100億円と推定された。その中で、「赤水」はなたねを焙煎し、搾油した油は赤みを帯びていることより呼ばれており、約1万トンの大きなマーケットであった。フライヤーの推定数は不明であるが2000~3000台/年と予想された。

販売部門と話し合って、炒め油および炒め機で成功したので、機械(フライヤー)と専用油(通称:赤水)をセットに売れないかとマーケット調査をした。

油揚げの揚げ工程は、油揚げ用生地を105~135℃の油槽で5~10分加熱し、生地に含まれている空気の膨張と水の蒸発する圧力で蛋白質をスポンジ状に膨化させる通称「のばし」と170~180℃の油槽で5~10分加熱し、さらに生地を伸ばし膨らみと張りと色付けをし、仕上げをする通称「からし」がある。

油揚げの性状は5訂日本食品成分分析表によれば、水分44.1%と油分33.1%である。通常の揚げの製品では油分が25%以上であれば廃油にならない新油回転率がある。しかし油揚げの製造工程は「のばし」、「からし」の工程があり、油の使用量が揚げ製品の約2倍必要である。

開発の思想として、のばし工程で油を使わず水で行う。その目的はのばしの生産効率化と品質安定化、さらに揚げ油の加熱劣化抑制による廃油の発生量の減少をさせ、その比較表を表1に示した。

 表1 新法と従来法の比較表

 

新法

従来法

のばし
中性水
105~135℃
30秒~1分
食用油
105~135℃
5~10分

からし

食用油

170~200℃

5~10分

食用油

170~200℃

5~10分

廃油

なし

あり

廃油の使用量を減少させるアイデアを思いつき少し実験をしできる感触を得たので実験を継続し開発テーマにし、特許も出願した。炒め油と同様に油揚げフライヤーにあった専用油を開発することになった。

これらの開発の計画は

① 全国油揚げの実態調査・・・全国の油揚げの大きさ、水分、油分、酸価、色付きなど調査

② フライヤーの設計と試作品の製作・・・基礎実験と資料の作成および従来法と新法の酸価上昇の比較試験など

③ 専用油の開発・・・市販競合品と②にあった色付きと耐熱性のある油の開発などであった。

2. 全国油揚げの実態調査

会社の支店・営業所にお願いして、スーパーや小売店から試買した油揚げを集めて昭和61年7月に調査した。

油揚げの大きさと重量は、全国の油揚げの10枚の平均的な大きさを図1に示した。これほどまでに大きさの違いがあることが驚きである。

全国油揚げの大きさ調査

この結果より、東京、静岡、長野で通常の惣菜用の油揚げは7cm×15cmの標準的な大きさであり、この地域は物流も含めて流通が共通していると思われる。長野の大手メーカーは長野で生産した油揚げを東京に出荷して、ある程度実績が出来た時に首都圏に生産拠点を作り販売している場合もあった。

仙台と新潟の油揚げは、縦に長い傾向があり、大阪、高知、広島はほぼ正方形である。札幌、名古屋、福岡は総菜用も、いなり用も同じ大きさである。

 油揚げの重量の分布を図2に示した。全国の平均値は約30.2gで、大きさ同様かなり分布していることが判る。また、いなり用の油揚げの平均値は、約13.8gで惣菜用の約半分である。
水分と油分を図3と図4に示した。

図2 全国油揚げの重量(g)の分布

図3 全国油揚げの水分の分布
 鈴木修武ら:油揚げ製造と植物油 より

図4 全国油揚げの油分の分布
鈴木修武ら:油揚げ製造と植物油 より

全国油揚げの水分の最小は約26%で最大は65%であり、平均は約44%であった。水分35~50%までは46試料中約29試料で約63%強であった。地域別では札幌、仙台、新潟地域は平均より多く、長野、東京、広島は平均よりも少なかった。比較的に大きな油揚げは、水分が多く5仙台65%、9新潟64%、6新潟58%、28大阪57%、24静岡56%であった。これらは、機械揚げが出来なく手揚げのために水分が多いと思われる。

 油分は、水分に比べて16.5から40%と範囲が狭かった。水分の多い油揚げは油分が少なかった。その相関図を図5に示した。この図より水分と油分は良く逆相関しており相関係数は、-0.73であった。

図5 水分と油分の相関図
鈴木修武ら:油揚げ製造と植物油 より

酸価と色度および酸価は、図6に示し、酸価と色度の相関図を図7に示した。酸価は低い酸価から高い酸価と非常にバラツキが大きく、2極分布しているが、平均すれば酸価2.1であった。酸価が1.0~1.5の範囲が10試料と最も多く、次に1.5~2.0、9試料で、0.5~1.0は6試料であった。

