成功・失敗事例から学ぶ商品開発、市場開発とそのポイント⑨ 最後発からの販売と提案型営業  成功事例・・・パーム油の販売その1)

食品と科学 VOL.56.NO.7 平成26年6月10日発行

鈴木修武  鈴木修武技術士事務所 

成功事例・・・パーム油の販売 その1

1. 提案型営業と技術支援

豊年製油(現J-オイルミルズ)に入社し、37年間ほとんど商品関連で会社生活をした。私の強みは新商品開発や技術開発であるが、研究所に在籍と言うと開発ばかりと誤解している人が多い。現場を知らない企業の開発者は成功しないのではないか。

平成になり嶋社長に代わり、提案型営業を提唱した。
提案型営業をするために技術が必要であり、商品開発も重要であると言われた。社長自身接着剤の出身で技術を基に営業をし、営業にも技術が必要と推進した。商品開発には、初回でも述べたが経営幹部の役割が非常に大きかった。

社長が変われば、社員も変わった。提案型営業の技術部門の役割は、表1に示した。その支援の重要な部分は新商品開発である。それも売れる商品の開発であり、その商品の周辺情報の提供である。売れる仕組み作りは有力な販売促進である。商品のマイナーチェンジをして、既存の市場へ販売促進をすることも必要である。その技術情報やデータ作りである。データを作るには当然その現場や市場を知る必要がある。

表1 提案型営業の技術支援方法

支援方法 具体例
新商品開発 売れる新商品開発・周辺情報の提供
既存市場への商品開発 商品のマイナーチェンジ
売れる仕組み・依頼分析・技術サービス
既存商品の技術支援・援助 顧客のクレーム処理・技術援助
情報提供  
新商品の撤退 タイミング良く撤退
鈴木修武:技術者が「魚の釣り方」を教える フードリサーチ(2009)より

 既存商品の技術支援の方法論は、各社によって考え方に違いがあるが、ひとつの方法論を述べたい。これは広義の販売促進になる。ここでいつも問題になるのは費用対効果である。費用を多大に掛ければ顧客が喜ぶが会社内の賛同が得られなくなり長続きもしない。担当者が将来を見込んで市場を考えて行っているが、営業部門や経営者と良く相談して同意を得る必要がある。

また、顧客をいかにファンや味方につけるかである。私たちが行った方法が参考になればと思う。技術支援でよく話したことは、技術と言う魚をやったが定着しなかった。なぜか。魚をやったが、釣り方を教えなかったのではないか。

 あなたは魚をあげますか。それとも魚の釣り方を教えますかと言えば大多数の人は釣り方を教えると言う。「言うは易し、行い難し」であるが日頃からの訓練しておけばやさしいのではないでしょうか。飢えている人がいれば魚をあげるのが親切である。しかし、魚をあげれば空腹を防げるがまた魚をあげなくてはいけません。魚の釣り方を教えればより効果的です。いつ、どこで、どんな魚が、どんな仕掛けや餌でどのようにしたら釣れるか教え、知識を提供し、行動をサポートすれば当初は時間が掛るが、最終的には手がかからなくなる。

顧客との関係を図に書くと非常に分かりやすい。顧客は該当部署(技術者と販売員)に対していろいろな情報提供を求めてくるが、一度だけや一方通行でただ受けとるだけである。しかし、図1のように顧客と該当部署とキャチボールすることにより質問の発信や情報の共有を繰り返す。技術提案することにより顧客と該当部署は技術で対等な立場になり、十分に情報は交換出来る。顧客や販売員との関係が複雑で難しくなるが、全社で技術や販売促進方法を含めてレベルアップしていけばより顧客との良い関係になりことは間違いないと考える。この行動より得られたノウハウが次の企業の発展に繋がり、生き残れる道ではないか。

 

2.最後発からの出発とパーム油とは何か 

時代的な背景は、大豆、菜種などの種子より食用植物油を搾っていた製油会社は、大手5社と中小製油会社10数社と食用植物油を買って加工していた加工油脂会社が数社あった。食品業界にこの20数社が食用油脂として入り乱れて売っていた。パーム油は製油会社と加工油脂ともに乱売になっており、いずれ業界再編成に向けてシェアアップのための商材であった。また、世界的な需要増で大豆、菜種油以外にパーム油の増産が予想され、生産量、価格とも重要視されていた。また、パーム油は常温で固形であるが、分別することにより固形から液状まで幅広い融点になり新しい機能も見いだされつつあった。旧ホーネンは業務用に強い会社で、パーム関連商品は最後発であり、他の製油会社、加工油脂メーカーよりも遅かった。当時業務用商品は、大豆油、菜種油主体であり、これらの商品の防衛にパーム配合油をスーパー惣菜や外食産業に売る体制を作った。パーム配合油の年間販売量は、数百トンであった。その技術的な担当者となったが、パーム油と菜種油、大豆油、コーン油等の液状油との比較で妙案はなかった。

