「最大の食品リスク」を減らしたい

食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」 2012.12.6掲載

横山勉 技術士(農業部門)[横山技術士事務所]

 食品には、リスク(=健康被害×発生確率)が存在する。「叩けば埃が出る」のが、食品なのである。食べ慣れている日常の食品であっても、固有のリスクが存在する。それ故、できるだけ多様な食品を摂ることがリスク全体の軽減になる。もちろん、栄養学的にも好ましいことはいうまでもない。

食品添加物・農薬・遺伝子組換え食品は、消費者による「嫌われ者三兄弟」である。それでも、専門家の評価は、ほぼゼロリスクになるだろう。消費者の感覚と大差があるが、厳密な試験を経ているからである。陰膳(かげぜん)方式等による実態調査も行われており、安全性はしっかり確保されている。その一方、食中毒やいわゆる健康食品は、リスクが高い。腸管出血性大腸菌による食中毒や健康食品では死者が発生している。それでも、その数は年間数名に止まることが多い。

 桁違いに多数の死者が、食品により生じている事実がある。その数は、毎年4,000名を超える。原因食はさまざまだが、もち・米飯・パンが多い。これに、ナッツ類・飴玉・プチトマトが続く。さらに、コンニャクゼリーといえば、お分かりだろう。多くの命を奪っているハザードは化学物質ではなく、微生物という生物的要因でもない。食品そのものの物性と大きさという物理的要因であり、窒息が死因である。

 2008年の食品による窒息事故の死者は、4,700余名である。やはり、65歳以上の高齢者が4,000名を超え圧倒的に多い。高齢者は、だ液の分泌と嚥下(えんげ/えんか:噛み砕いて飲込む)機能が低下するため、事故が起こりやすい。10年前は4,000名以下だったので、増加傾向にある。高齢化が進んでいることが大きな原因といえそうだ。また、0歳児もややリスクが高く19名が亡くなっている。ただし、高齢者と乳児だけの問題と捉えてはいけない。壮年(30~44歳)であっても、66名も亡くなっている。

 高リスク者向けの対策がある。周囲の者が、食べる際に注意を払い、事故時の応急処置を覚えることである。食品は食べ易い大きさにカットし、飲料と共に摂るようにしたい。正しい姿勢でゆっくり食べることを心掛けたい。食事に集中するために、会話やテレビは控えるのが好ましい。「ピーナッツ等の豆類は3歳以上」という情報も、子を持つ親の常識として普及させたい。

 高リスク者と生活する家庭では、家族が目を配ることが大切である。さらに、万一喉に詰まった時の応急処置を会得しておこう。食品を吐き出させるため、年長児や大人は「腹部突上げ法」、乳幼児は「背部叩打(こうだ)法」が適切という。ただし、これらは知識として持っているだけでは不十分である。人形等を利用して、身体で覚えておくことが肝要だ。窒息事故は、一刻を争う。数分の違いが、結果を大きく左右することを併せて理解しておきたい。施設等で、高リスク者に接する方々も上記をマスターしておく必要がある。

具体的な注意や応急処置は、食品安全委員会や消費者庁・厚生労働省等のサイトで確認できる。「窒息事故」というキーワードでネット検索すれば、簡単に見つけられる。正月はもちを食べる機会が多く、事故が起きやすい。高リスクのご家族がおられる場合、予め勉強しておきたいものである。

 われわれのリスク感を形成するのは、メディアの力によるところが大きい。追随者が生じ得る自殺などの報道は慎重であるべきだ。そのような配慮が不要な場合、高いリスクを優先して報道いただきたい。コンニャクゼリーの事故やその対策が大きくとり上げられた。ところが、通常の食品による窒息事故が記事になることは稀である。ニュース性には欠けるものの、圧倒的に多く発生しているのである。適宜報道して注意を喚起すれば、事故を減らせるに違いない。

 9月9日は、救急の日である。応急手当の講演会など多様な行事が各地の消防署で開催される。この機会だけではなく、消防署では人工呼吸やAED(自動体外式除細動器)の使用法などの訓練を普段から行っている。ただし、プログラム中に食品を原因とする窒息事故の応急処置が含まれることは少ないようである。リスクに応じて、増やすことを検討いただきたい。水死者は年間1,000名前後発生しているが、食品による窒息事故のほうがはるかに多発しているのである。

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