美味なる枝豆

食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」2015.9.10掲載

技術士(農業部門)横山勉[横山技術士事務所]

 スーパーの棚には、キャベツ・トマト・ダイコンなど多様な野菜が肩を並べている。これら定番野菜は常時見ることができ、旬がなくなったといわれて久しい。一年を通してこれらを入手できるのは、農家と流通の方々が努力されている賜物である。出荷時期を調節するため、産地と品種、そして栽培方法(促成、抑制)を工夫している。広域流通させるため、冷却に加えMA包装などの技術を導入してきた。MA包装は、低酸素・高二酸化炭素状態を維持することで鮮度を保つ。一方、品質変化が緩やかなタマネギ・カボチャ・ニンジンなどは、輸入品の占める割合が年々増加している。店頭には産地が表示されているので、季節による変化を確認できる。

 そうであっても、旬の時期は間違いなく存在する。キャベツは冬~春、トマトは夏、ダイコンは冬である。この時期は、近隣農地で露地栽培した野菜を安価に入手できる。店頭までの距離と時間が短く、おいしくだけでなく、豊かな栄養を備えていて当然だ。各地にある「道の駅」の人気が高い。作り手の顔が見える安心感と共に、新鮮な野菜が大きな魅力になっている。原則として「野菜は新鮮さが命」といえるだろう。

 ただし、野菜により鮮度の重要性には差異がある。通常、トマトは追熟を前提にして若い状態で収穫する。前述のタマネギなどは、ある程度時間が経ってもおいしさが大きく損なわれることはない。これに対し、瞬く間においしさが低下する代表が、スイートコーンである。「鍋を火にかけてから採りに行け」といわれるほどだ。収穫後常温で一日経つと、糖分が半減する。これと双璧をなすのが枝豆である。収穫後直ちに茹でたものは、甘味に加えてうま味とコク味を感じる。食塩の存在は、うま味を強めている。時間経過に伴い、糖分だけでなくアミノ酸の濃度が低下する。特にサヤだけの状態では、常温一日でどちらも半減してしまう。毎年、台湾やタイ国などから冷凍枝豆が7万トン前後輸入されている。重視している点が、収穫後の速やかな加工であると聞く。

 筆者の地元である東京都三鷹市は、多くの都市農家が健在である。その重要性は多岐に渡るが、一番に挙げたいのが新鮮野菜である。庭先の販売コーナーで、採れたて野菜を入手できる。こういう環境であれば、消費者も賢くなる。先ず立ち寄るのが、農家の庭先販売である。新鮮さに加え、割安である。続いて、不足分をスーパーで購入するのだ。スイートコーンと枝豆の当日分は、すぐ売切れになる。確実な入手法は、予約である。客人が来る時に提供してみよう。普通の方であれば、おいしさに目を見張ること請け合いである。

 筆者の住環境は、確かに幸福だと認識している。ただし、陽当りがあってプランタが置けるのであれば、自分で育てるという選択肢がある。スイートコーンは難しいが、ダイズは病気に強く栽培が容易である。また、植物を育てるという行為から、様々な収穫を得ることができるだろう。1)生命の力強さであり、2)儚さ(はかなさ)である。乾燥したダイズ種子から、若葉が芽生えグングンと生育する。1)を感じ、癒されることだろう。水やりを忘れれば、枯死することがあり、2)を感じることになる。イヌやネコのようなペットと異なり、植物は直ちに反応することはない。それでも、管理者の行為に応えてくれる。

 物理的に揃えたいのは、プランタと土壌・肥料・種子などである。これらは、お近くのDIY店で入手できる。加えて、ダイズという植物に対する知識が必要になる。酸性pHと水はけが悪い土壌を苦手としている。酸性pH対策として、石灰を撒く。根粒細菌が共生するため、初期の窒素肥料は控えめにしたい。関東であれば、4月下旬~5月が蒔き時で、80~90日で収穫できる。収穫の適期は案外短いので、過熟にならないよう注意したい。自作すれば、どなたでも採れたての「美味なる枝豆」を味わえる。客観的なおいしさに加え、自分で栽培した満足感が加わる。ビール片手に、つまみに来た家族にうんちくを語るのは楽しい時間となる。ダイズは、ナス科野菜と同様に連作を嫌う。筆者は、同時に栽培しているナス科野菜と土壌を交換して翌年に備えている。

 従来、枝豆という食文化は東アジアに限られていた。世界的な健康志向や日本食ブームにより、近年は北米や欧州にも広がりつつある。各国で、「EDAMAME」で通用するという。食肉を減らして、大豆を直接食することは、環境負荷低減にもなる。2020年の東京五輪に向け、さらに普及させたい。

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