 パーム油は食用油を専門的に扱っている人たちにはかなり知られているが、食品業界でもあまり知らない人が多いので概要を述べる。

パーム油の主な産地は、マレーシア、インドネシアなどで計画的に植林されたパーム農場でアブラヤシ(写真1)の果実(写真2)の油分含量45~50%含まれた果肉より圧搾法でパーム油が得られ、種子からパーム核油が得られる。世界的な油脂供給では大豆油を超えて1位になった

写真1 パーム油の木
鈴木修武:技術資料(ホーネン)より

写真2  パーム油の果実
鈴木修武:技術資料(ホーネン)より

その特徴は、常温で固形の油で、分別されて利用されることが多い。パーム油の分別による融点の違いを図2に示した。液状部を「パームオレイン」、固形部を「パームステアリン」と呼ぶ。さらに分別した「スーパーオレイン」もある。酸化安定性に優れ、加熱劣化にも強い。あまり精製していないレッドパームも市販されており、色付けなどに使用され、カロチン色素が豊富で、健康食品でもある。色は常温で白色を帯びて、半固形であるので口どけ性が悪い。味は淡白で香りがなく、酸化すると泥臭い臭いがする。国内製品は精製度が高く、この臭いがないと言われる。用途は、揚げ物には他の液状植物油と配合されて惣菜・外食産業のフライ用として使われている。また揚げ菓子、即席麺、スナック菓子などの保存性が求められる食品に使われる。半固形であるので、炒め物にはあまり使われない。ドレッシング類は半固形および保存中の結晶のざらつきの為あまり使われないが、分別やエステル交換して業務用に使われることがある。

3. 第1回技術マニュアルを作るための技術的な取り組み

 提案型営業の以前に昭和61~62年にパーム油プロジェクトを作っていた。その後、62年から当時の静岡県立大学と共同で研究した。関係する業務用営業部門、技術部門で、販売および技術のマニュアルを作った。さらに社長の号令で提案型営業を取り入れて全社的な販売になった。

 当時の販売マニュアルには、
① 商品構成・・・5~7種類の商品 基本は5種類他にPBで2種類
② 販売先の明確化・・マーケットの特定と規模調査

販売先を明確にするために、パーム油の業種別の使用状況を分析した。
 業種別の技術的なアプローチや営業員の教育マニュアル作成のために使った。これらの資料は昭和61年から平成の初期であり現在とは異なると思われる。

 即席麺に使われているパーム油は表2に示した。これらの製造会社はパーム油の大きな消費先であったが、当時として最後発であったために参入余地があったが壁が高く将来の宿題として残した。

表2 即席麺におけるパーム油の利用

  推定油種 比率 融点(℃) 備考
N社 パーム油 10 35.5  
N社 パーム油 10 37.7 微水添
N社 パーム油 10 34.3  
M社 パーム油:ラード 6:04 31.1  
M社 パーム油 10 30  
M社 パーム油 10 34.6  
MJ社 パーム油 10 31.9  
E社 パーム油 10 34.6  
M社 パーム油 10 34  
T社 パーム油 10 34.1  
鈴木修武:食品と科学(2014)より

 

 

 

 スナック菓子とポテトチップスに使われているパーム油は表3に示した。

表3 スナック菓子、ポテトチップスにおけるパーム油の利用

  推定油種 比率 融点(℃) 備考
M社 パームオレイン 10 23.6  
H社 パームオレイン 10 31.1 水添
N社 パームオレイン:ヤシ 8:02 34.3 水添
M社 ナタネ:パーム油 6:04 30.2 水添
K社 液状油:ヤシ油 8:02  
G社 ナタネ:米 8:02 25.7 水添
N社 パームオレイン 10 21.3  
M社 パーム油 10 30.3 水添
S社 パーム油 10 34  
B社 ナタネ:米 5:05  
K社 パーム油:米油 3:07  
F社 パーム油:液状油 2:08  
N社 パーム油:米油 3:07  
I社 パーム油:米油 3:07 PB
鈴木修武:食品と科学(2014)より

スナック会社は大手から中小まであり非常に魅力的なマーケットであった。また、会社内の澱粉部門とも取引があり販売先として選んだが、水素添加などの加工度が高く商品化を断念した。また、ポテトチップスも大手会社ではパーム油と米油も大量購入、低価格ために断念した。ドーナツオイルを目標ターゲットにして分析した結果を表4に示した。ケーキおよびイーストドナッツともパーム油と菜種油、大豆油などの液状油が使用されており、販売先として選んだ。

