成功・失敗事例から学ぶ商品開発、市場開発とそのポイント ⑦ 焼きそばの大量炒めへの挑戦と成功(成功事例・・炒め機)

食品と科学 VOL.56.NO.5 平成26年4月10日

鈴木修武 技術士(農業部門)  鈴木修武技術士事務所 

1.炒め機の開発経過

  開発した当時は、炒め油と炒め機ともこんなに売れ、普及するとは思わなかった。新しい開発テーマを見つけるのにただ毎日が挑戦の連続であった。研究の本流は植物油の製造技術で、これらの利用技術即ち技術サービス、販売促進やクレーム処理等の販売に関わる仕事は傍流であった。たまに販売員との待ち合わせのために営業部に行った折など、どこのクレーム処理かと言われたものだった。仕事柄、植物油の既存・新規の販売促進(主に各種植物油の特徴、使用上の説明等)、クレーム処理で既存顧客の現場に行くことが多かった。現場の技術者や作業員と意見交換するのは、実験では得られない貴重な情報源となり結構面白かった。

 離型効果絶大な炒め油の販売が順調に伸びていた時、販売先から、油の性能は良いので炒め機にも良い物はないかと相談があった。商社や機械メーカーを当たったが見つからなかった。

あるメーカーが炒め機を開発したとの情報を得、発表会に立ち会った。ところが、油が発煙点を越えて加熱したため、もうもうと煙が出て、しかもむし麺が回転鍋に焦げ付き、さらにツララ状態で加熱を続けたので、火災の予感がして実験の中止を促した。大切な顧客にはとうてい紹介できる炒め機ではなかった。市場に良い炒め機がないのなら自社開発をしようということになり、早速検討を始めた。加熱の方法、熱源、麺線が切れない構造、操作性の簡便性等を課題に議論を重ねた。良いアイデアが出ず月日が流れ、フライヤーの開発時の休み時間に議論した。ドラム型鍋、ミキサー型の鍋やホーク型、羽根型の撹拌棒等面白いアイデアが出た。機械技術者がリーダーの持ち込んだ週間誌の丸くなった形状からカタツムリ型をした鍋を回転させるというアイデアを出した。これは担当者4人が日頃開発しようとする意識があり、考案していた結果と考える。考えるのは何時でも出来るのではないか。

2.商品開発の予算が出て炒め機の製作、販売

アイデアが出たが、試作するには開発計画書を出して開発費必要である。当時、会社は、機械の製作・販売を2、3度失敗しており、上司も経営者も決断が鈍ったのかもしれない。担当営業部長が他の部門に移動するときの餞別代わりに開発費が出た。その上司がいなければこの炒め機が出来なかったと考えられる。その後がまたいばらの道である。アイデアは出て程なく小型の実験用炒め機が出来上がった。その後、木製の試作機、実用機も制作し、国際食品工業展(現在では通称FOOMA)と言う展示会に出展した。焼きそば機のドラムは耐熱性の塗料のために全体的に黒く、ガスバーナーが下にあった。焼きそば用炒め機が普及していないので、お客曰く「この焼却機はなにを得意に焼却するですか」。私を含めた課員は唖然とした。

木製の試作機

発売して約1年間1台も売れず、社内では万里の長城、戦艦大和、ピラミッドと並ぶ愚作等と今世紀最大の失敗作と噂された。

 苦労して販売した1年後、ある企業の社長がデモ運転を見て即決し、一号機のお客様となってくれたことは鮮明に覚えている。

3.各温度における焼きそば炒めの温度変化と風味試験

炒め機の必須要件として「高温で短時間に炒める」が重要である。
 このデータは、炒め油の販売の時に作成されていたので述べる。

 フライパンの表面温度が、150~400℃まで50℃毎に温度を設定して焼きそばを焼いた時の温度変化を図1に示した。

図1 焼きそばの炒め温度とフライパン温度の経時変化

 試験方法は、蒸し中華めん200gに12gの炒め油をまぶし、フライパンの表面温度が既定温度になった時点で蒸し中華めんを投入、よくかくはんし3分間加熱しながら温度測定をした。その後、食感、香り、外観の風味試験をした。その結果を表1に示した。