図6 全国油揚げの酸価の分布
鈴木修武ら:油揚げ製造と植物油 より

図7 全国油揚げの色度と酸価の相関図 
鈴木修武ら:油揚げ製造と植物油 より

酸価の高い地域は長野で4以上あり、仙台、新潟、広島、福岡地域では酸価1.0以下はなく、東京、静岡、大阪は比較的に低い製品と高い製品があった。この調査での最高の酸価は、高知の試料5.1で、揚げ油の酸価は、多分7以上と思われる。ここでの大きな問題は油揚げの外観であり、酸価がいくつぐらいから外観が悪いかを官能的に調べた。色が悪い原因ミジンの混入と水切りのバラツキは油の原因でないので、油の汚れとフライヤーの汚れに絞る。肉眼で観察すれば酸価が2.5以上の試料から油揚げにブチが出始める。油揚げの酸価が2.5のフライヤーの油は3.6~3.7くらいになり、使用油の色はかなり黒いのでブチが出始めると思われる。

 JASの地域認証規則・認証基準いわゆるミニJASを認定している県は平成9年の21県より平成12年に10県、平成22年に2県に減少し、現在は廃止された。

3. 油揚げのフライヤーの従来法の現状と新法の試作

 標準的なフライヤー(150L前後)で揚げた油揚げと使用油の酸価上昇を測定した結果を図8に示した。揚げ油の酸価は、加熱劣化するために確実に上昇するが、油揚げの酸価は徐々に上昇していくことが判った。

図8 揚げ油と油揚げの酸価上昇曲線
鈴木修武ら:油揚げ製造と植物油 より

ミニJASの酸価の基準は油揚げに含まれている油の酸価であり、この図より揚げ油の酸価が3になっても油揚げの酸価は約1.2でまだ余裕がある。経験的なデータより油揚げの酸価は揚げ油の約50~60%くらいで推移すると思われる。開始直後から2日まで、油揚げの酸価が揚げ油よりも高い理由は、大豆中の酸価が、0.2~0.5くらいであり、新油は0.1以下であるためと思われる。しかし、2~3日で、揚げ油の酸価が高くなる。 
新法の油揚げフライヤーの試作の実験や試作品を作り試験した。
 従来法と新法の比較表を表1に示した。

表1 新法と従来法の比較表

 

新法

従来法

のばし
中性水
105~135℃
30秒~1分
食用油
105~135℃
5~10分

からし

食用油

170~200℃

5~10分

食用油

170~200℃

5~10分

廃油

なし

あり

 油揚げのフライヤーの基本思想はのばし工程を中性水で圧力をかけて伸ばしをすることから以下の試験をした。圧力釜を使い0.5~2Kg/㎠で温度は105~135程度に加熱した。その後、180℃の油槽に入れて、からし工程を行い油揚げにした。詳しくは特許を参照してください。
 従来法と新法の生産現場で行った酸価上昇試験を図9に示した。

図9 従来法と新法の酸価上昇の比較
鈴木修武:食品と科学 ㈱食品と科学社(2014)より

その結果より、明らかに酸価上昇は低く抑えられることが実証された。

4. 市販赤水の調査と専用油の開発

開発の目標として
① 自社の製造工程の精製油を使う
② 赤水を作る(専用工程か委託先で製造する)
③ ①+②の状態を見て決める。

油揚げフライヤーの試作品ができた段階で試しながら市場調査の結果より商品コンセプトを絞り決定することにした。

 市販されている油揚げ用植物油の特性は風味豊かで色づきが良く、耐熱性が強いことである。これらの要件に合う植物油は、大豆油、菜種油が良く、これらのどちらかを使うこと多い。開発では精製油か赤水をそのまま使うか、赤水と精製油を配合した油揚げ専用油とした。

赤水は市場から姿を消しつつあるが色付きが良いので、いまだに強烈なファンが居ると考えた。
当時の競合他社の調査した資料を表2と図10に示した。赤水の特徴は図10にも見られるように色調が強く、一般のてんぷら油やサラダ油に見られないほどクロロフィルが多く含まれている。この油で揚げた油揚げは焙煎していることにより独特の芳香を持ち、黄金色をして通常のきつね色とは明らかに違う。

表2 フライヤーに使われる油(赤水)
各社赤水の特性(調査年昭和61年7月)

 

A社

B社

C社

D社

E社

F社

色度
(ロビボンド法35.4mm)

2.4-22.0-0

4.2-30.0-0

3.0-30.0-0

2.0-20.0-0

5.0-20.0-0

1.7-20.0-0

酸価

0.35

0.11

0.09

0.09

0.11

0.24

過酸化物価

3.89

5.27

3.82

2.91

1.48

4.17

粘度(25℃)

60.02

62.23

58.64

61.35

57.57

62.15

発煙点(℃)

238

252

256

250

248

254

トコフェロール
(mg%)

0.0549

0.062

0.059

0.0669

0.0657

0.0518

クロロフィル
(ppn)

