福祉施設での食の共生

食品化学新聞 技術士リレーシリーズ 掲載日 2019年6月20日

内藤茂三 技術士(農業部門)食品・微生物研究所  

福祉施設の食事とQOL

「食事を摂る」ことは、身体的にも精神的にも健康に大きく影響し、美味しい、楽しいと言った個人的な充足感、あるいは食事を介して、会話がはずむ等により社会との繋がりにより自分自身が大切にされていることの自覚による満足感という自尊感情を得ることができる。

福祉施設の「食事」は普段家庭で提供される「食事」と共通点が多く、福祉施設では単調で制約の多い生活に変化と潤いをもたせ、折々に変化する季節感や人生の節目を利用者に伝えるために季節に沿った「行事食」を実施してアクセントをつけている。しかし、「行事食」はコストがかかり、準備に手間がかかるので大変であるとされている。

食事を摂ることは身体的にも精神的にも健康に大きく影響し、美味しい、楽しいと言った個人的な充足感、あるいは食事を介しての家族や社会との繋がり等により自分自身が大切にされていることの自覚による満足感という自尊感情を得ることができる。福祉の場では、従来の食事サービスのあり方を批判、反省し、食事サービスを受ける当事者のQOLを高めることが新たな目的、価値として考えられている。

福祉施設では四季の行事を感じる「ハレの日」には行事食を食べ、普段の「ケの日」には穀類、魚類、野菜類を中心とする食事を食べてきた。しかし、実際の施設の食事に対して「バルネラビリティ」を持っている利用者が多い。バルネラビリティとは、あるものが弱かったり小さかったりするために、傷つきやすかったり攻撃を受けやすかったりすることを意味し、「可傷性・傷つきやすさ」 等と訳される。「バルネラビリティ」を持っている利用者の援助は、従来の「申請主義」ではなかなか把握しづらく、いわばニーズが潜在化してしまうので食事を準備する福祉施設との共生が求められる。

福祉施設において、職員は食事摂取量が減少している高齢者の食事支援に関して、個別性を考慮しているが、QOL向上を考慮したものではなく必要な栄養素に重点をおいた ルーティンワークになっていることが指摘されている 。また、福祉施設環境は、外界と遮断されたカプセルの中の状況と同じであり、そこでの生活環境は規則的ではあるが、制約的で刺激が少なく、四季の変化や時間的経過を直接感じられない単調な負の生活であり、この施設の環境が利用者の食べたいという意識を奪ってしまう。さらに、福祉施設で不適切な食事介助と思われることの一つに「主食、副菜、主菜を混合して行う食事介助」がある。

施設の不適切な介助と思われる場面の一つに「食事介助でご飯とおかずを混ぜ合わせて食べさせている」ことが挙げられている。このような点を改良するのがご飯とおかずを混ぜ合わせた「行事食」である「お寿司」,「丼物」、「混ぜご飯」等であると考えられる。

福祉施設での「行事食」

福祉施設の「行事食」は1月の七草がゆ、3月のちらし寿司、手巻き寿司、巻き寿司、4月の花見弁当、5月のちまきご飯、たけのこご飯、6月のふりかけご飯、7月のうなぎ丼、白かゆ、8月の混ぜご飯、9月の栗ご飯、しめじご飯、10月の栗がゆ、栗ご飯、11月のオムライズ、12月の小豆ご飯が提供されている。
福祉施設の「行事食」の選択にあたり「どれほどの期待を持っており、どのように評価しているか」、「行事と行事食との関係にどれほどの関心を持っているか」を明らかにすることにより、福祉施設における「行事食」改善に資することができると考えられる。食事摂取動機は社会や文化の影響を受けることから、福祉施設の「行事食」選択動機を捉える必要がある。福祉施設の大きな仕事の一つは、利用者に食事を提供することであるが、本来の食事の目的は利用者のQOL向上にあると思う。

福祉施設の食事の準備支援者と施設利用者との共生

福祉施設の食事は食べる利用者の嗜好的及び栄養的に食生活を充実させるものであると同時に食事の準備をする支援者の労働を軽減するものである必要がある。「たけのこご飯」、「ふりかけご飯」、「栗ご飯」、「オムライス」、「カレーライス」、「混ぜご飯」等の行事食の利用はケア支援者との共生にもなると考えられる。

福祉施設では利用者の活動的な日常生活を支えることが重要であり、活動的な生活を過ごすためには食事が重要になる。福祉施設での「QOLを高める食事」としては調和の取れた郷土の味や食材料、ならびに季節を楽しむといった文化的な要素も必要になってくる。

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