成功・失敗事例から学ぶ商品開発、市場開発とそのポイント⑥ 商品化を目指して 開発テーマはシーズか?ニーズか?  (失敗事例・・開発テーマはどうするか)

食品と科学 VOL.56.NO.4 平成25年3月10日発行

鈴木修武(農業部門) 鈴木修武技術士事務所

1. テーマはシーズかニーズか

今から思い返すと40年前のことである。旧農林省食糧研究所の研修を終えて、企業の技術職の中の開発になった。研究所は歴史もあり、商品開発も活発なので、ワクワクして仕事に就いた。研究開発のテーマは研究所に任されていた。営業から提案されたテーマもあり研究の管理職が決めていたと思われる。

 長年開発をやると開発テーマはシーズか、ニーズかが問題でこれは永遠のテーマである。民間企業は商品化して利益を生んで成立すると考えている。食品技術士センターの研修会で企業訪問がある。開発部門や研究所を訪問する時は、テーマの設定の仕方を質問することが多いが民間企業ではほとんどニーズからと答える。また開発者は色々な部門と関係するので、それらの部門を知り開発の流れも考える必要がある。
反省を踏まえて若かった頃開発について述べてみる。実験だけすれば開発が終わりではなく、商品化には幅の広い知識が必要であると痛感した時期でもあり、若い開発者の参考になれば幸いです。

2. 澱粉製造から発生する未利用資源の商品化

 昭和40年代の時代の背景として、トウモロコシは澱粉原料として輸入されていた国内澱粉(馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉など)を保護するために各社は歴史や業界のシェアなどで輸入量が決まっていた。その限られた原料からウエットミリング(湿式粉砕法と略す)とドライミリング(乾式粉砕法と略す)によって用途別の澱粉やコーングリッツ(トウモロコシ粒)、コーンフラワー(トウモロコシ粉)を生産していた。澱粉は段ボールなどの工業用、米菓用、水練用などの食用澱粉、ブドウ糖、果糖、水飴などの糖化澱粉の用途があった。

コーングリッツとコーンフラワーは、スナック菓子原料や破砕米の代替え原料として用途があった。原料が制限されていることから澱粉の高度化や副産物の有用品の研究テーマがあがった。
湿式粉砕法と乾式粉砕法の概略と開発テーマ

を図1に示した。

図に示すようにトウモロコシの湿式粉砕法は、亜硫酸ガス+乳酸発酵である。亜硫酸ガスは原料に付着した微生物の増殖を抑えると同時に自体も硫酸になり、澱粉とタンパク質の結合を弱める働きもする。その後、乳酸発酵により乳酸が出来るので、硫酸+乳酸の相乗効果で分離する。また、乳酸菌は細胞の外にプロテアーゼを出して澱粉とタンパク質の結合を弱める働きもすると言われている。

乾式粉砕法は調湿して粉砕しやすく、放置後粉砕し、分別してコーングリッツとコーンフラワーにして各種食品用原料にする。

原料トウモロコシ種子の図を図2に示した。図に示したように王冠デンプン部と基底デンプン部は粉質デンプン部と言われる澱粉が多く、柔らかな粉状でタンパク質との結合も弱い。角質デンプン部は、澱粉とタンパク質の結合が強くなっている。性質の異なる澱粉とタンパク質を分離するために複雑な方法を使って澱粉を製造している。

 

開発テーマ① 

コーンステープリガー(CSL以下略す)からフィチン酸の製造

 数々の商品化できなかった失敗例がある。退職後、元敷島スターチの小川氏と「食品技術の革新に挑む」を書いた。仕事仲間でありいろいろと話をしていると同じ時期に同じテーマで開発しているのが分かった。同じ発想をして、小川氏は科学技術庁長官賞をもらい、筆者は開発に失敗した。

 フィチンの溶出したコーン浸漬液に水酸化カルシウムを加えてフィチン酸カルシウムを沈殿させる。この時に可溶性のタンパク質が共沈してくる。この沈殿物からフィチン酸をろ過分離するが、タンパク質が混在し精製が難しい。小川氏は、何回も生産中止を繰り返した開発者の執念でイオン交換樹脂を使って製造方法を確立した。両方の比較を表1に示した。