4.20

10.81

2.33

2.71

0.50

2.47

鈴木修武ら:油揚げ製造と植物油 より

図10 赤水の可視部の吸収曲線
鈴木修武ら:油揚げ製造と植物油 より

市販されていた赤水の外観は二つのグループに分けられる。グリーンを帯びたA,B、F社と赤みを帯びたC、D、Eグループである。クロロフィル含量は各社に差がありこれらが外観に影響していると考えられる。

酸価は、精製油と同じくらいから未精製の値くらいであった。耐熱性試験では大差なく、ヨウ素価や脂肪酸組成より原料は輸入菜種と思われる。

これらの調査よりどの位置に専用油を持っていくか試験する必要がある。
油揚げ専用油の目的は、色付きがよく、狐色になり耐熱性が求められる。

試作方法は、既存の精製工程から入手し、または焙煎した菜種油(赤水)を配合し試料油を作った。油揚げ生地を手に入れて7種類の試料油を作り試験した。油揚げは、味、色や退色や油揚げの着色具合、揚げ時の香りなどで選択した。その結果、大豆白絞油75%、脱酸菜種油25%がよかった。また、この試験油で約4時間加熱し、油揚げや揚げ油の外観で判断したが、若干退色した。

赤水は委託先で作ろうとしたが、フライヤーの開発中止で開発を断念した。
 

5. 失敗の原因

 大きく3つあると考えるが開発には予測不可能でありある程度実験が進まないとわからない。

良い油揚げとは水分、油分が適度で、組織が均一で細かくガラス玉が少なくシモヤケのように白くくすんだ部分がなく全体にピンと張っており、縦横の角は、丸く伸びて、四隅の角も同様に伸びている。ヘタリがなく中心部に豆腐が若干残っている製品である。

① 伸びた生地の移動が困難

初めに述べたが、伸びた柔らかな生地を歩留まり良く移動させることは当時の技術では不可能であった。

油揚げ用に作られた生地は約5×10cm厚さ約8mmで、枠の中に手で投入されるが、加熱水で伸ばすと約7×15cm程度に伸びる。この熱くなった生地を次の工程である「からし」に移さなければならず、機械的には移動が難しく一部は出来たが歩留まり良くできなかった。

② 油揚げの品質不良と歩留まりの低下

従来の生地を使って試験したのである程度伸びたが、油で伸ばしたような丸みを帯びた角にならなかった。また、生地の伸びが一定でなく不良品が従来法より多くでた。

油揚げは難しく従来法でも7~8割の歩留まりで業務用や惣菜用に切った商品を売っているのは不良品の救済法である。

③コスト高

従来のフライヤーは、のばしとからしは1台で行っていたが、水用と油用の2台必要であり、2台分のコストになった。

削減された油代でコストアップを提言できる可能性も考えられたが、初期投資の懸念材料である・

6. おわりに

 機械と専用油をセットで売るには、油揚げの工程を実験室で実証する必要があった。はじめて実験室で油揚げを作った時に、浸漬して破砕した豆乳を直接鍋に入れて直火で加熱した。よく膨らまなかったので、片煮えや過剰加熱と考えて、豆乳を入れた鍋を180℃のフライヤーの油の中で加熱したらよく出来た。また、“ゴ”を水抜きして、油揚げの生地を作る時に急激に圧力を掛けて水を切ると市販の油揚げの様に膨らまず、水抜き後に徐々に圧力を掛けて緩慢に水抜きをした。これらの加工工程を昔の人々は、どのように発見したのか非常に興味深かった。油揚げは未変性蛋白質を煮釜の中で蒸気により熱変性蛋白にし、さらに塩化カルシウムや塩化マグネシウムなどの凝固剤により凝固して、水分をろ過し圧力を掛けて水を徐々に抜き油揚げ生地を作る。さらに、油揚げ生地を油の加熱工程“のばし”と“からし”で網目組織にして作る。色々と条件を整えて徐々に改良を重ねて油揚げが出来た時には感激した。

 油揚げは、生地8割、揚げ2割と言われ高度な技術が必要で、ベテランの技術者が退職されると良い油揚げができない会社を多く見た。昭和の終わりでも大手のメーカーの集約されたことからも伺える。 

 この調査で凝固剤の種類もわかった。この商品化テーマは実現されなかったが、会社としては、油揚げの技術者と議論できるためのある程度技術力をアップできた。なんでも売ると言う意識がないとノウハウや情報が集まらないと思われる。

また、OB会で開発者達と会う機会があり、この原稿を書くのに了解を得ようとしたが積極的なイエスはなかった。しかし、離形油から炒め機、このフライヤー、専用油の開発した時が会社生活で一番輝いていたと言っていたが同感である。 

参考文献    
鈴木修武、加藤昇:油揚げ製造と植物油 p.122財団法人杉山産業化学研究所年報(2000)
志田正勝ら:油揚げ生地ののばし装置 特許公報 昭59-33
志田正勝ら:油揚げ生地をのばしための装置 特許公報 昭59-1469
鈴鹿 明ら:油揚げの製造法 特許公報 昭60-44901