「マッサン」に続けたいNHK大河ドラマ

食品化学新聞「食品技術士リレーシリーズ」2015.05.14掲載

技術士(農業部門)横山勉[横山技術士事務所]

 3月末(2015年)、NHK朝の連続テレビ小説「マッサン」が、好評のうちに幕を閉じた。「日本ウイスキーの父」と称えられるマッサンと妻エリーを描いた作品である。スタート前から注目が集まっていた。エリー役を演じるのは米国籍女性で、外国人俳優が朝ドラの主役となるのは初めてである。国内と並行して行った海外の公募で選出された。ドラマでは次々に問題が起こり、マッサンが不器用に対応する姿が描かれる。また、日本に溶け込もうと努力するエリーの健気な姿に、誰もがエールを送っただろう。魅力的な周囲の人々とのやり取りも、共感を持って受け止められたに違いない。

ヒロイン役の抜擢に加え、もう一つ初めてといえる決断があった。本ドラマのモデルには、実在企業が存在する。NHKとして画期的なことであり、英断を称えたい。関係する企業はドラマ効果により、売上が伸びている。工場見学の申込みも殺到しているという。ウイスキーは数年前からハイボールで人気を高めてきた。業界全体がさらなる恩恵を受けただろう。また、工場創業の地「山崎」の名を冠した製品が「ワールド・ウイスキー・バイブル2015」 で世界最高に輝いた。運命的な縁を感じるではないか。

 実在企業が存在しても制作可能ならば、大河ドラマとしてぜひ取上げてほしい人物がいる。明治から大正時代にかけて活躍した高峰譲吉博士である。博士の関係者や医薬品・食品業界の方であれば、ご存じであろう。残念なことに、業界外で知る人は少数である。多くの方々に認識してほしいという気持ちがある。ただし、ドラマ化を願うのには、さらに大きな理由がある。

「バイオテクノロジーの父」と称される博士の生涯を簡単に紹介しよう。生まれは、江戸時代末期の加賀藩(現富山県)。立身出世し、明治政府の役人として活躍、派遣先の米国におけるロマンス、日本初の化学肥料会社設立、新製法によるウイスキー製造・挫折・再起してタカジアスターゼとアドレナリン発見と起業・トヨタ自動車の始祖たる豊田佐吉を激励・製薬会社や理化学研究所の設立・日米親善に尽力しワシントンに桜を寄贈、と波乱万丈の人生を送る。68歳で逝去し、ニューヨーク市の墓地に眠る。

 補足すると、米国派遣はニューオリンズ万博のためである。そこで出会ったのが、名門製綿家の長女キャロライン。青い眼の美人である。二人は恋に落ち、3年後に結婚する。マッサンと似ているが、もう一つの共通点がウイスキーである。麦芽ではなく麹菌で糖化する特許を取得し、米国事業が進展する。ところが、よく思わない麦芽生産者に工場を焼き討ちされてしまう。挫折を味わうのだが、立ち直って新しい発見と事業化を成し遂げる。麹菌による消化薬タカジアスターゼ生産である。味噌・醤油や清酒・焼酎等の製造に欠かせない日本の国菌とされる微生物である。これに止血薬アドレナリンの発見が続く。両者とも百年の時を経て現在も使い続けられている。同様に古い歴史を持つ鎮痛薬アスピリンを加えて世界三大医薬品と呼ばれる。

 博士はまた、国の発展は軍備ではなく科学技術の振興が重要と説き、理化学研究所を設立する。この理研は、ノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士・朝永振一郎博士ら多くの優れた科学者を輩出する。戦後、GHQにより解体されるが、昭和33年に再出発を果たす。2014年はSTAP細胞でつまずいたが、区切りをつけた。よいこともあった。英国科学誌ネイチャーが選ぶ「2014年に注目すべき5人」に高橋政代博士が選ばれている。網膜再生医療技術の研究・開発に大きな前進があったのだ。今後の発展が期待される。

 日本は経済が停滞する失われた20年に続き、東日本大震災を経験した。第2の敗戦ともいわれる。この苦難から立ち上り、アベノミクスによる新たな一歩を踏み出したところである。日本人としてのアイデンティティーと世界における役割を模索しながらの歩みになる。明治維新からの重要な時代を、ダイナミックに駆け抜けた高峰博士の生き方を見つめ直すことは、これからの日本の在り方を考える道標になる。

 上記のように、マッサンと共通するドラマがヒットする多くの要素を備えている。それ以上といっても過言ではないだろう。多くの日本人が共感して視聴することは間違いない。大河ドラマとして、記録的な大成功を収めることを確信している。

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