「におい」はいろいろ

食品技術士リレーシリーズ 食品化学新聞2019年2月14日掲載

佐藤正忠 技術士(農業・経営工学部門)

 世の中には様々な「におい」がある。日本語には同じ「におい」についても、香り、特に優れたものは芳香、匂い、薫、馨、また好ましくないものには臭い等々いろいろな字がある。

香りや匂いは大体人に良い感じを与えるよい「におい」で、人に不快な感を与えない場合に用いる。多くの花や香水の類である。漢字には「匂」について特別な意味を持つ言葉が多い。臭は人に不快な感じを与える際に使用する。腐りかけたり、またすえた食品の嫌なにおい、薬品類や病院の独特なにおい(消毒集)、体臭、口臭、加齢臭、最近はストレス臭まである。また古い部屋とか祠、自動車内、神田あたりにある古本屋の店内には特別なにおいがある。

特殊な例では警察官が使うような「悪のにおいがする」とか「犯人(ほし)のにおいがする」とかあるいは「庶民的なにおいがする」などといったそれらしい雰囲気や趣きが感じられる場合にも臭いという字が使われている。あるいは外国の書類、雑誌、新聞には独特のにおいがあり、「ニューヨークのにおいがする新聞」とか「パリの華やかなにおいがするファッション雑誌」などの例がある。ここではいろいろなものの「におい」の話になるのであえてひらがなのままに記載する。まさに人生いろいろ、「におい」もいろいろである。

 「におい」は物から発散して、人間の鼻で感じる刺激である。動物などは人間より嗅覚がかなり鋭く、餌に含まれる嫌なにおいがあると絶対に食べない。輸入物管理所にいる犬の嗅覚はかなり優れている。検疫所で麻薬検出する犬の鼻は訓練されたとはいえものすごい。スーツケ―スの中に仕込まれた麻薬を発見するのだから。

 私は通常何でも食べる方であるが、モンゴルで屠殺したての羊肉はいただけなかった。もう10年ほど前になるが、モンゴルでの技術指導に行った際屠殺会社の社長に誘われて、首都から少し離れた別荘(といっても普通の包(ゲル))に案内された。昼頃行くとそこで羊1匹が捌かれている。さすが騎馬民族だけあって彼らの包丁さばきは見事である。包丁といっても鉈のようなものである。

 あっという間に羊1匹は肉塊になってしまう。骨は犬に、皮は干して毛皮にする。胃腸内の廃棄物くらいしか捨てる部分はない。肉は塩ゆでにして食卓に出る。内臓はほとんどそのままの形で卓上に出る。見ただけで食欲が減退するような代物である。肉は茹でても固くナイフで切れないし、骨離れが悪い。しぁも独特の匂いがある。同じ羊肉でも中国料理ではにおい消しにハーブや香辛料を加えてマスキングするのでさほど感じない。ここらに民族による調理法の相違がある。日本のラムやマトンも事前に処理されるので羊肉の特異臭はあまり感じない。

 また日本では魚類についても、いわゆる「くさみをとる」処理を行うため、食べる前にレモンなどの汁をかけて美味しく食べる。ここ辺りが和食の最たるところであろう。

世の中にはにおいに非常に敏感な人がいる。あるいは食物の好き嫌いにはにおいも大きく関係するところが多い。以前別の記事で書いたが、日本にもくさい食品はたくさんある。納豆も臭いといって食べない人もいる。大阪育ちの私も小さい頃はこんな臭くてネバネバするものがなぜおいしいのだろうと思っていた。中学生くらいになり、納豆には栄養やビタミンが豊富だといわれていやいや食べるようになった。今では普通に食べている。くさやも同様である。以前神津島のくさや工場へ行ってつけ汁を嗅いだときは卒倒しかけたくらいである。よくこのようなものを食べる人がいるものだと思った。でも酒のつまみにはよく合うものと感じたのは壮年期以降である。酒にもたとえば沖縄の泡盛には独特のにおいがあり、慣れるまでには時間がかかる人もいる。焼酎でも芋焼酎は臭いという人がいると思えば、このにおいがいいのだという人もある。清酒やビールも子供には決して良いにおいではないが、大人には代えがたいにおいであることは間違いない。女性の場合は妊娠するとそれまで気にならなかったにおいが急にきつく感じるようになることがあるという。また子供のころには非常に苦手なにおいも大人になるとあまり嫌なものと感じなくなることもある。大半は慣れであり、残りは生理的なものではないか、あるいは慣れてくるためであろうと思う。欧米人の中には海苔やワカメなどの海藻類に独特のにおいを嫌う人がある。逆に日本人の中にもブルーチーズはにおいが特殊と嫌う人がいる。私はブルーチーズも食べるには食べるが何ともいえない汗臭い「におい」はあまり好きではない。

 においの感じ方はお国柄にも関係してくる。でも食品技術者にはにおいの判断は非常に重要なことである。いくら計器が発達した世の中でも機械では食品の分別はつかない。機器分析で検出されたにおいの成分を混ぜてもよいにおいは得られない。五感による判断は今も重要であると思っている。官能検査は判定基準が明確であれば非常に有効な判断基準になる方法である。においにまつわるお話をしました。

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