サイエンスカフェの歩き方

食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」2011.04.14掲載

横山勉 技術士(農業部門)横山技術士事務所

 サイエンスカフェ(以後、SC)というコミュニケーションの形態がある。科学の理解を深めるために、ドリンク片手に専門家と市民が気楽な雰囲気の中で語り合う活動である。1997年、英国ではじまったとされる。現在、世界に広がっており、日本でも毎日のように各地で開催されるようになった。

専門家が一方的に講演するのではなく、質問や意見交換に重点を置き、時間も多く配分する。そのために、参加者を20名以下に絞ることが多い。上下関係を意識させないために、先生・講師という呼び方を避けることもある。

筆者は、参加者および話し手双方の立場で関与してきたが、どちらにとっても得るところが多い活動と感じている。 

1) 参加する楽しさ

 SCのテーマはバイオ・気象・環境・物理・宇宙など実に多種多彩で、主催も大学・博物館・研究機関・NPOなどさまざまである。関心のあるSCに参加すれば、テーマをより身近に感じ理解を深めることができる。新しいことを知ることは喜びなのである。また、他の参加者の意見や考え方を聞くことも参考になる。

筆者のよく参加してきたSCは、くらしとバイオプラザ21主催の「バイオカフェ」である。名称の通りバイオをとり上げることが多いが、食品関連のテーマも少なくない。喫茶店が会場で、バイオリン・フルートなどの生演奏からスタートする。進行役のファシリテーターの気配りがあり、コーヒーの文化的な香りとともに科学の楽しさを味わえる。

 筆者地元の三鷹ネットワーク大学内の国立天文台が主催する「アストロノミーパブ」にも何回か参加している。テーマは宇宙であり、参加者間の歓談の時間にはアルコールと軽食が提供される。話し手を独占しないというのがルールで、アルコール効果もあって参加者同士の会話も弾む。人気が高く、応募者が定員を超えて抽選になることが多い。

 科学技術ポータルサイト「サイエンスポータル」内の「楽しむ科学」コーナーでは、各地で開催予定のSCが紹介されている。お近くの開催を確かめて参加されることをおすすめしたい。

2) 話しをする充実感

 研究者にとって、研究内容を社会に説明しようという流れがある。SCは、ひとつの場になるだろう。研究者以外でも、話しをすることは自分の業務や知識を見つめなおす機会になる。筆者は、科学週間・東京国際サイエンスフェスティバル・愛知サマーセミナーなどで、SCの話し手を務めて来た。

本来やりたいことは、食品で誤解の多い食品添加物や遺伝子組み換え作物に関するリスクコミュニケーションである。しかし、このテーマを直接扱ったのでは参加者を集めにくい。そこで、市民に関心を持ってもらいやすいテーマを選択し、その中に少しずつ安全性の考え方等を盛り込んでいる。

 タイトルのつけ方は、極めて重要である。内容を的確に表しながら、参加したくなる気持ちをひき起こす必要があるからだ。「麹菌夜話」「おいしさを造る微生物」「大豆変身物語」、これらが話してきたSCのタイトルだが、目的にかなっていただろうか。

 理解している内容でも、いざ他人に話すとなると改めて考えなおすことになる。受け手の理解度を考え、極力わかりやすく提供することが求められる。比喩を使うことも悪いことではないが、正確性への配慮を欠いてはいけない。誤ったことを話すわけにはいかないので、ネットや書籍で再確認することになる。著作権に注意しながら、適切な図や写真を準備することになる。慣れてくると、笑いをとるための工夫も入れたくなるものだ。簡単な実演や実験を盛り込むことができれば、印象的な情報伝達に効果がある。

実際に話しをすると、理解度想定の間違いに気づくことがある。内容を盛り込みすぎて、時間不足になることもある。このような時は素直に反省して、以降の品質向上に生かせばよい。意外な質問に驚くことも珍しいことではなく、これも貴重な収穫になる。説明するつもりの75%以上話せれば、合格である。終了後は、充実感を味わえることが多く、今後も続けようという気持ちになるのである。

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