証明書依存

食品技術士 リレーシリーズ 食品化学新聞2019年11月21日掲載

東剛己 技術士 (農業(農芸化学)、総合技術監理)

業務用メーカーはユーザーに対して、自社製品に関する様々な規格・工程などをまとめた「原材料規格書」等の文書を必ず提出している。しかし最近、これとは別に「○○証明書」という別紙の書類を求められるようになってきた。

「原料原産地名」や「原材料の配合割合」について、今までも別紙の証明書を添付するよう言われることはあったが、ここのところそれ以外のことでも「証明書」という形で出すように要求される。特に販売する側が「うたい文句」に使いたい文言については、必ずといっていいほど「証明書」が求められる。証明書の作成自体は簡単である。なぜなら調べて事実を正直に書くだけなのである。ある程度定型書式も作ってある。しかし「うたい文句」の全てに証明書を出せるかというと、そうはいかない。

かなり昔の話になるが、先方の求めで「ティラミスクリーム」というものを作ったことがある。ケーキの「ティラミス」をイメージし、香料やチーズ、コーヒーといった素材で味付けをしたフィリングクリームだった。パンの上に絞って「ティラミス○○」のような商品として販売するらしかった。

その後、先方から「これがティラミスである(ティラミスとうたっていい)」という証明書を提出するように言われた。当時はまだ証明書至上主義でもなかったので、「そんな証明書は出せません」で済ませてしまった。

 そもそも「ティラミス」はケーキの一種なのだからフィリングクリーム自体を「ティラミス」と言い切ることはできない。「ティラミスクリーム」を造るために「ティラミス」をクリームに混ぜ込んで「ティラミス含有」とすれば良いのかといえば、それも違う。わざわざケーキを作った後にすりつぶしてクリームに入れるなどナンセンスだ。

 それ以前に、そもそも「ティラミス」という言葉に定義はあるのか? ティラミス協会というものがあって、これこれが「ティラミス」ですと定義づけてくれればよいが、おそらく多くのパティシエはオリジナリティが損なわれるという理由で反対するだろう。パティシエたちが自身で作ったものをティラミスだと言い切れば、それはティラミスである。どちらにせよ証明書で書けるようなものではない。

今ならどうか。証明書が無ければそんなものは使えないと言われてしまうかもしれない。きっと開発者は「ティラミス風味クリーム」「ティラミス味クリーム」にする。そうすれば証明書を求めようがないからだ。ただ、これは先方の求める解答にはならない。先方はこのクリームを使った商品に「ティラミス」という言葉を冠していいのか、と聞いているのだから。

 実際には冠してもかまわない。ケーキの形状をしていれば「ティラミス」かどうかを気にする消費者もいるかもしれないが、パンや菓子、飴やスナックであれば消費者はまさか「ティラミス」を中に混ぜ込んだり搾ったりしたものとは考えない。そもそも「ティラミス5%配合」なんてあり得ない。「メロンパン5%配合」が奇妙なのと同じである。だから消費者に誤解を招かせない表記であれば商品名に「ティラミス」と使ってもなんら問題はない。ただ、証明書となると簡単に「いいですよ」とはいえないのである。証明書を鵜呑みにして、このクリームをふんだんに使った菓子に、「ティラミスをたっぷり使った~」などと書かれては困るのだ。結局「証明書は出せない」と言い続けるしかないのである。書けるのは自社の「見解書」程度である。

こういった例は実はたくさんあって、証明書を出してくれといわれても困るものが多い。フォンダン、アイシング、キャラメル、クーベルチュールなど、多くの菓子商材は明確な定義がなかったり、国内と海外で扱われ方が違ったりで、証明書を書けないのである。

 とはいえ、定義があっても困ることはある。たとえば「ゼリー」にはJAS規格に定義があり、「ジャム類のうち、果実等の搾汁を原料としたものをいう」とされている。では、コーヒーゼリーや無果汁のこんにゃくゼリーは「ゼリー」と言ってはいけないのか? もちろんJAS規格のゼリーを作っているわけではないなら気にしなくていい。しかし「ゼリーとうたっていい」という証明書をだすように言われても困るのだ。

 何でもかんでもメーカーに証明書を求めるのは販売する側の怠慢だろう。消費者目線に立った常識的な判断が必要なのである。

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