特許情報を食品開発やビジネスに活用しよう

食品技術士 リレーシリーズ 食品化学新聞2019年9月12日掲載

中谷明浩 中谷技術士事務所  技術士(農業部門)

1. 膨大な特許情報

 我が国の2016年における特許出願数(国際特許出願件数含む)は約32万件、世界の特許出願件数は約312万件※1で、この数字を見るだけでも膨大な技術情報であり、「ビックデータ」であることが分かる。この情報ソースを特許マップなどの分析手法を活用して、特定技術分野の技術動向、主要出願人とその戦略を知り、自社の開発の方向性、事業戦略や経営戦略に生かす取り組みが大手企業を中心に行われている。

2. 特許情報の特徴

 特許情報は上述したようにビックデータであること、特許文献の技術内容によりIPC(国際特許分類)、FI(File Index)やFターム(File Forming Term)と呼ばれる細分化された特許分類が付与されていること、特許文献に記載されている技術情報が統一された記載方法によって明確かつ十分に記載されている、という特徴を有する。そのため、特許情報は権利のためだけではなく、その情報の特徴や特性を利用し、調査や技術分析ができる有用な情報源であると言える。

3. IP(Intellectual Property=知的財産)ランドスケープとは

 本題に入る前に「IPランドスケープ」を簡潔に述べると、特許情報を含む「知的財産情報」を経営判断や意思決定に活用していくことである。
 欧米先進企業において、近年、使用されている用語で、知財情報を活用した経営戦略・事業戦略を策定し展開するための手法である。我が国では2017年7月17日付の日本経済新聞朝刊(タイトル:知財分析 経営の中枢に)でも大きく取り上げられ反響を呼んだ。企業戦略において各企業の将来の事業ビジョンや製品戦略を示唆する「知的財産情報」を、企業経営や事業戦略に積極的に活用することで、事業競争力の強化や経営上のリスクを低減することができるという大きなメリットがある。

 他方で、特許情報を分析して開発・研究テーマを検討・設定する、他社の関連性の高い特許群を特定するなどこれら手法は、従来から行われていたが、その情報が持つ特徴から経営ステージにまで派生していったものと考える。

4. 特許情報分析で何がわかるのか、何ができるのか

 特定の技術分野といえどもやはり大量の特許文献の内容を分析しなければならない。これらの情報を例えば特許情報分析ツールなどを用いて、推移マップ、シェアマップ、ランキングマップなどの特許マップにより「可視化」することで、技術動向(トレンド)や特定出願人の開発技術の方向性や戦略などが分析できるようになる。

 これらの分析情報と、さらに市場情報や論文情報などを加えて分析することで、開発の方向性や研究テーマの設定、強み素材の新規利用開発、新規顧客開拓、共同研究開発者や提携先候補の検討、技術キーパーソンの特定や開発段階での特許侵害予防などができ、リスクを低減しつつ強い戦略を立案することができる。

5. 食品分野における「日持ち向上」技術動向の分析例

 「日持ち向上」機能を有する食品製剤を対象の食品に添加し、賞味期限などの延長を図る技術について、筆者が過去におこなった分析例の一部を述べる。

 日持ち向上技術に関する特許分類(Fターム)が付与された特許文献数の年次推移を可視化したマップ(推移マップ)を見ると、特に有機酸などの「カルボキシル基」を含む食品製剤の出願が2014年ごろから増加していることが分かった。そこで、この増加の理由を探るべく出願人分析を行った。本稿では、実際の製剤企業名は伏せさせ頂いた。

そうすると、製剤企業A社からD社の4社が主に特許出願をしていることが分かり、特に製剤企業B社が2014年ごろから、カルボキシル基を含む有機酸系の特許出願が増加していることが分かった。また、製剤企業B社の明細書を読むと、製剤そのものの特許出願だけでなく、生麺用、米飯用や揚げ物用などに使用する日持ち向上製剤である用途限定の特許出願も多く見られた。

これらの情報により、この分野において注力してゆくことが明らかで、特許権の確保を図り、優位にビジネスを進めていこうという戦略の現れであると読める。また、この場合、同業者はもちろんのこと、出願された用途食品に日持ち向上剤の利用を考えている食品企業にも注意が必要であると思われる。

6. 最後に

 特許情報を活用し、そして自社の強みを生かして開発の方向性や各種戦略を立案・実行することは研究開発や事業戦略のために有用であると考える。是非、特許情報を活用して頂きたい。

【参考文献】
※1:特許庁ステータスレポート2018 特許庁

食品化学新聞社の許可を得て掲載しております