成功・失敗事例から学ぶ商品開発、市場開発とそのポイント ⑧成功事例―酸化安定油(米菓用サラダ掛け油)

食品と科学 VOL.56.NO.6 平成26年5月10日掲載

 鈴木修武 技術士(農業部門) 鈴木修武技術士事務所

1.酸化安定油の開発経過

 サラダ掛け油を開発した昭和50年代前半は、官能的な品質管理から数値に基づいた厚生省菓子類の指導要領が出た。この要領は揚げ菓子類で酸価3及び過酸化物価50を越えないことで、概要を表1に示した。

表1 揚げ菓子類の指導要領    
 指導要領 基準
処理後の粗脂肪 10%以上
酸価と過酸化物価 3を越え、かつ30を越えないこと
酸価と過酸化物価 5を越え、または50を越えないこと
厚生省:環食第248号(1977) より

この要領は揚げ菓子を対象としていたが、菓子全体の基準になった。菓子業界がパニック状態であったと言っても過言でなく、会社としての販売促進部門を作り、技術支援をすることにして、技術サービス課を設置した。米菓用の澱粉で先行していたコーンスターチ課の顧客をターゲットにした。揚げ油としてオレンジサラダ油と製油会社では珍しいフライヤーも販売していたので、同じマーケットにこの商品を販売した。以前からサラダ掛け製品の米菓に保存性が要求されておりこの対策に開発のテーマにした。

サラダ掛け油とは、焼いた米菓生地に油分含量で約5~10%になるように掛ける油である。揚げ米菓に比べて油分が少ないので酸化しやすく、従来品より2~3倍の酸化安定性が求められる。

植物油は、主に熱、空気(酸素)、光などにより酸化されるので、この原理に基に様々な方法で測定し、酸化安定性試験を表2に示す。

  表2 各種酸化安定性試験
  測定試験法 測定項目
酸価 過酸化物価 官能試験 その他
酸化安定性 AOM試験      
CDM試験       電気伝導度
オーブン 25℃  
 試験 40℃  
  60℃  
  実用試験  
蛍光灯照射試験  
鈴木修武:食用植物油と品質保持 より

① AOM試験は、試料油を試験管に一定量取り、約98℃に加熱した後、清浄空気を吹き込む。そして、この試料油の過酸化物価が100 meq/kgになる時間を測定する試験法である。AOM値の長い植物油は安定性があると言える。

② CDM試験は、試料油を特殊な試験管に取りAOM試験と同様の温度と一定量の空気量を送り込む。酸化によりできた揮発性分解物を水中で捕集し、水の電気伝導度が急激に変化する変曲点までの時間で測定する方法である。測定値を図1に示す。

図1 代表的な植物油のCDM値 
鈴木修武:食用植物油と品質保持 より

 両試験法は、植物油の持っている基本的な特性を調べることができ、オーブン試験、実用試験などと良く傾向が一致するので酸化安定性の指標になる。

図2 炒め専用油のレシチン含量とAOM試験
(過酸化物価が100meq/kgに到達する時間)
コントロール コーン油
1大豆レシチン 1%+乳化剤2%を含むコーン油
2 大豆レシチン 2%+乳化剤2%を含むコーン油
3 大豆レシチン 3%+乳化剤2%を含むコーン油
4 大豆レシチン 3%を含むコーン油
鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 より

③オーブン試験は、25℃では常温での酸化安定性を調べ、40℃では夏期の流通、倉庫での温度を想定し、60℃は温度による促進試験でこの1日は夏期の10日に相当する。実用試験とは、各温度・各季節を想定して商品の容器・包装で保存試験をする。植物油を使った製品の保存試験も同様の方法で行うが、同じ油を使用しても製造法や油分含量、形状、包装形態などが違えば保存性も異なるので新製品では必ず保存試験をすることをお勧めする。

④蛍光灯照射試験は、光に対する保存試験で照度を変えて試験する。商品がどの業種業態で売られるのか。陳列棚のどの位置で売られるのか非常に重要である。これらの情報に基づき植物油、包装資材の選択や脱酸素剤の使用有無などの光対策が必要である。例えばコンビニエンスの商品棚の上中下段ではそれぞれ2000、700、200ルックスと違う。最近では24時間営業もあり以前では酸化クレームの無かった商品でもクレームになる可能性が十分ある。

商品開発は、まず酸化防止剤(ビタミンE、ビタミンC、BHA、BHT等10種類)の組み合わせをした。ハネない油の開発時に図2に示すようなデータがあった。酸化防止剤は、コストが高く色々と悩んだがハネない油の開発中に大豆レシチンの抗酸化性に注目し、価格も当時の社内価格で200円/Kgで、ビタミンCは当時の価格で2万円/Kgであり、ビタミンEは、1万円/Kgであった。また、BHAもBHTも検討したが、イメージ的にあまり使いたくなかったが実験はした。酸化防止剤の組み合わせで商品化のできる見込みがついた。

写真3 使用商品イメージ(上記写真2の中身の商品)

開発は、比較的に順調に進んだが思いがけない落とし穴があった。実験室の結果で実用試験をしたが、実験室の結果と異なり、油で酸化安定性を示した油は、実際の米菓ではあまり良くなかった。その後、現場試験をし、現場のデータを重視し図3に示した商品になった。

図3 サラダ油と酸化安定油の保存性(37℃)
サラダ油 ▲ 酸化安定油 ■
鈴木修武ら:米菓製造と植物油 より

2.市場開拓の経過

商品を開発して市場開拓したが売れなかった。この商品の大きな市場は米菓の本場の新潟地域であった。サラダ掛けやフライ商品などの油を含んだ製品は、油の含油量や商品の膨らみの程度、塩掛けや醤油掛けなどの味付け、包装資材など、その商品特有の賞味期限があり、その商品で保存試験をしないと決めることができなかった。