表1 各温度における風味試験結果

  風味試験 総合評価
温度 食感 風味 外観  
150℃ × × × 加熱不足
200℃ × × × 風味と食感とも不足
250℃ 麺が良く焼けていてローストフレーバーもあり、風味良好
300℃  
350℃  
400℃ × 部分的に焦げ目が付き外観を損なう

鈴木修武:焼きそば製造と植物油より

 フライパンの温度変化は300、350、400℃の各温度では最初の10秒で約100℃近く急激に温度が低下し、次の10秒で少し低下変化し、60秒後から緩慢な低下になった。炒め物をするのはこれくらいの温度低下になるものと考えられる。

次に250℃の温度では、10秒後では約50℃の温度低下で300℃以上よりも緩慢であった。次の10秒でも同じくらい低下した。60秒後からさらに緩やかに低下した。初期温度が200℃では上記温度と同様であったが、60秒後過ぎると徐々に上昇し180秒ではむしろ上昇した。

初期温度150℃では当初、温度低下はするが30秒後より温度低下は少なくなり、60秒くらいまでほぼ一定であった。その後徐々に温度上昇した。

調理師に炒め物の難しさを聞いたことがあるが、炒めの初期温度を焦げない程度に高くし、短時間に炒める必要があることを実感した。

「おいしい焼きそばとは」、問われれば時代と共に変化し最近ではシコシコした歯ごたえのある焼きそばよりも柔らかい焼きそばが求められるが、筆者は次の様に考えられる。

 食感は、表面は固くしっかりして弾力性があり内部は暖かくソフトであるがシコシコしている。風味は炒め感がありローストフレバーがし、ソースも均一に掛っている。外観は焦げ目がなく油が均一に掛っておりツヤがある。総合として麺線は長く油が適度に掛っている。

 風味試験の結果は、150℃で3分間加熱したが、可食状態ではなくさらに3分炒めた結果やっと食べられる状態であった。150℃では明らかに加熱不足であった。200℃では3分で可食状態であったが炒め感がなく食感も弾力性がなく加熱不足であった。250~350℃では炒め感があり炒めた香りも出て食感も良かった。400℃では、食感も風味も良かったが部分的に焦げ目が出て評価を下げた。焼きそばの適当な温度は250~350℃と考えられる。

 従来の鉄板やニーダー式の炒め機で調理した焼きそばの長さを、ものさしで測定したところもともと30cm程あった麺が無残にも2~6cmに切れていた。箸でつまんで見たが興醒めのする焼きそばであった。一方、わが社の炒め機クックマスターは、構造上良く出来ている。また、調理品を痛めないかくはん羽根も工夫したところほとんど麺線は短くなっていなかった。

実機の作製現場(右から2人目筆者)

図2 炒め機の調理のしくみ
㈱ホーネン:クックマスター カタログより

図2に示すように、麺、肉、野菜等をカタツムリ型の外周部に入れて回転させると、やがて中心部に入りまとめられる。さらに回転が進むと外周部に戻るという動きの繰り返しで調理が進む。ジャージャーと言う実に良い音がして、いかにも炒めているという実感がわく。品温を計れば80~95℃まで温度上昇する。当然微生物測定しても検出されない。

 短時間で炒めた焼きそばは非常に好評であった。これを証明する出来事を紹介しよう。油のギフトセットの発表会が某高級ホテルでデパート、問屋、ユーザーを招いて行われた。ここでこの炒め機を発表する機会があったのだ。おいしい肉料理、すし、バーベキュー、デザート等の高級料理に混じって、小型炒め機による焼きそばの実演、試食デモをやった。打ち合わせでは、30分毎に計4回の焼きそばを提供し、万一余ったら社員に配ることとした。ところが、デモを始めた途端超人気で、隣のすしよりも列が長くなり、やむを得ず小盛りにして大勢の方に行き渡らせることにしたものの、瞬時に品切れになった。販売部長から連続して調理してくれと要望され、結局予定の4回分を一気に調理してその場をしのいだ。社長からは目玉の新製品実演・展示であるのに、なぜもっと沢山用意しないかと叱られ、同僚からは食べ損なったと怒鳴られたのは良い思い出である。 

