フィジーの農産加工業

「食品技術士リレーシリーズ」       食品化学新聞2018年7月26日掲載

齋藤 健   技術士(農業部門)

 南太平洋の島しょ国から南瓜やモズクなどが日本へ輸入されているという話を聞く。私はちょうど2000年の正月をはさんで2か月JICAの農産加工の専門家としてフィジーに滞在したのでこの地における農産物生産状況や加工と輸出の状態について報告をしてみたい。フィジーは南緯18度近くの総面積1万8千平方キロ(四国程度の面積)人口80万の島国である。日本からは首都スバのあるビチレブ島のナンデイ空港まで8時間半のフライトである。政府機関のある首都スバには陸路4時間、途中海岸線沿いにある多くのリゾートホテルの前を通過して到着する。

 さてフィジーはフィジー系とインド系のほぼ半々からなる複合民族国家である。主食は前者がタロ、キャッサバ等の塊茎作物、後者は米であり米作、サトウキビ栽培に従事する。少数の中国系住民がトマト、ナス、キュウリ、カボチャ、西瓜などの野菜を生産している。農産物の主力を占めるものは依然としてサトウキビであり、製品の粗糖は英国へ年間30万トン以上輸出されている。世界的に砂糖と競合する異性化糖の生産が増えて砂糖の国際相場が低迷していることから政府は農業多様化計画を発足させ、企業的農業で輸出用作物の多様化に努めている。代表的なものが生姜、パイナップル、パパイヤであり、近隣諸国へ移住したフィジー人に対するタロ、キャッサバなどの輸出も増えている。米作はかって日本からの技術援助で作付けから精米までなされたが、隣のオーストラリアから買った方が安いというので年間1500万ドル輸入されている。

 農産加工品としては、生姜のシロップ漬け、クリスタル製造がオーストラリア人によって運営される会社が二つ存在する。製品は欧州へ輸出されている。彼らは事業拡大を狙って日本向けのスライスした寿司用のガリを狙っている。バナナは鮮度の高いものをピューレに加工して缶詰めの離乳食として欧州へ輸出している。製糖工場の副産物である廃糖蜜は発酵と蒸留によってラム、ジンに加工されて国内販売されている。また水産加工業として鯖や鮪の缶詰めを製造する企業が韓国人によって運営されている。これら輸出用の缶詰め工場はHACCPに基づいて記録と管理がなされている。農産加工業の弱点は生姜やバナナなどの主原料以外は缶詰の缶まで輸入に頼らざるを得ないということである。ビール醸造もされているがモルト、酵母も輸入している。逆に加工賃が安いことからニュージーランドから冷凍肉を輸入して缶詰めにして再びニュージーランドへ輸出しても採算が取れるという状態である。

 もう一つフィジーで特別の農産物はヤンゴナという塊茎作物であり、現地ではカバと呼ばれている。すり潰して伝統的な飲み物として使われているし、米国、欧州へ天然物由来の鎮静作用のある生理活性物質として乾燥物あるいは抽出物として輸出されている。その量は2000年には3600万ドルと粗糖に次ぐ位置を占めるようになった。したがってフィジー系農民にとってヤンゴナは重要な換金作物となっている。政府もこの産業振興のためカバ評議会を農水省の傘下に置いている。カバの生理活性物質とはカバラクトンと言われる鎖状の芳香族化合物であり化学構造では6種類がわかっている。含有量は幹よりも塊根部に多く含まれ、栽培年数、品種などによって3%から20%の間で変動する。従って栽培に当たっては品種選択、栽培方法、収穫後処理などに注意する必要がある。日陰と年間2200ミリ以上の降雨も必須である。ドイツではカバ乾物原料からラクトンを抽出して薬局で天然由来の鎮静剤として販売されている。些細なことで切れて殺人傷害事件をおこす最近の若い日本人には勧めても良いトランキライザーではないかと思う。その他生姜の加工品やバナナピュレー、パパイヤ、マンゴの輸入など日本にとっては面白いかもしれない。

 フィジーとくればスキューバダイビングを思い浮かべる事と思う。現地では4日間の講習が300ドル程度で受けられた。条件は脚の立たない深い潜水用プールで30分間続けて泳げること、英語で講習を受けられることだけであった。70歳近い筆者でも10メートルの水深で10分間近く潜り南太平洋の海中を楽しむことができた。バデイーの免許を得るためには25メートルの水深で30分以上潜水できることが第一の関門である。

筆者紹介:発酵工業会社、国連食糧農業機構、ODAコンサルタントとして農産加工・流通改善の経験あり。日本エッセイストクラブ会員。