時間栄養学に基づく食品開発 

講演録2020年2月15日例会

 柴田重信氏 早稲田大学、先進理工学部教授、先端生命医科学センター長

体内時計と食・栄養の相互作用を調べる学問として時間栄養学が発展した。「時間栄養学」(Chrono nutrition)という言葉は演者の柴田先生が作られた。

体内時計(サーカディアン・リズム)を生み出す遺伝子(Circadian locomotor output cycles kaput (Clock))とそのメカニズムの発見で米の3氏に2017年ノーベル生理学・医学賞が贈られ、時計遺伝子が有名になった。人間の身体は、朝が来ると血圧と心拍数が上がり始め,昼には血中のヘモグロビン濃度が最も高くなる。夕方には体温が上がり,夜には尿の流出量が多くなる。真夜中には免疫を担うヘルパーT細胞の数が最大になり,成長ホルモンがさかんに分泌される。でも、実際には人間の時間遺伝子は、24時間ではなく少し長いのだ。30分長い人と1時間長い人がいることも判っている。

朝の光が脳の体内時計を、朝食が末梢臓器の時計を合わせる。食事の内容や時刻のこと、あるいは食事療法のための食品開発の視点で、朝食のことを考える。同じ食事でも朝食と夕食で取る場合では、血糖・インスリン反応や血中メタボロームが異なったりする。さらに時間栄養学に基づく食品開発を行い、シフトワーク時差ボケ、社会的時差ボケ是正などへも応用する。

睡眠負債が起こる理由は? 病気との関係は?

アレルギー性鼻炎の症状にも関係している。明け方が調子悪い人が多いのも時計遺伝子と関連している。花粉が多いのは晴天の日の午後だが、症状の時間と異なるのは、時計遺伝子との関係があるためと考えられる。免疫系も時計の制御を受けているようだ。午前中にワクチンを打つほうが、抗体系はあがりやすい。

視神経の通り道の視床下部に「主時計」を司る細胞がある。これ例外にカラダの他の位置の細胞でも時計遺伝子が動いている。脳の主時計は、朝の光で24時間に合わせている。首にも時計遺伝子があって、その時計は、朝ご飯で合わせている。肝臓にある細胞は、アルコール分解系の動きを制御する時計を持っていると考えられる。それぞれの抹消にある時計が動いていて、オーケストラのように全体を指揮する時計があると考えられる。数十個の時計遺伝子が同定されている。

 

どんな時に時計がおかしくなるのか?

遺伝的な病気の人から時計遺伝子の変調について明らかになってきた。遺伝的なものpiliod2にスニップスがあるモルモン教の人、寝てばかりの人、反対に寝られない人にも時計遺伝子の欠陥があることがわかった。

 

脳の時計を見る方法

MRIなど診察機器では見えない。しかし、メラトニン分泌で挙動がわかる。夜にブルーライトを当てると時計が遅れる。これは、メラトニン分泌が遅れることで判る。つまり覚醒してしまう。朝は、覚醒ホルモンであるコルチゾールの挙動を見ることで判定する。

 

薬は、飲む時間が決まっているが、食品も実は同じ要素がある。もとは、演者は薬学者である。同時に食品にも興味があったので「時間栄養学」を10年くらい前から進めている。朝向いている食事とは。夜に向いている食事とは、と考えて見るときっと興味ある現象を見つけることができると考えた。

 

ネズミにいろいろな食品を食べさせて実験した。解析できるようにと現実には、食品組成を分解して栄養成分を純度の高い試薬で置き換えた餌を与えた。これは大変高価な餌となったが、幸いにも研究資金もあちこち稼げて研究を進めた。

 

夜食の実験

ブドウ糖で出てくるインスリンの分泌で体内時計を合わせていることが分かった。インスリンが出にくい人は?時計はどうなっているのか?疑問が多々あった。実験の結果、たんぱく質を多くとっていると、インスリン様成長因子が働いていることが分かった。つまり食事のタンパク質が時間の調整に役立っていると言うことがわかった。さらに、たんぱく質と同等のアミノ酸量と組成は、イコールの作用ではなかった。たんぱくを食べた方が時計効果は高かった。アミノ酸の中では、システインだけが時計同調効果を示した。

 

コーヒーは夜飲むと本当に悪いのか?

ネズミで実験したところ、夜中にコーヒーを飲むと時計が遅れる。夜型化を助長するする結果となり論文発表した。すると直後にアメリカのグループがヒトで実験してサイエンス誌に掲載した。早く発表して良かった例だ。

 

油脂と時計遺伝子?

3代栄養素の時計作用を調べようと、いろいろな油も試験を行った。魚の油なかでもマグロの油が時計を合わすのに効果があった。そしてDHAとEPAの両方を与えた時の効果が高かった。腸管に存在するこれらの油脂の受容体と反応して、インシュリンの分泌促進がおこり時計が調整されるメカニズムがあることがわかった。

 

時計と漢方薬との関係も興味を持っている。

(株)ツムラからもらえるだけ生薬をもらって試験してみた。細胞とネズミで時計への反応を見ている。ちょれい(猪苓)マイタケが時計と関係していた。実験方法は、マウスの肝臓細胞を光らせる組換えを行い、そのマウスにちょれいを与えた時だけ光って反応することで証明した。

 

脂肪代謝も朝が活発(’19年12月の論文)

サントリーと共同でセサミンの脂肪脂質代謝の影響を調べた。コレステロールの代謝への影響は、朝にセサミンを摂取した方に効果があがった。一方、中性脂肪の代謝への影響は、朝夕どちらの摂取でも違いがなかった。作用メカニズムとしては、朝は胆汁が出やすいので消化が迅速に進と考えられる。

夜のほうがいいのは、カテキンであった。

 

イヌリン

イヌリンは、果糖の糖鎖であり、食後血糖の上昇を防ぐ効果および腸内細菌の生育促進効果があると報告のある物質でキクイモに65%程度含まれている。キクイモパウダーを毎日5g3週間食べてもらって血糖と腸内細菌叢の変化を調べた。

腸内細菌叢 朝食べた群は、細菌叢が変わったので効果があるかもしれない。30人の腸内細菌叢はバラバラであったが、バクテロイデス属菌がより多かったのは朝食群であった。血糖値を抑え、便通をよくしたのは、朝に食べた人であった。

 

時間栄養学的なたんぱく質の取り方

食べる量は同じにして、朝夕を比べた。たんぱく質を朝に摂るのがより栄養になっている。夜を多くすると効率低く、無駄食いになっている。朝型人間でのたんぱく質の取り方も朝が多いと調査が示している。

 

柴田先生は、活発にいろいろの活動をされており、港区の小中学生の食育の委員もやっているとのことでした。

文責:食品技術士センター