HACCPスキルアップ研修

HACCPを解きほぐす(7) 食品化学新聞2019年8月29日掲載

浅野行蔵 技術士(生物工学/総合技術監理部門)

 HACCPをいかにして社内に根付かせるか?に応えるためにHACCPリーダーのためのスキルアップ研修会を開催している。研修会の開催ごとに強い手応えを感じる。この研修会を通じて「わかった!」、「やれる!」と実感する参加者が多いのである。

どんな研修?

研修会の参加者は、HACCPについてすでに学んでおり、社内ではHACCPリーダーなど、HACCPの運用にかかわっている中小企業の社員である。だからスキルアップ研修なのだ。研修は3日連続で行い、参加者で4~6人の小集団(HACCPの手順1)を作り、それぞれの小集団がチームとなりHACCPプランを作る実戦型研修である。

 研修は、ポストイットと模造紙を使って、HACCPの手順に沿って進める。特定の1つの食品に絞って製品概要書を作り(手順2)模造紙を壁に貼ると皆が見えるので討論がわかりやすい。ポストイットに記載し、模造紙のどこに貼るか、位置を変えて貼ろうと相談したり、参加者どうしが顔を見合わせての討論が進む速戦型となっている。パソコンは使わないので個別の作業時間も不要で、下を向かず顔を見合わせての議論が活発に進む。手順ごとにグループ同士の発表会も入れて、他グループの進行、議論の内容がわかるようになっている。複数の食品のHACCPプラン作成が同時進行で進む。

 グループのメンバーは、すべて異なった会社のHACCPリーダーである。いずれも食品企業であるが、食品には実に様々な種類があるので、幅広い食品製造が議論される。HACCPの手順に沿ってプランを作り上げてゆくというシンプルな研修であるが、他企業からのHACCPリーダーと議論することで、参加者は自分の全知識、全経験をフル動員して議論をすることになる。参加者自身が教師であり生徒であり、はやりの言葉で言うならアクティブラーニングの研修会である。それぞれ製造している食品が異なるので、今まで考えたこともなかった原材料の安全性や加工方法の確認や管理方法などについても他の参加者に教え、教わり、議論に加わることになる。この経験は脳みそを強く刺激し、自社の原材料や加工方法について、今まで意識していなかった深さまで考えを至らせることになる。

成長するHACCPリーダー

研修で養った見方、考え方をそれぞれの職場に持ち帰ると職場の見え方が変わってくる。参加者の声から拾ってみよう。「今までは机上での作業が多かったが、実際の現場確認にいく事が増えた」とリーダーの行動が変わった方。「危害の可能性について、今まで気にしていなかった所から、再度、見直している」とおおいに「心配性(Hazard)」を発揮されだした方。さらには、「『作業の流れ』という意味での[工程]という事を今まで以上に意識するようになった。『どの場面』という断片的なものではなく、『流れで言うとどの瞬間』という視点になった』と製造管理者として開眼したとも言えるほどの大きな進歩をもたらしています。「FSSC22000取得に向け取り組んでおりますが、現在の危害分析を修正する必要があることに気がつきました。危害の具体性が欠けていました」などもあった。

 一方、『会社の清掃・衛生マニュアルだからと言って「100%正しい訳ではない」という事。「前からやっている方法だから…」が一番信用ならないと思った。会社が決めてマニュアルにするのではなく、全員が参画して自分の製品を守るというスタンスが大切』と自分達の職場は、商品は、自分達が守るのだと覚醒したリーダー。

 「危害分析は一人で考えても限りがある。HACCPチームの重要性が体験できた」とHACCP手順1の重要性の実感を述べられた参加者が多かった。自らHACCPリーダーとしても「他者の意見を否定せず、どんな意見も『~かもしれない』と受け入れる考え方が、活かしていけると考えた」とリーダーの姿勢についても学びがあったようだ。

 HACCP手順1の重要性は体感できて、会社に戻ってみると『研修会では、作っている食品が異なっても、作り方を説明しただけで危害を一緒に考えられたのに、会社に戻って製造担当社員と話をしても、やはり「心配事」が少ない。もっと、今の作業を疑う処から始めないと、難しいと感じた』、あるいは、『HACCPの講習会等に出席したことの無い従業員の教育が課題』、『プランは全社員が参画しなければうまくいかないという意識が強まった。特に現場担当者の視点は重要である』など、多くの参加者が自分の職場での壁に突き当たり、HACCPの考え方、行動の仕方を会社全体に浸透させる必要性を実感する境地になった。

HACCPリーダーが、現場で孤独であってはいけないと意識を持ち始めたのである。会社全体としてHACCPを軸とした製造工程の構築が必要であることの理解が進んでいる。

食品化学新聞社の許可を得て掲載しております