写真1 酸化安定油のカタログ ホーネンのカタログより

そこで、顧客別と商品別の保存試験して顧客にその情報を伝えて販売していた。
すなわち、その顧客の品質管理をある程度把握して、油の商品が納入されていれば酸化によるクレームがないような顧客サービスをしながら商品を販売していた。
この販売方法は非常に地道であるが、顧客の立場になればメリットがあった。

 中小企業をターゲットにした理由は、過酸化物価や酸価は有機溶剤を使うので、ある程度の実験室と溶剤を取り扱う試験員も必要で、これらは負担であった。

そこで、過酸化物価や酸価などの測定をしながら、商品開発、品質管理、製造工程の技術などコンサルティングを行いながら販売促進をした。しかし、この方法は測定件数が多くなり市場開拓には時間と労力が掛かる。例えば、商品1点で水分、油分、酸価、過酸化物価を測定し、その後、促進保存試験で、60℃保存の部屋に入れて3、6、12、15日後(室温で3~6ケ月相当)に、過酸化物価を測定し賞味期限の助言をしていた。顧客でも2~3商品があり、顧客が増えれば点数が増加する。そこで女性研究員とタックを組み、1日の測定件数を増やして対応した。また、器具も洗浄を含めて1日にできる測定件数を把握し効率化を求めた。この体制が整い、東京、神奈川、埼玉などの近場に顧客に絞った。

時間経過とともに新潟地域の販売の阻害因子が判明した。県内の公的な試験機関の幹部が「同じ油でも酸化安定性が長いのはなにかおかしい」との情報を得た。

その当時はノウハウとして表示義務のない添加物を使っていたので疑われても当然と思った。首都圏より賞味期間が長くなる情報が単発的にもたらされるとボチボチ納入する顧客がなった。

たとえばこんな試験や相談もあった。

・製造工程の過酸化物価の消長
・・・・図4に示すように原料にも少量の油分があり、製造工程で酸化されて過酸化物価が上昇し、約5~10倍の酸化安定油を添加することにより過酸化物価が減少し製品になる。従来の酸化能のないサラダ掛け油はこの少量の酸化された油により酸化が促進されて保存性が悪くなると推測した。基礎的な取り組みも企業ノウハウになった。

図4 製造工程中の過酸化物価の消長
油分(%) 原料 0.3% 乾燥後 0.3% 素焼き後 0.3% 製品 6.8%
鈴木修武ら:米菓製造と植物油 より

商品の過酸化物価にバラツキがある
・・・・商品を分析したが、原因が判明しなかったので、現場を見て、現場担当者に事情調査した。その結果、生産が大幅に増え、在庫が増して保管場所がなく、冷却できない商品を隙間なく積み上げて内部の商品の温度が高くなり、一部の酸化臭がでるクレームになったと判断した。

・出荷時に過酸化物価が高い
・・・焼きの工程で急激に高くなる。この酸化安定油を使えば保存性が良いので賞味期限が充分でありクレームにならないと判断した。など

いろいろな相談に乗りながら販売促進をして徐々に販売量が増えた。
商品化後、かなり時間が経過した時に思い掛けないクレームが発生した。

 その商品は流通後、約2週間で酸化クレームの返品があった。当初、この商品を疑われたが、問題がなく、工場のラインを全て調査したが問題がなく、クレームが発生した。顧客と調査した結果、コンビニエンス向けに発売した商品であることがわかった。図5に示めすような蛍光灯照射試験で光量が多いと過酸化物価が上がるデータを思い出した。

図5 光線照射の距離による違いと保存性 15W蛍光灯 室温保存   
▲ 100cm(約200ルックス),
■ 50cm(約700ルックス),
● 12cm(約2000ルックス)
鈴木修武:食用植物油と品質保持 より

スーパーの照明は、700~800ルックスであるが、コンビニエンスは、2千ルックスでしかも24時間営業で、光に対する影響度が飛躍的に増加したことが原因であった。そこで光対策として、透明の包装をアルミ包装に変更した。その結果を図6に示したように包装資材を替えることにより良い結果が出た。これは時代を考える大切さと現場で解決する良い事例であった。

図6 包装の違いによる保存性
2000ルックス 25℃保存  
▲ アルミ包装◆  透明包装
鈴木修武:食品と科学 ㈱食品と科学社(2014)より

写真2 使用の商品イメージ(開発当時、製品は現在)

 その後、図7のようなより強力な酸化安定油を求められハーブ抽出物を添加した商品を開発したが、ハーブの香りが強く風味で不合格であった。

図7  ハーブ抽出物の濃度による保存性
鈴木修武:食品と科学 ㈱食品と科学社(2014)より

 また、オレイン酸の多い油種でも図8のような商品を開発し一部で採用された。
その後、会社は合併により、酸化安定油は名前を変えて販売されているが、改良は常にする必要があり、この商品の姉妹品も多く発売されている。

図8 高オレイン酸植物油を使用した酸化安定油で製造した米菓の60℃暗所保存試験

参考文献
鈴木修武:食用植物油と品質保持 食品品質保持技術研究会(2002)
鈴木修武・加藤昇:米菓製造と植物油 杉山産業化学研究所年報(1999)
厚生省:菓子の製造・取り扱いに関する衛生上の指導について 環食第248号(1977)
鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 幸書房(2010)