メディアの食情報を正す試み

食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」 2010.09.23/30合併掲載

技術士(農業部門)横山勉[横山技術士事務所]

 筆者の専門は、食品に関する技術士であり、品質保証(含HACCP)・商品開発・表示などが専門である。また、科学コミュニケーションにも関心がある。考え方を学びながらサイエンスカフェの講師など可能なところから実践を行っている。科学と市民の橋渡しをする科学コミュニケーション活動は技術士に求められる役割の一つでもある。

科学の中でも、正しい情報が伝わっていないのが食品分野である。食品添加物や農薬・遺伝子組換え作物(GMO)などに関する市民の考え方には多くの誤解が存在する。2003年施行の食品安全基本法に基づき、食品安全委員会が設立された。ここで、リスク分析の考え方を基本に、食の安全を確保するようになった。即ち、本委員会が行うリスク評価に基づき、関連する行政機関(厚生労働省など)がリスク管理を行い、市民も含めた関係者全体で情報を共有するリスクコミュニケーション(リスコミ)を行うというものである。

食品安全委員会が設立されて、7年が経過している。しかし、リスコミが進捗しているとはいえない状況である。原因の一端は、メディアにあるのではないだろうか。

1) メディアが発する食情報の問題点
メデイアが発信する情報の問題点として、偏りと不適切な内容が挙げられる。

食に関連した大きなリスクとして指摘されるのが、食中毒である。1996年、O-157旋風が吹き荒れて大騒ぎになった。その後、本食中毒で毎年数人が亡くなっている。2002年は9名もの方が亡くなっているのである。しかし、このことを伝えたメディアはほとんどなかったのだ。

 コンニャクゼリーにより数名が窒息死した事故は、大きく報道された。これが、リスクの少ない製品開発につながったことは確かである。一方、通常の食品が原因で年間3,000人以上の方が亡くなっていることを伝えたメディアはあったのだろうか。リスク分析の考え方であれば、こういう被害の大きな情報こそ大きな割合を割いて対策とともに報道すべきである。一般食品(正月のもちを除く)による窒息死がメディアに載ったのは、私の知る範囲では、2008年に起きた小学校(千葉県)の給食事故だけである。

 記者の理解不足、あるいは勘違いや思い込みによる不適切な報道も存在する。一例が、トランス脂肪酸の扱いである。日本の消費状況からほとんど心配する必要がないにも関らずリスクを強調する報道が目立つ。2008年発生した事故米穀の不正転売事件も同様である。農薬やカビ毒の濃度や特性から健康被害は考えられない状況であったが、不安を煽る報道が頻発した。

 行政単独またはメディアと協力して開催する講演会に不適切な講師を招くことも少なくない。科学的に正しくない根拠に基づき、食品添加物などを問題視し、食の不安を煽るパターンが少なくない。

2) メディアの問題にどう対応するか
このようなメディアの問題に働きかけることができないだろうか。前者の偏りに関しては困難だが、後者であれば連絡して不適切な点を伝えることができる。しかし、どうせやるのであれば、やりとりを公開して市民の理解促進に役立てたいものである。そのような試みが、サイトを立上げ本格的に開始された。学識経験者・消費者・食品事業者・メディア関係者などの有志で組織する「食品安全情報ネットワーク」(FSIN)である。代表は東京大学名誉教授の唐木英明氏で、「食の信頼向上をめざす会」としても活動している。

 2010年になってから、7件の新しい指摘・意見交換を行った。内容は、行政主催の講演会に不適切な講師を招いたことへの対応、雑誌や新聞などの不正確または間違った記事への指摘である。また、GMOに関して、農林水産省作成の解説リーフレット配布中止や情報提供サイト閉鎖への要望を伝えた。メディア情報をウオッチし、不適切なものに的確に対応することは大変に骨の折れる作業である。それでも、社会に好ましい影響を与えることができると考える。多くのケースで、FSINの指摘を真摯に捉え建設的なやりとりができている。普段から、このような視点で食情報に接するとともに、本会の活動を応援したいと思う。

食品化学新聞社の許可を得て掲載しております