安全性管理 「自動車」と「食品」の決定的な違い

HACCPを解きほぐす(8) 食品化学新聞2019年11月14日掲載

浅野行蔵 技術士(生物工学/総合技術監理部門)

そもそもHACCPとはなにか?という話の導入のために「自動車」と「食品」の安全管理方法の違いを話している。マーケットには、たくさんの種類の食品が、それぞれきれいなパッケージで包装されて並んでいる。そのどれもが安全検査を受けずに売られているのである。同じロットで検査をされている食品もある。でも、棚に並んでいる食品そのものは、一つとして検査されているものは無いのである。

 安全かどうかの検査をするには、パッケージを開いて、中身をサンプリングして、微生物や化学検査をする訳である。その分析の結果が、合格の結果が出たとしても、サンプリングしたその商品は、パッケージも開いているし、サンプリングしたのだから容量も不足となっている。売り場に並べても誰も買う人はいないだろう。一つが合格なら同じロットの商品は、検査しなくとも同じように合格と言えるのでしょうか?1ロット1万個作った商品の何個を検査して何個が合格だったら良いのだろうか?1万個すべてを「安全」と言える検査の個数はないのである。つまり、売り場に売っている未開封の商品は、すべて検査していない商品であり、その安全性は、検査で証明できていない。検査しなくとも安全と言える製造方法を行うことしか方法がないのだ。

検査しなくとも「安全」と言える製造方法を作ってゆき、製造を管理するのがHACCPによる方法だ。

 車では、どうだろうか?新車で購入するのに全く走っていない車でないと買わないという人はいない。製造工場から店舗まで、そして自宅まで商品は自走によって届くわけだから。おまけにマスコミで話題になった完成車検査というのが行われており、完成した自動車をローラー上で走らせて、ブレーキ性能などを検査した上で出荷されている。新車で購入しても車全体が包装されているわけでもないし、距離計はゼロではないし、タイヤも少しは汚れていて、真っ新ではない。これで通用しているのが車の世界である。食品とは、根本的に商品形態が異なる販売状況なのだ。食品の厳しさがここにもあるわけである。

 それを解決するのが、HACCPに基づいた製造工程の構築と製造管理である。CCPでの製造管理に合格していたら、完成品検査をしなくとも予定通りの安全性能が保証できる。製造工程のCCPにおいて全数を制御するように製造するので安全性能を保証できる訳である。

 文章上は、これを理解して運用している乳業業界なのさが、いくつもの会社が商品完成後1日間保存してから出荷している。製造後の1日間で検査結果が出るのを待っているとのこと。微生物検査の結果が合格だったら出荷するとのこと。HACCPは、完成検査不要ですが理解されていますかと質問したところ、十分に理解しているが、この業界はどの会社も1日間の検査待ち時間をおいて出荷しているとの返事であった。

 この情況を解剖して見ましょう。製造後の製品を1日保存するための冷蔵倉庫が必要である。牛乳はかさばる食品ですから大きな冷蔵庫が必要である。2週間程度の賞味期限の1日を事前に使ってしまうわけなので販売期間が短くなりフードロスも多くなる可能性が高まる。企業利益には両方マイナスで、その分の単価アップがあるわけである。そこまでのマイナスを背負いながらなおかつ1日間を出荷せずにおいているのはなぜか。

「他社もやっているから」と日本人らしい答えを乳業会社社員は返答してくれたが、その背景は?乳業業界が実施しているのは、正確にはHACCPではなく総合衛生管理製造過程(いわゆるマル総)で、たくさんの書類作成が必要な制度である。黄色ブドウ球菌の毒素による1万3千人の食中毒事件(2000年)は、マル総が行われていた工場での停電が原因だった。マル総は食中毒の予防に役立たなかったことで有名になった。

乳業業界では、マル総を実施していても不安がある。マル総でなく正しくHACCPを導入して頂きたいものである。社員にはすでにHACCPの知識を十分持っておられる方が多い。今こそ「心配事」Hazardを残らず出して、それら一つ一つへの会社としての対応の決断してゆかねばならない。常に「心配事」を探し出して、対応策を作ってゆくというPDCAサイクルをまわすということである。安全性の高い合理的な製造でコストも下がり、会社にも消費者へも利益につながることだ。

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