自社原因でないときの消費者クレーム対応

食品技術士 リレーシリーズ 食品化学新聞2019年2月21日掲載

東剛己 技術士 (農業(農芸化学)、総合技術監理)

 お客様からのお問い合わせがあった際の対応については、どの会社もしっかりと準備しているだろう。それがクレーム案件であれば謝罪し、すぐに調査・確認を行い、結果を報告する。相手目線に立って誠心誠意対応することが重要である。製造所が表示されるようになってきて、今まで名前が出なかった製造・加工業者も「もしかしたら一般消費者からの問い合わせが増えるのでは」と戦々恐々としているかもしれない。

 クレーム案件の場合、その原因が明確であれば対応は難しくない。もちろん迷惑をかけた身としては「難しくない」などとは決して言えないのだが、原因がはっきりしているクレームは自社の改善にも繋がるので、真摯に向き合って根本原因をさぐり、対応策を熟慮するべきなのである。原因が特定できない場合でも自社での発生可能性が大きいと思えるのなら、調査に時間を費やす価値はある。まさにクレームは会社改善のチャンスであり、クレームを申し出てくれたお客様に感謝の念を持たなくてはならない。

 対応に困るのはどう考えても自社原因とは思えない場合である。業界間でやりとりする場合は実直に事実を調査・報告し、「弊社で発生した可能性は低いと思われます」と正確に伝えると納得いただけることが多い。同じ業界なのでお互いの理解も早く、スムーズに話すが進む。

 しかし相手が一般消費者となるとそうはいかない。自社原因の可能性が低いことを匂わせようものなら「じゃあ俺が悪いのか!」と余計にこじれてしまうのである。結局、「弊社にて調査いたしましたが、原因の特定には至りませんでした。しかしながら、今回のお申し出を厳粛に受け止め……」というようなあいまいな答えになる。もちろんこの答えをしても素直に納得してもらえるお客様ばかりではない。「もっと調査しろ」「馬鹿にしてるのか」「隠しているんじゃないか」といったキビシイ反応が続く。

 なので、「弊社で発生した可能性は否定できません」というような文言が必要となってくる。この文言は別に嘘ではない。悪意を持って問題を起こそうとする人が社内にいれば、どんなあり得ない問題でも起こりうる。実際に世の中ではそういう事件も起こっているのである。近年、フードディフェンスが重要視されている原因でもある。

 そうはいっても、どう考えても自社原因とは考えられないクレームはかなり多い。

 実例を挙げると、パンに塗るクリームに硬い異物があったとクレームがあり、調査するとパンの欠片が乾燥して硬くなったものだったということがあった。パンの欠片なのだからおそらく消費者がパンに塗るときに混入したであろう事が予想できる。そもそも自社でパンなど作っていない。調査結果を報告すればすぐに納得してくれるかと思うとそうではなかった。絶対にはじめから入っていたと言われるのである。あまり強硬に出るわけにも行かないので前記の文言で謝罪する。

 また、菓子を食べていたら硬いものが入っていたと言われ、調べると詰め歯の素材と同じ材質ということもあった。もちろん工場内には存在しない。しかし、相手の詰め歯が欠けたという証拠も無いので、「材質はこういうもので、歯の詰め物によく使われているものです」という報告する。すると、「歯ではなく材質が同じ他のものではないか」「そちらの従業員の詰め歯なのではないか」となる。

 最近も報道で歯の混入クレームが話題になった。結局原因不明と発表されたが、遺伝子を調べれば誰の歯かわかるという外部の人のコメントもあった。だがそんなことをする会社はないだろう。お金はかかるし、もし調べて相手を特定できたとしても会社にとってメリットは全くない。

 クレームを調査する側としてはクレームを報告する担当者に苦労をかけたくないが、お客様に事実を伝える必要があり、言い回しに苦慮する。こじれてさらなる調査が必要になってしまうと、ただただ業務が増えるのみである。真実を伝えながらお客様を悪者にしない配慮が必要なのである。

 「弊社で発生した可能性は否定できません」の意味はなかなか言葉通りではない。

食品化学新聞社の許可を得て掲載しております