製鉄所廃棄物と食品産業

食品技術士 リレーシリーズ 食品化学新聞2019年7月18日掲載

齋藤 健    技術士(農業部門(農芸化学))

 去る2月下旬、新日鉄・住金鹿島製鉄所の株主見学会に参加する機会を得た。食品工業とは何の縁もないように思われたが、長い間日本のものつくりの中心的な存在であったった製鉄所はなかなか見る機会がないので見学してきた。

鉄を作る工程は豪州、ブラジルから輸入した鉄鉱石を、同じく輸入した石炭を蒸し焼きにしたコークスとした燃料で、摂氏1200度にまで上げて高炉内にて溶融させてドロドロになった洗鉄を取り出し、さらに純度を上げるために酸素を吹き込んで炭素を除去して鋼材となり種々の形に加工されてゆく。高炉で溶融する鉄鉱石は鉄の含有量は60%程度であるから鉄を溶融した後の残渣が残りの分だけ出る。これをスラグと称するのであるが、この廃棄物の利用が興味を引いたので以下に少し報告したい。

日本沿岸海域には海草のアマモや海藻の昆布などが生い茂る藻場が広がっている。藻場には多くの生物が餌を求めて集まり、産卵場や住み家として次の世代に命をつなぐ維持機能がある。地球環境についても藻類は光合成によって炭酸ガスを吸収し酸素を放出するという効果がある。

ところが最近の地球環境の変化から海水の温暖化が始まり、特に北海道の日本海側の沿岸が所謂、磯焼けという状態に落ち入り昆布が全滅してしまい、鰊などの沿岸漁業が危機に瀕している。磯焼けは温暖化以外に海中の栄養分不足にもよるといわれている。これに対して新日鉄住金、五洋建設、西松建設と東京大学を加えた産学提携の研究会として、海の緑化研究会が発足し鉄分供給により藻場を再生させ磯焼けの湖を回復させる研究開発が行われている。

藻や昆布などの栄養素として知られるのが鉄分であり、この鉄の供給源として高炉から出た廃棄物であるスラグが用いられている。スラグ以外に腐植酸の供給源として木材チップを発酵させた堆肥も同時に用いられている。

2004年から北海道増毛町海岸にてスラグと堆肥を使って実証実験が始まり、2005年には昆布をはじめとした海藻類が施肥をしない対象区と比較して単位面積当たりの生育量が100倍以上となることが判明した。分析の結果、海中の鉄の濃度が以前は沿岸部でも殆ど無かったのが1リットル中18ミリグラム、沖合50メートルで1~3ミリグラムとしっかり供給されていることが判明した。栄養状態が良いところであれば昆布の成長力は旺盛で1年間で数メートルの長さとなる。稚魚の住み家として沿岸漁業の発展に欠かすことができない上に、食料としてまたアルギン酸の製造原料として昆布の増産は誠に好ましいと言えよう。なお北海道のオホーツク海岸側で天然の昆布の成長が良く品質も良いのはアムール川の川水が冬季凍って流氷として多量の植物プランクトンを底部に付着して運んでくるので海水中の栄養分が豊富であるからである。

2014年からは増毛町の違う海岸で当初の6倍規模の実証実験を行っている。鉄のみならずチッソ、リンなどの濃度、季節ごとの濃度など詳細なデーターをとり、鉄については秋から冬にかけて不足しがち、春から夏にかけては窒素やリンが不足がちになる傾向がみられた。これらを調節することにより1年目には沖合10メートル、3年目には50メートルまで昆布が豊かに成長することが判明、磯焼け対策として有効であると実証されつつある。新日鉄住金の環境基礎研究部では”海の森づくり“としてこの計画を日本や世界に対して進めてゆくという。北海道増毛町の沿岸にまた鰊の大群が押し寄せる日が来ることを期待するものである。

ものつくりの本家としての日本の鉄鋼であるが、量的には中国が世界の鉄鋼需要の16億トンの半分を製造している。日本の輸出は1億トンであるが特に薄板の品質が良いことから、自動車ボデイや家電製品、さらに大口径のパイプラインとしてシベリアの天然ガスやメキシコ湾油田の海底配管などに使われているという。鹿島製鉄所においても見学中に従業員の訓練度や士気の高いことを感じたことを付け加えておきたい。新日鉄住金は平成31年4月1日から新たに新日本製鋼と山陽特殊製鋼を合併して日本製鉄と名称が変わった。我が国の物づくりの原点としての益々の発展を望みたい。

資料出典:季刊・新日鉄住金Vol.24、2018年12月
筆者紹介:発酵工業会社、国連食糧農業機構、ODAコンサルタントとして農産加工、流通改善計画の経験あり。日本エッセイストクラブ会員

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