食品ロス削減の次なる行動

食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」2011.12.01掲載

横山勉 技術士(農業部門)横山技術士事務所

 2011年9月25日、アフリカ女性として初めてノーベル平和賞を受賞した環治溝動家ワンガリ・マータイ氏が亡くなった。価値を生かしきれず無駄にしていることを指す「もったいない」という日本の言葉と心を世界に広めた人でもあった。

 もったいないの代表に挙げられるのが、食品ロスではないだろうか。日本では食品として年間約9,000万トンの農林水産物を消費し、約1,900万トンの廃棄物が発生している。この内、500~900万トンが喫食可能な食品ロスと推定されている。食料自給率向上と併せて食品ロス削減は、食料安全保障のために推進させなくてはならない課題である。

 農林水産省「食品口スの削減に向けた検討会」は、牛久保明邦氏(東京農業大学国際食料情報学郎教授)を座長として、製造・流通・販売・外食等の食品関係者を委員として2008年8月にスタートした。年内に掘り下げた6回の会場と適切なとりまとめを行った。そのなかで食品ロスが生じる過程を確認するとともに、賞味期間の短すぎる設定・流通に関係する1/3ルールや流通から外れて製品の有効活用等について提言している。締め括りとして、広く市民を集めて食品ロスの削減に向けた国民フォーラム」を’09年9月~10月、全国4個所で開催し、目指すべき方向を社会に向けてアピールした。

 これがひとつの契機になったのかもしれない。さまざまな好ましい動きが顕在化してきた。コンビニでは、賞味期限が迫った商品の値引き販売か行われるようになり、外食チェーンでも小盛サイズかメニューに載るようになった。通常の流通ルートでは販売が困難な商品(賞味期限間近・規格外・終売品等)がネット販売されている。また、このような商品の寄付を受け付けるフードバンクの活動も知られるようになった。

 本検討会は短期間で意義ある提言をまとめて社会を動かした。高く評価するが、周囲を見回すと少し残念なことにも気がついた。同時期、農林水産省では「鍋ほか推進ブロジェクト」を進めていた。鍋料理閲係者を集結し、統一ロゴの下、鍋の普及を図るユニークな活動である。鍋の食材は許容度が高く、冷蔵庫の余り物を消費するよい機会になる。家庭における食材廃棄を減らせる料理なのだ。

 また、財団法人食品産業センターでは、「食農連携統括セミナー・イン東京」を’10年3月開催した。各地の成功事例を紹介したが、加工食品を製造する場合、調格外やキズものを有効活用できる。食品ロス削減に貢献するのだ。しかしながら、双方とも食品ロス削減には触れなかった。プロジェクト間で連携して互いを紹介していれば、認知度はさらに高まったに違いない。もったいないと思ったものである。

 さて、食品ロスに関して、先の検討会が触れていなかったことがある。厚生労働省の管轄なので、やむを得ないことだったかも知れない。農薬などに関する基準値超の食品の扱いである。現在の日本では、食品衛生法によりこれらは流通が許されない。輸入品であれば積み戻しされることもあるが、基本的に費用をかけて廃棄処分される。なんとももったいない話だが、この対応は妥当なのだろうか。

 基準値は一口摂取許容量(ADI)に基づいて設定される。ADI以下であれば、生涯毎日食べでも影響はない。一過性の影響であれば、有害性評価は急性参照用量(ARfD)を用いる。24時間以内の経口摂取により、ヒトの健康に悪影響を示さないと推定される量である。当然のことだが、ADIに比べ相当に大きな値になる。いわゆる一律基準はいうまでもなく、基準値超の多くはARfDを超えることはない。食べても、健康に悪影響はないのである。廃棄対応を行っている国は、日本くらいのもの。竹村健一氏のいう「日本の常識・世界の非常識」の好例なのである。

 食品関連の識者の多くがこのことを承知している。そうは言っても。大部分の市民が「基準値超=流通不可」と信じている。ここへ「問題ないから食べようよ」と呼びかけるのは、無謀でしかない。「とんでもない」という集中砲火を浴びることか目に見えている。そうであれば手順を踏もう。普通の国では、基準値超であっても健康リスクが考えられ一部を除いてそのまま流通させている。あらゆる機会を通じて、市民にこの事実を冷静に伝えていきたい。もったいないという心を生み出した国で、基準値超による食品廃棄を続けていてはいけないと考える。

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