講演記録「インドネシア・ベトナムを主体とした海外エビ加工とエビ漁業の現状と課題について」

松隈 裕之 様〔技術士 水産部門〕

株式会社トクスイコーポレーション 水産事業本部東京営業部 専任部長 (食品技術士センター 会員)

第一部

日本のエビは、長寿、めでたさ、強運、永遠の若さ、生命力の象徴として古くから食されている。しかし、安値傾向に係わらず消費量が減っているという課題に直面している。エビ養殖の歴史は、1934年クルマエビ養殖技術が確立されたところから始まる。

ブラックタイガーの人口種苗と養殖

産卵用の親エビと受精・産卵(眼柄切除の技術により産卵を促す)→ノウプリウス幼生→ゾエア期(最も飼育に注意する時期)→ミシス期→ポストラーバ期を経て養殖池に投入される。

養殖形態は、粗放養殖(塩田の跡地などを利用し無給餌・無投薬だが生産効率低い)と集約養殖(生産効率高いが給餌・投薬が必要で高コストの上、疾病などのリスクも伴う)がある。演者が直接携わっていたインドネシア・スラウエシ島の粗放養殖と集約養殖の事例について、写真を用いて紹介された。

エビ養殖は、病害との闘いである。1986年のバキュロウイルスの発生で当時世界最大の生産国であった台湾のエビ養殖は壊滅している。

エビ加工品

  • (冷凍エビ)生産の事例紹介

殺菌洗浄→下処理加工→除頭→洗浄→サイズ選別→二次殺菌洗浄→冷凍パン建て→急速凍結 の工程について、写真と動画を用いて紹介された。

  • (エビフライ)生産の事例紹介

下処理(保水浸漬作業の効率化に取り組んだ)→打ち粉とパン粉→エビフライ製造→凍結包装→製品完成の工程を実例写真に基づいて紹介された。

  • (冷凍エビ天ぷら)についても同様に事例紹介が行なわれた。

エビ生産国の現状

世界の漁業生産量(約9,000万トンで頭打ち状態)と養殖生産量(1990年代以降、急激に生産量〔約1億1千万トン〕が増えており漁業生産量を凌いでいる)について紹介した上で、一つの要因として、バナメイエビの養殖生産が2000年頃から成功して大増産されている背景を説明された。近年のエビ養殖では、バナメイエビの生産量が最も多く、ブラックタイガーの生産量は減っている。ブラックタイガーに比べてバナメイエビはサイズこそやや小さめではあるが、総合的に見て生産効率が高いバナメイエビ養殖の人気が高まった。特に、生産量は、中国、ベトナム、インドの順で多い。エビのサイズは、国際規格でポンドあたりの尾数が決まっている。(例えば、21/25は、ポンドあたり21~25尾を示す。)

  • ベトナムでは、AIやディープラーニングを駆使して、超集約式養殖(スーパーインテンシブ)技術が導入されている。バナメイエビ生産が増加しているが、ブラックタイガーの最大供給国でもある。また、エビ加工品の最大生産国である。
  • インドネシアでもバナメイエビ養殖が普及した。このような中、2009年に中国で早期斃死症候群EMS(原因はビブリオ菌の一種と考えられている)が発生して世界中に拡散した。しかし、インドネシアに関しては、無事であったことからバナメイエビ養殖の生産が伸びた。
  • インドは、世界最大の天然エビ生産国である。カップヌードルのエビもインド原産が使われている。米国、ベトナム、中国の順に輸出が多く、日本は4番手である。バナメイエビ、ブラックタイガーともにインドが最安値国である。
  • アルゼンチンの赤エビは、天然物で近年急激に漁獲量が増えた。有頭エビの最多漁獲種である。冷凍赤エビの輸出量が右肩上がりで増えているが、日本は赤エビ類の輸入先国としてアルゼンチンが断トツのトップである。ブラックタイガー、バナメイエビと比較してもアルゼンチン赤エビは、大幅に安く、世界最安値と言える。世界中で天然エビは頭打ちの中、アルゼンチン赤エビは生産が増え続けている。

今年の注目点は、米国のベトナム産エビに対するアンチダンピング関税(現在約5%)の動向であり、間もなく結論が出る予定である。

冷凍エビの現状

エビの生産量、我が国の輸入量、輸入額、消費者の購入量/1人あたりのデータ等の説明が行なわれた上で、我が国でも2013年のEMSショック以降消費量は減ったままである。また、2012年にエトキシキン(坑酸化剤)問題がインド産で発生して国際的な問題となったが2年程で収束している。しかしながら、我が国では、2013年以降に輸入価格は下がっているが消費量は伸びていない。

また、演者のインドネシアエビ工場の経験談(2006年頃)から、原料代、汚職、ごまかし、結託に注意しなければならなかったことや日本・米国・EUのブラックタイガー取引の比較について表を用いて詳細な説明が行なわれた。

  • 米国のエビ市場は、年々増加傾向にあり、2018年は70万トンで世界一の輸入国である。商品例を写真で紹介された。
  • EUのエビ市場は、60万トンで南方系剥きエビが75%を占めている。多くは、エクアドル、アルゼンチン、インド、ベトナムから輸入している。商品例を写真で紹介された。

日本のエビ業界の今後の課題は、価格は十分に安くなったので見かけの価格より美味しいエビの提供に重視するべきである、と述べられた。

第二部

インドネシア海域のエビトロール漁業

演者は同海域のエビトロール漁船で乗船も経験している。

エビトロール漁法は1960年代からアウトリガー式トロール漁法が世界中のエビ漁場で行なわれてきた。我が国の海外漁業の先駆けでもある。インドネシア海域では、1960年代後半に大手水産会社が試験操業を開始し、1970年代に合弁会社が進出している歴史について、説明があった。

船内急速凍結エビは最高級品である。漁獲後、2時間以内に船内のコンタクトフリーザーで凍結を行なう。エビトロール漁船の設備の違いで品質に差が出る。最高値は、オーストラリア産 25ドル/kgである。

インドネシアのアラフラ海

インドネシアのアラフラ海が世界屈指のエビの好漁場になった理由について、コリオリの力の作用により発生するによるエクマン・スパイラル(輸送)による赤道湧昇流と沿岸湧昇流やエルニーニョ現象の解説をした上で、ウォーカー循環→南東貿易風弱→西部の暖かい海面海水が東部に移動→西部の水温低下→アラフラ海でエビが豊漁になる、という科学的根拠を示して説明が行われた。オーストラリア等では、南方振動指数(SOI)を参考にしてエビの漁獲予想が行なわれている。当時、アラフラ海のエビ資源量MSY 5万トン、CPUE 78万トンで十分な資源量であったことが確認されているが、トロール禁止令の禁漁継続により豊富なエビ資源が有効に活用されていないのではないかと考えられる。部分的に解禁するだけでも、現地の雇用などの経済効果が大いに期待できる。

エビトロール漁の課題として混獲未成魚があることから、漁具の改良により混獲魚を速やかに選別し、海に返す技術開発を高めていくことが必要である。

※エクマン:スウェーデンの海洋学者

 

〔所感〕

 我々が日常で何気なく食しているエビについて、国際的な観点から理解を深めることができた。また、実体験に基づく上、科学技術の裏付けや専門性の解説が伴う講演内容は、初めて聞くような話でもリアルに受け止められる説得力があり、技術士向けの講演内容として満足できるものであった。(記 食品技術士センター 岡野利之)