牛乳有害トンデモ説を斬る

食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」2016.02.18掲載

技術士(農業部門)横山勉[横山技術士事務所]

 各国の平均寿命や自立した生活ができる健康寿命が公開されている。日本人は男女ともにトップまたはトップレベルである。要因として、国民皆保険制度と良質な医療サービス・労働や衛生に関わる環境・食事や栄養面の望ましい状態等を指摘できる。これらの中、栄養面に注目しよう。厚生労働省が公表している国民栄養調査を見ると、概ね良好なことが確認できる。ただし、唯一不足している栄養素が、Ca(カルシウム)である。成人男性の1日当たり650(女性800)mgの推奨量に対し、摂取量は男女とも500mg台に止まっている。

 Caが骨や歯の主元素となっていることは、どなたもご存じだろう。それだけではなく、細胞や血液中に広く分布して、数々の重要な生理的機能を果たしている。不足した場合、子供の成長不良・熟年者の骨粗しょう症・高血圧・動脈硬化などの生活習慣病につながることがある。不足しているCa摂取量を増やせれば、健康寿命を延ばすことに貢献するに違いない。

 Ca源として重要な食品に、乳製品・小魚・海藻・大豆製品・葉菜・種実などが挙げられる。中でも、牛乳を筆頭に乳製品はCa含量が高いだけでなく吸収率も優れている。牛乳はCa以外にも、良質なタンパク質・脂質・ビタミンB群も豊富に含む優れた食品である。これらは、栄養学者が認める科学的事実である。

 それにも関わらず、牛乳を有害と主張するおかしな説が存在する。昨年末のテレビ番組で、女性タレントが自分の子供に「有害だから飲ませない」と発言し、多くの批判を受けた。背景に、牛乳有害説を流布する存在を指摘したい。ベストセラー本「病気にならない生き方」シリーズの新谷弘実氏や「牛乳の飲みすぎに注意しましょう!」の外山利通氏などである。

 なぜ、このようなトンデモ説を受け入れる市民が存在するのだろうか。原因として、1)牛乳嫌い、2)低い科学リテラシー、を指摘したい。食品の好き嫌いは、人それぞれあるだろう。牛乳には、飲むとお腹の具合が悪くなる「乳糖不耐症」がある。成人であれば、乳糖を分解するラクターゼを分泌しないことが普通である。従って、牛乳中の乳糖が腸内で異常発酵して下痢等の不快な症状を引き起すことがある。乳糖不耐症で牛乳嫌いならば、牛乳有害説を支持したくなっても不思議ではない。

 新谷氏は、1)牛乳を飲むと体内のCaを減らす、2)牛乳の飲みすぎで骨粗しょう症になるなどと主張している。牛乳乳製品健康科学会議は公開質問を行い、氏からの回答を検証している。総て根拠がなく、科学的事実に反すると結論している。妥当な結論である。外山氏は、1)牛乳の飲みすぎは健康を損なうおそれがある、2)牛乳は異種タンパク質であるなどと主張する。これらに農林水産省は抗議している。

両氏の指摘はいずれも根拠がないか、知見があっても都合のよい部分だけをかき集めたものである。普通の科学リテラシーがあれば、「異種タンパク質」でトンデモ説に気付いただろう。食品に含まれるのは、総て異種タンパク質である。また、摂りすぎは総ての食品で、有害である。牛乳だけ取り上げるのはおかしなことである。

 昨年は、牛乳に関して残念なニュースが届いた。新潟県三条市の教育委員会が牛乳を給食の献立から外すことを決定したのだ。米飯給食に合わないことが理由である。ただし、栄養面で必要として、給食とは別に「ドリンクタイム」を設けて提供するという。Ca供給のため、牛乳中止は選択できる食材が限定されメニューの自由度が低下する。牛乳継続は妥当だが、米飯に合わないというのは偏見である。筆者は減塩のため、朝食をパンから米飯に変更した。コップ1杯の牛乳類は継続している。米飯に合わないという感覚はない。人それぞれなのである。合わないと感じれば、食事の後に牛乳だけ飲めばよい。別途ドリンクタイムを設けるのは、時間の無駄に他ならない。

 近年、牛乳は生産量が漸減しているが、ヨーグルト等の発酵乳(乳酸菌飲料を含む)は増加している。発酵乳の機能性が広く知られてきたためであろう。発酵乳は乳糖が半分程度分解されているため、乳糖不耐症の人でも飲める可能性が高まる。また、乳脂肪分がごく低いため、中性脂肪を控えたい場合でも問題ない。筆者はやや酸味が強いように感じるため、低脂肪乳を混ぜて摂っている。

 牛乳類の摂取は、健康に必要と考えるが、それだけで十分という訳ではない。食事全体のバランスや規則正しい生活、適度な運動と睡眠も重要である。また、禁煙とアルコール控えめが望ましい。同時に、メンタルヘルス対策にも配慮が必要である。

食品化学新聞社の許可を得て掲載しております