表4 ケーキ、イーストドーナッツにおけるパーム油の利用 

  ケーキドーナツ    
  推定油種 比率 融点(℃)
Y社 パーム油:大豆、菜種 6:04 31
R社 パーム油:菜種 1:09
Y社 パーム油:菜種 5:05
M社 パーム油:菜種 5:05
A社 パーム油 10 29
N社 パーム油 10 30
T社 パーム油:液状油 5:05
M社 パーム油 10 34
S社 パーム油:液状油 3:07
       
   イーストドーナッツ    
  推定油種 比率 融点(℃)
S社 パーム油:硬化油 7:03 36
F社 パーム硬化油 10 34
K社 パーム油:不明油 10 31
N社 パーム油:大豆油 8:02 34
上段:ケーキドーナツ、下段:イーストドーナツ
鈴木修武:食品と科学(2014)より 

 

 

 

 

 

しかし、実際調査した結果、イーストドナツを揚げているチェーン店舗は系列に油を納入している同業他社の牙城であった。ケーキドナツは中小企業が多く、ケーキミックス粉、砂糖などの資材と一緒に売られていることが多かった。 以上の販売対象会社は大きなマーケットであったが、生産量、販売先として難しく、自分達の得意分野として米菓会社、かりんとうなどの油菓子および中小の食品・調理食品会社、例えば、豚カツ、揚げ玉、惣菜関連などを調査した。

③ 営業的な難易度 などの調査と確立(詳しくは省略)
技術マニュアルには
① 競合他社の調査、分析・・・商品構成と品質調査 主要5社
植物油は主に熱、空気(酸素)、光などにより酸化されるので、この原理に基づき色々な方法で測定し、酸化安定性試験を表5に示す。

 

表5 各種酸化安定性試験

  測定試験法 測定項目
酸価 過酸化物価 官能試験 その他
酸化安定性 AOM試験      
CDM試験       電気伝導度
オーブン 25℃  
 試験 40℃  
  60℃  
  実用試験  
蛍光灯照射試験  
      鈴木修武:食用植物油と品質保持 (2002) より

AOM試験は試料油を試験管に一定量取り、98℃に加熱して清浄空気を吹き込み、試料油の過酸化物価が100meq/kgになる時間を測定する試験法である。AOM値の長い植物油は安定性があると言える。

DM試験は試料油を特殊な試験管に取り、AOM試験と同様の温度と一定量の空気量を送り込み、酸化によりできた揮発性分解物を水中で捕集し、水の伝導度が急激に変化する変曲点までの時間を測定する方法である。この測定装置と測定値を図3に示した。

 両試験法は植物油の持っている基本的な特性を調べることができ、オーブン試験、実用試験などと良く相関するので酸化安定性の指標になる。

② 耐熱性(加熱安定性)試験
揚げ油の耐熱性を測定する試験方法を紹介する。

この試験は磁製皿に揚げ油200g入れ、180℃に加熱しジャガイモに衣を付けて泡立ちを見て、220℃に温度を上昇させ1時間加熱する。この操作を5時間まで行い、泡立ちの出る表面面積で表現する。泡立ちが少ないと耐熱性が良いと言える。実用試験は3~30kgの市販のフライヤーを使い、市販されている種物を用いて揚げ温度、時間を決めて試験する。なるべく現場を想定して行い、測定項目もフライ試験と同じである。

現場試験は商業的に揚げ物を販売している生産現場で試験する。現場での分析は揚げ油の使い方、加熱劣化、臭気の官能試験を現場で行い試験する。
 上記現場試験をもとに現在使用している生産現場の揚げ油の選定、使い方の診断、使用油と廃油の化学分析や測定器具(例えば酸価判定アブテスターの販売)を含めたソフトを用意した。

④ 耐寒性試験(物性試験)

  揚げ油の物性は倉庫保管、輸送、流通、顧客倉庫保管するときや、冬季の作業性に問題が生ずるために試験する。関東地方の平野部では問題にならないが、山間部で問題になるときがある。たとえば、大豆油は0℃で1週間放置すれば濁りが出て、10日くらいで沈殿が出る。早晩底に固まる場合があり、クレームの対象になる。しかし、東北以北の寒冷地では、植物油が固まるのは常識であり、加温すれば元に戻るので問題になることはない。パーム油は常温で固形であり、パーム油から分別したパームオレインも冬季に固形になるので、パームオレインの配合油も保温や配合比を変更して対応している。その配合比率による試験結果を図4に示した。

4.第2回技術マニュアルを作るための技術的な取り組み(静岡県立大学との共同研究)

同じ魚を揚げてもてんぷら、フライ、から揚げの揚げ方により加熱劣化の程度が異なった。図5に示すように酸価上昇はフライ>から揚げ>てんぷらの順で現場試験とよく一致する。

また図6に示すように油の着色原因のひとつであるリン脂質の溶出が揚げ方により異なり、フライが一番激しかった。これは卵の付いたパン粉の離脱のためと思われる。揚げ油の色も図7に示すように同じような傾向であった。