4.売れる商品はなく販売に四苦八苦

 当時の焼きそば調理の作業環境は最悪であった。暑く、油臭く、大変な肉体労働で、新人がやれば途端に明日から出社しなくなるほどきつい職場であった。この作業環境をなんとしても改善したかった。炒め機を用いれば、材料の投入、製品の取り出しに人手が掛る程度で、マニュアルどおりにやれば、誰でも同じ品質の製品を作ることができた。1時間もあれば30Kgの焼きそばを少なくとも四回以上作ることができた。さらに炒め油を使えば、コゲ着かず洗浄も非常に簡単で、ある現場では23時間稼動の1時間洗浄でも充分に作業が出来た。まさしく炒め油のお陰で炒め機が出来、炒め機が売れれば炒め油が売れる好循環になった。そのために、機械のハードと平行して、食品製造業としてのソフトも徹底的に実験検証した。焼きそばでの油の量、炒め温度と時間、炒める順序等を風味試験で品質を確かめながら販促資料を作った。

 販売されても1年間は受注ゼロであった。大手、中堅中小企業は実績を重んる。新規開発商品だからもちろん実績ゼロである。九州のオーナーが多分ポケットマネーで受注1号になった。経営者や上司はお役目であるので当然かもしれないが、そのときに、他の部門の同年代の陰口が耐えがたかった。開発者はこの風評に耐えて頑張ってもらいたい。

当時、大手製パンの顧客より、炒め物は保存性が良くないと言われていたので、私達は炒めた焼きそばを48時間保存した。その結果を表2に示した。

表2 開発した炒め機で炒めたソース焼きそばの一般生菌数と大腸菌群数の消長

  原材料の生菌数  
材料 一般生菌数(個/g) 大腸菌群数
中華むしめん  1.0×10 陰性
豚肉  1.8×10^5 陽性
人参  7.6×10^3 陽性
キャベツ  3.8×10^3 陽性
ピーマン  1.5×10^4 陽性
たまねぎ  6.0×10 陽性
     
  保存性 (10℃保存)
経過時間 一般生菌数(個/g) 大腸菌群数
製造直後 10以下(ND) 陰性
24時間後 10以下(ND) 陰性
48時間後 10以下(ND) 陰性

  ND=検出限界以下で検出されず

㈱ホーネン:クックマスター カタログより

炒め直後は一般生菌数も大腸菌群数も検出されず、さらに48時間保存しても変わらなかった。デモ試験の品温80~95℃に達していたのと、微生物試験の結果から納得して購入してもらえたと考える。 
 カタツムリ型炒め機とドラム式の炒め機の2機種を製作・販売し、お蔭様で四百台以上が販売されている。

市場では、H社以外にも4~5社が炒め機を開発し、加熱方式はガス、電気から電磁誘導加熱(IH)と進化を遂げ、HACCP対応、連続炒め機等の多種多様な炒め機も出ている。また、大きな炒め機やチャーハン専用の炒め機も市場に出ている。しかし、機械専門メーカーの多種類の炒め機に負けて現在では、これらの商品は終売した。

 5.おわりに 

 振り返って、なぜ炒め油と炒め機が売れたか。七人の侍ではないが、リーダー、機械屋、技術営業屋、食品化学屋の異色の組み合わせでだれが欠けてもなし得なかったであろう。さらに現場の担当者や社内で賛同してくれた多くの人々。新商品開発は一人の力でできるものでなく、新しい物を作ろう、売ろうとする挑戦者たちのロマンである。

 その後、この炒め機を開発、販売したことにより、混合かくはん製造会社に技術顧問として就任した。食品関連、添加物業界、産業廃棄物などの助言や展示会の説明員としてどこかで皆様にお目にかかるかもしれない。

 参考文献    

鈴木修武ら:焼きそば製造と植物油 p.98財団法人杉山産業化学研究所年報(2007)
食品技術士センター編 鈴木修武共著:食品技術の革新に挑む 幸書房(2006)
鈴木修武:炒め機の上手な使い方 VOL.8 p.56フードリサーチ(1999)
鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 幸書房(2010)
㈱ホーネン:クックマスター カタログ
鈴鹿 明ら:炒め装置 公開特許公報 昭57-57515
平岡秀一ら:炒め装置 公開特許公報 特開平10-52371