食の安全性追求/食物アレルギ―の化学

食品技術士リレーシリーズ 食品化学新聞2019年11月14日掲載

小川 洋  技術士(農業部門・農芸化学科目)

㈱スズカ未来 食品安全技術研究所 

はじめに

我々生命体は、病原体や異物などの侵入に対して免疫機能が働き、自己と非自己を見分け、その時、非自己と認識された物質の侵入に対しては、死滅又は排除させる攻撃が作用する。

しかし、生命体は、自己形成のためには、あらゆる非自己物質を分解し、利用しなければならない。食物中の異種タンパク質に対して、免疫寛容性を作用させ、巧く取り込んで行くが異常に強い免疫反応を起こす状態が食物アレルギーである。

 免疫に関与する細胞には、その形状から白血球(リンパ球)やマクロファージなどがあり、リンパ球は、その機能からT細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞に分類され、未熟なT細胞は、免疫反応を活性化させるヘルパーT細胞と、病原体を殺すキラーT細胞がある。このように免疫反応は、多くの多様な細胞群がその調節機能を担っている。

 一般的に免疫とは、一度経験した病原体などに対する抵抗力の維持と考えられているが、免疫記憶を維持している獲得免疫系と全く免疫記憶を持たずに反応できる自然免疫系に分類される。自然免疫は、原始的な生物から存在し、細菌などが産生する抗原を受容体で認識し活性化させるシステムである。一方、獲得免疫の主体はT細胞とB細胞であり、抗原に対応した抗体を作るための遺伝子の再構成を伴い免疫を記憶して抗原受容体が細胞の表面にあらわれ抗原に対する高い親和性を持つ受容体を形成するシステムである。

 アレルギーとは、栄養源として有用な食品や自身のタンパク質に対して、免疫反応を示すことであり、特定の抗原に対しての免疫過剰反応をいう。アレルギー反応の原因は、生活環境や抗原に対する過剰な暴露の他遺伝的要因も考えられるとしている。アレルギー反応は、その発生メカニズムなどからⅠ型からⅤ型の5種類に分類されている。一般的な疾患である、蕁麻疹、花粉症、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどは、抗原が体内に侵入すると即刻に反応する過敏症で、Ⅰ型アレルギーに分類される。また、接触性皮膚炎、薬剤アレルギー、ツベルクリン反応などは、抗体が関わらない細胞性免疫であり、遅延型過敏症とも呼ばれⅣ型アレルビーに分類される。

 食物アレルギーの発症機構は、腸管免疫系とその腸内細菌叢などに関係していることが明らかになって来た。腸内細菌叢が安定していない状態で且つ免疫機能が完成していない乳幼児に食品アレルギーの発症が多いのはそのためだとされている。また遺伝的要因もあり、遺伝的に抗体を作り易い体質がアトピー体質として現れる。

米国の調査では、食物アレルギー疾患は子供の約4%がもっており、近年増加傾向にあるとしており、我が国の厚生労働省調査では、乳児で5から10%で、幼児で5%、学童期以降は、3%以下と減少しているとしている。即時型食物アレルギーの主な原因である鶏卵、小麦などは、成長と共に大半がその耐性を獲得している。鶏卵、牛乳、小麦、大豆などはその耐性を獲得し易いアレルゲンとされている。それに対し、そば、ピーナツ、エビかになど甲殻類、魚などは耐性の獲得し難いアレルゲンであるという調査結果が報告されている。

非即時型反応を主体とするアトピー性皮膚炎もまた即時型反応性においても原因物質とされる食物抗原の中で最も多い症例は、鶏卵に次いで、牛乳、小麦の順である。

現在の食品アレルゲンの大部分が、分子量1-6万の比較的低分子の可溶性タンパク質であり、植物起源アレルゲンでは、プロラミン系統、クピン系統、プロフィリンなどが代表的である。動物アレルゲンでは、カゼイン、バルブアルブミン、トロポミオシンなどである。

その他のアレルゲンでは、システインプロテアーゼ、リポカイン、リゾチーム、アルギニンキナーゼなどと分類される。

 食物アレルギーの症例分類では、人工ミルク栄養児の新生児アレルギー、乳児アトピー性皮膚炎(卵、牛乳、小麦、大豆など)、即時型として乳幼児や学童児に多く、最後は、特殊型であり、学童児が運動中に発症するアレル―である。

 平成20年には、重篤症状を示すとして、エビ、カニの2品目が従来の5品目(卵、牛乳、小麦、そば、落花生)に追加され、計7品目が、義務表示品目となった。 

最近、アレルギーを起こす現象は、腸内細菌からのシグナルがT細胞のバランスを変化させそれが免疫疾患に関与していることが明らかになりつつあり、疾病や予防・改善に繋がる腸内細菌叢の研究が期待されている。

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