図6 揚げ方によるリン脂質の溶出
野村行子ら:揚げ物調理における油の性状変化に関する研究より

図7 パーム油と大豆油における揚げ油の色の変化
野村行子ら:揚げ物調理における油の性状変化に関する研究より

 パーム油と大豆油の酸化の上昇の違いは図8に示すように、パーム油は大豆油に比べて酸価が上昇する傾向であった。図9にフライだけを抜き出してよく分かった。また揚げ方によるパーム油と大豆油の総トコフェロールの量を測った結果、フライの結果を記載すれば、図10と図11に示すようにパーム油は大豆油より含有量が少なく残存率の減少も激しかった。

図8 パーム油と大豆油における揚げ油の酸価の変化
野村行子ら:揚げ物調理における油の性状変化に関する研究より

図9 パーム油と大豆油におけるフライ油の酸価の変化
野村行子ら:揚げ物調理における油の性状変化に関する研究より

図10 フライの総トコフェロールの減少
野村行子ら:揚げ物調理における油の性状変化に関する研究より

図11 総トコフェロールの残存率
野村行子ら:揚げ物調理における油の性状変化に関する研究より

 パーム油と大豆油の測定機器による色と食感(テクスチャー)と官能試験を行った。じゃがいもを揚げ種に、パン粉、卵、小麦粉をフライの衣にし、160~170℃で3分間揚げて、衣だけを取り測定した。その結果を表6に示した。

表6  フライの衣の油種と時間による色の変化

  パーム油 大豆油
放置時間 △E △E
直後 53.4 4.2 23.2   49.7 6 21.7  
30分後 53.9 3.9 21.7 1.6 50.4 5.9 21.3 0.8
24時間後 61.1 3.8 21 8 54.8 5.6 20.4 5.3
L値(明るさ)a値(赤)b値(黄)
△E(色差) 0.5~1.5わずかに違う 6.0~12.0大いに違う
野村行子ら:揚げ物調理における油の性状変化に関する研究より

 

 

パーム油で揚げた衣は大豆油の衣よりa値が低く赤が弱いことがわかり、L値(明度)はパーム油の衣がやや高く明度(あかるさ)が高いことがわかった。両者とも時間の経過とともにL値が高くなり赤と黄色の度合いが小さくなった。30分後と24時間後の色差(⊿E)は表6のように人間の官能でわかるくらいの差になり、パーム油は白色になり固形化するためと思われる。

食感(テクスチャー)は表7に示した。両者ともに時間経過とともに硬さやそしゃく性は減少し、凝集性や弾力性が増加した。両者の硬さに大きな相違がみられ、時間とともに両者の差が大きくなった。

 表7 フライの衣の油種と時間による食感の変化

油の種類 放置時間 硬さ 咀嚼性
パーム油 2時間 19.7±1.8 5.7±1.6
24時間 12.7±3.3 4.2±1.2
大豆油 2時間 14.3±3.4 4.4±1.2
24時間 6.4±1.4 3.2±0.9

 

測定機器:レオダイナコーダー使用
測定項目 硬さ:H=H”/ボルト
凝集性:A2/A1
弾力性:B2/B1
咀嚼性;H×(A2/A1)×(B2/B1)
野村行子ら:揚げ物調理における油の性状変化に関する研究より

官能試験において、大豆油とパーム油で揚げた衣を比較すると色では当日5%、翌日0.1%の危険率で差があった。テクスチャーは、当日では有意差がなく、翌日では5%の危険率で差があった。香りは翌日、当日とも1%の危険率で差があった。味は当日0.1%翌日5%で差があった。

 嗜好性では大豆油が好まれるものが多かったが検定表では差がなかった。

5.おわりに

 第一回、第二回の技術マニュアルの作成時には、提案型営業ではなかったがパーム油販売の前哨戦であった。この時期の販売は営業と技術は連携不足で全社運動ではなかった。今までの炒め油、離型油、炒め機など売っていた手段は技術を用いた販売で、次号で紹介するこれらに全社の営業を巻き込んで発展させた販売が提案型営業である。

 

参考文献
1) 鈴木修武:技術者が「魚の釣り方」を教える  NO.6 p16 フードリサーチ(2009)
2) 鈴木修武:食用植物油と品質保持 食品品質保持技術研究会(2002)
3) 野村行子・横山由美:揚げ物調理における油の性状変化に関する研究
        昭和62年度 静岡県立大学 家政学部 食物学科(1988)
4)近 雅代・上村富美子:ニジマスの揚げ調理におけるパーム油の性状変化(1994)
5)大河内敏尊:植物油脂の機能と食品への利用 NO.4 p24(1995)
6)鈴木修武:大量調理における食用油の使い方 幸書房(2010)
7)鈴木修武:技術資料(ホーネンコーポレーション)