          表1 フィチン酸の性質、原料と製造方法

 

フィチン酸

イノシトール

特性・性状

ミオイノシトールに6分子のリン酸が結合

 

左物質より加水分解で得られる糖アルコール

原料

脱脂糠、コーン浸漬液(CSL)

特徴・栄養作用

キレート・PH緩衝材、発酵・成長促進剤

抗コレステロール血症剤、乳幼児用ミルク、離乳食、生理活性物質(飼料添加物)、脱毛症、発育障害予防

 

フィチン酸の製造方法

製造方法

カルシウム沈殿法

イオン交換法

 

簡単:タンパク質分離不能

米・ステーレー社製造中止

複雑:樹脂に吸着

科学技術庁官賞受賞

元敷島スターチ小川氏

                 食品技術の革新に挑む(幸書房)より

 

 片や筆者は、懇意の食品工場のパイロットプラントを使い、水酸化カルシウムで沈殿を作り、遠心分離、フィルタープレスで水分を除去したケーキを依頼先に送ったがタンパク質の除去が問題になった。世界的に有名なアメリカのステーレー社も同様の問題をかかえている情報が商社から入った。実験室でこの解決方法を検討した結果、色々な食品工場で使い始められていたイオン交換樹脂を提案したが、高価格を理由にテーマが開発中止になった。当時を考えれば、私の情報収集や企画の提案の仕方などに不備があったと思う。しかし、企業の体質や開発を許可する現場の責任者の知識や能力も大きいと思われる。ふり返って考えると管理・監督者の役割や責任が重要と考えさせられた一件であった。

 開発テーマ②
 CSLから膜分離による漬物用調味液の製造

 同じCSLからの商品化が開発テーマになった。膜分離は、果汁などを濃縮するために開発された方法で、現在の海水から真水を製造する逆浸透膜と同じような画期的な濃縮方法であった。

 この方法を使ってCSLから高分子区分と低分子区分を分離して、低分子区分と乳酸を漬物用調味液に商品化する計画があがった。特許も成立したが商品化にはならなかった。このテーマはCSLを中間の調味料メーカーから直接漬物メーカーに販売することを試みたもので、営業は顧客の調味料メーカーの理解が得られないと販売の計画すらしなかった。営業を巻き込んだ計画が必要であった。

開発テーマ③
トウモロコシ粒と粉(コーングリッツとフラワー)エクストルダーによるトウモロコシ麹の製造

 このテーマは乾式粉砕法から副生する余剰及び規格外のコーングリッツやフラワーなどの高度利用である。

 エクストルーダー(加圧押し出し成形機)とは食品や食品素材を製造する装置で澱粉のα化、パンやマカロニ、スナック菓子、組織化タンパク質素材に使われていた。
コーングリッツ・フラワーなどの粉を水分15~40重量%を加えて加圧・加熱式押し出し装置(通称エクストルーダー)で処理する。膨化した粒子は直径3mm以上の多孔質で味噌、醤油などに破砕米の替りに麹の原料として利用を目的にした。砕米として利用されていた加工用米が不足しており、一部でコーングリッツが使われていたが、二度蒸しや長時間の水浸漬など煩雑な工程が必要であり、あらかじめα化や均一にすれば商品化できると考えた。当時有名な国立の醸造所より引き合いがあった。特許も成立したが、装置が高価なことや研究所移転などの事情で開発の継続できず商品化つながらなかった。

