愛知サマーセミナーが熱い

 「食品技術士リレーシリーズ」        食品化学新聞2018年7月12日掲載分

  横山 勉    技術士(農業部門)[横山技術士事務所]

 毎年七月、名古屋市で開催されるイベントがある。開催日は第三月曜(海の日・休日)を最終日とする三日間。梅雨が明けて気温が上昇する時期だ。この暑い名古屋をさらに加熱するのが「愛知サマーセミナー」である。市民から親しみを込めて「サマセミ」と呼ばれる本イベントのなにが熱いのか。誰でも講師になれ、誰でも無料で参加できる。市民と学校が結びついた参加型セミナーなのである。昨年の講座数は二千百超で、総参加人数は六万五千人に達したという。

 主催者は「愛知サマーセミナー実行委員会」「愛知県私立学校教職員組合連合」など五団体。「愛知県」「愛知県教育委員会」をはじめ名古屋市を含む全市町村と全教育委員会の後援が加わる。毎年会場が変わり、テーマも変わる。この企画からスタートになる。続いて、講座希望者の募集になる。応募があった講座を把握して、日時や教室を割り振る。ネット上のフォームによる応募は、自動的にデジタル・データ化できる。ただし、郵送による応募もあり、人手による入力が必要だ。これらを整理して、案内用の冊子を製作する。運営に必要なファシリテータやサポータなどは、関係者の父母が多い。高校生の活躍も称賛したい。約五百講座は彼らによるもので、炎天下の道案内に協力する者も多い。初回の一九八九年から二九年も連続開催してきた継続力もスゴイ。関係者に敬意を表したい。

 上記外に、大変な作業がある。名誉校長と特別講師の選定である。二〇一七年は名誉校長に益川敏英氏が就任された。周知のとおり、素粒子研究でノーベル物理学賞を受賞された方である。特別講師は元中日選手の川上憲伸氏や日本将棋連盟会長(九段)の佐藤康光氏など各界の著名人が名を連ねる。彼らに準じる特別講師も加わる。主催者が必要と判断した講師陣である。合計すると、特別講座は七十数件になる。これらの方々との交渉も、苦労が多い作業であろう。

 筆者も特別講師の末席を汚させていただいている。昨年は、「醤油の由来と最新動向」というタイトルで講演した。八年目になるが、初回「おいしさを造る微生物」に続いて、「地球を救う・大豆変身物語」「麹菌を科学する」「食品保存物語」「農作物の由来と行方物語」などのタイトルが挙げられる。聴講者は一般市民と高校生が多くを占める。わかりやすく表現する必要がある。同じテーマは避けたいので、手持ちの素材の中から選択している。今年も声がかかれば、初回テーマの範囲を広げ、「発酵食品物語」にするつもりだ。微生物の働きだけでなく、食材中の酵素作用による発酵食品も存在する。

 市民や学生を対象にして、筆者が話をするのは理由がある。リスコミ(リスクコミュニケーション)である。社会のステークホルダーたる行政、専門家、企業、市民などの間で、食のリスクに関する正しい情報を共有することをいう。市民に嫌われるのは、食品添加物に農薬、遺伝子組換え食品である。筆者はこれらを総括して「食品の嫌われ者三兄弟」と呼んでいる。直接テーマにする訳ではないが、講演中の関わる部分で理由とともに全く問題ないと紹介している。いわゆる健康食品の問題もある。酵素を謳う大部分の商品は無意味であることも話す。その後の雰囲気を捉えることが肝要である。「その様な訳はない」という表情の聴講者も存在する。講師と聴講者という立場の違いは大きい。できるだけ自由に意見を述べてもらえる状況を作る努力をしている。

 サマセミに伺う大きな理由は、上記リスコミの力量向上にある。この過程が楽しいことも確かである。当然のことだが、人々は危険情報に敏感である。そうであっても、玉石混交の中から信頼できる情報を識別することが求められる。食品安全委員会のサイトを見るように勧めている。講演参加者から、「酵素製品の愛用者だけど、止める」という感想をいただいたことがある。複数の女子高生と一緒の写真撮影を求められたこともある。参加してよかったという気持ちになるではないか。

 別の楽しさもある。名古屋にはユニークな料理が、たくさん存在する。あんかけスパ・小倉トースト・天むす・味噌カツ・手羽先・味噌煮込うどん・台湾ラーメンなどである。関東に進出してきたコメダ珈琲「シロノワール」本場の味は、一味違うと感じたものだ。それでも、全料理制覇には程遠い状況である。博物館などの文化施設も充実している。決して他都市に負けない魅力があると考えている。

食品化学新聞より許可を得て掲載しております