開発テーマ④
トウモロコシ粒と粉(コーングリッツとフラワー)から澱粉の製造

余剰および規格外クリッツや副生するコーンフラワーなどから澱粉を生産する開発テーマであった。工場の製造工程を考えて酸処理で組織を柔らかくして粉砕し、遠心分離すればできると思った。酸を硫酸、塩酸、乳酸などの食品添加物を使って試験したが、タンパク質、タンパク質―澱粉、澱粉の三層になり澱粉の歩留まりが悪かった。図1に示すような実際行われている湿式粉砕法の澱粉製造は、亜硫酸ガス+乳酸発酵である。亜硫酸ガスは原料に付着した微生物の増殖を抑えると同時に自体も硫酸になり澱粉とタンパク質の結合を弱める働きもする。その後、乳酸発酵により乳酸ができるので、硫酸+乳酸の相乗効果で分離すると考えた。食品添加物の酸を組み合わせて実験したが思うような結果がでなかった。

先輩や現場の技術者に乳酸発酵の意味を聞いたが明確な説明がなかった。当時、澱粉業界は澱粉から液化酵素(α―アミラーゼ)や糖化酵素を使いブドウ糖をつっていた。また、ブドウ糖より異性化酵素(グルコースイソメラーゼ)を使って果糖を作っていた。また、澱粉より結晶マルトースも作っており、澱粉業界は酵素化学が盛んであった。いろいろな文献を調べて乳酸菌から出る酵素(プロティアーゼ)も澱粉とタンパク質の結合を弱める作用があると推測した。

 上司に内緒で酵素メーカーから色々な酵素を取り寄せ実験した。プロティアーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ単独や組み合わせを試した。これらの酵素は反応が遅いので夕方反応させて翌日の朝に遠心分離し、澱粉とタンパク質の分離を見る実験である。色々な酵素の濃度を変えた結果、プロティアーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼの組み合わせの効果が良く遠心分離し、ステンレスのバットに取り出した時に真っ白な澱粉と黄色身のタンパク質が完全に分離をしていた。確実に実験は成功し、商品化のメドついた。酵素価格が高かったので未精製の酵素を取り寄せたがむしろ租酵素の効果があった。乳酸菌からでる酵素は複合した色々な酵素であり単独の酵素でないと考えることが自然である。

 ここで使った酵素はヘミセルラーゼ、セルラーゼやプロテアーゼなどで用途がなく量産されておらずかなり高価であった。このテーマが工業化されれば量産化が進み価格が下がると考えていた。しかし、商品化は出来なかった。

その理由は①採算に合わない②自由化を控えての投資の決断をくだせなかった。この本社から指示は当時の私にとっては、非常にショックであった。投資の計算くらいは自分で出来ないといけないと思い、中小企業診断士を勉強して3回受験したが合格しなかった。

 油部門に移って色々な商品開発をした時に、慶応大学の教授が主催しているマーケティング講座を受講した。図3に示すように商品化するためには、会社組織の全般にわたり関係することが重要であり商品開発自体全社運動で行わないと成功するものでないと考えるようになった。

企画購買

 

 

開発

製造

技術

品質

 

 

技術

 

 

生産

 

 

 

物流・保管

 

 

 

販売

 

 

 

 

商品企画

商品化計画

資材

購買

製造

歩留

稼働率

品質管理・保証

販売

販売促進

      図3 売り易い製造し易い開発の関係図

 

3.開発は広い視点を

こんなに商品開発の講演や記事を書くとは思ってもみなかった。現役時代会社でコンサルタントに会った時は、技術の幅広くなんでも知っていることが驚きであった。20代頃、会社の技術士の教えで商品開発してキャリアーアップした結果であり、商品を選んでくれた顧客のお陰でもある。

開発者は若い頃から実験に励み実践をするアリの目、中堅で複眼的に自分の領域を見るトンボの目、もう一段上の会社経営や事業創造の視点から見るタカの目が必要である。これらは少しずつ複合的な視点を養っていくことが不可欠であると言える。皆様どのように思われますか。

数々の商品化をした経験から、開発者は商品化の流れを知ると同時に関係する部署の知識も勉強することが必要であると考えるこの頃である。

参考文献
 二国二郎ら:デンプンハンドブック 1961(朝倉書店) 
 鈴木修武ら公開特許公報 昭51-19168
鈴木修武ら:特許公報 昭52-21078
食品技術士センター編:食品技術の革新に挑む(幸書房)