辛味革命『香辛子』~フルーティで、辛味の後味が良いトウガラシの物語

2018年10月20日講演録

「辛味革命『香辛子』~フルーティで、辛味の後味が良いトウガラシの物語」
関 哲也 氏
    味の素株式会社イノベーション研究所  
      先端融合研究グループ主任研究員 

 トウガラシを改良して辛さがほとんどなく、うまみと香りを高含有する新しい唐辛子を作出して食品への応用を行った。その仕掛けと仕組みを講演いただいた後、辛くない唐辛子の試食も行った。

トウガラシの特徴
 ハバネロは、辛さだけでなく香りが甘いのが特徴です。南米ではフレーバーとして利用しているし、メキシコ料理にはなくてならない食材なのです。辛さだけでない香りやうまみを持っていることに着目しました。しかし、現実には、辛さが強く圧倒的に表に出るので、うまみにまではなかなか行き着かない。ならば、辛さ(カプサイシン)を無くした唐辛子へと育種すれば、香りとうまみを誰でも楽しめる唐辛子になるに違いない、とこのプロジェクトは始まった。          

 唐辛子は、栄養分も多い植物です。カロチノイド7.7mg/100gは、トマトの14倍。ビタミンE8.9mgは、トマトの10倍。食物繊維8.9gは、ごぼうの8倍に当たる。さらに、作物としての唐辛子は、熱帯でも温帯でも各地で栽培されている栽培しやすい植物なのです。

辛くないトウガラシ
  矢澤(京都大学)らによって、Capsicum annuum種の辛味品種CH-19から、辛味を持たないが、発汗作用のある突然変異体が分離された。その後、形質は固定・安定化され、品種CH-19甘として銘々登録された。「CH-19甘」(p-AMT(-/-)品種)はカプサイシンをほとんど含まず、新規化合物カプシエイトを多量に含有している。カプシエイト6mgの12週間連続摂取で基礎代謝量が50kcal/日増加し、摂取し続けると減量効果もあることがわかった。カプシエイトは、消化管内のTRPV1(カプサイシン受容体)に結合して作用を生んでいた。

辛さ物質はフェニールアラニンの代謝物
   辛さ物質のカプサイシンと香りうまみ物質のカプシエイトの分子レベルでの相違はカプサイシンの1個の窒素原子が酸素に置き換わったのが、カプシエイト。                     図 1

すなわちアミド結合が、エステル結合にかわっただけのとても近似した物質(図1)なのだが、辛さは1/1000に減少しています。特徴は、いずれも芳香族アミノ酸のフェニールアラニンから生合成されてくることです(図2)。

                    図 2                      

 カプシエイトの生合成や蓄積量を研究して行くとトウガラシの種々の性質もわかってきました。「CH-19甘」では、カプシエイトは未熟果では含有するが、成熟するとなくなる、ことも明らかになりました。プロジェクトチームとしては、もっと高含量のカプシエイトがほしくなった。トウガラシは、ナス科でトマトと同じ仲間なのです。                     

 Capsicum chinense種のトウガラシは、とてつもなく辛いトウガラシとして有名です。ギネスブックによれば、カプサイシン50mg/gと最高の含有量は世界で最も辛い品種とあります。プロジェクトチームは、この品種を改良しカプサイシンを作るのでなく、カプシエイトを作る品種へと改良を行いました。     
  実は、カプサイシンもカプシエイトも芳香族アミノ酸のフェニールアラニンを経た後、図2の経路を代謝されて作られています。カプシエイトは、カプサイシンと生合性系は、1か所異なるだけなのです。
                                          

 Phe→バニリン→バニリルアミン→カプサイシン                             
→バニリルアルコール→カプシエイト

品種改良はコツコツと行われ、辛みの量を千分の1に減少させた品種に到達しました。すなわちカプサイシンへの流れをカプシエイトへと切り替えることに成功したのです。この品種は、「CH-19甘」よりも7倍も多くのカプシエイトを含有しており、しかも、熟成が進むほどにカプシエイト含量は増加して、赤く熟成したトウガラシがカプシエイトをたくさん含むという品種となりました。これを大量に作付けして、種々の食品、調味料の開発に向けることとなりました。

フルーティーな香りがリッチなトウガラシ  
     生合成系の研究は、さらなる成果も引き出してくれました。トウガラシにはたくさんの品種があるのですだが、C. baccatamの香りは、レモン風味、C. chinenseは、青臭い香り少なくフルーティーな香りを豊富に含むことが特徴です。ガスクロで測定しても揮発成分のピークが豊富に検出できます。特に強い香りは、8-Methyl-6-nonenic acid 1-hexanic acid および類縁エステル類で、ナチュラルなエステルフレーバーを豊富に含む植物となり貴重であると珍重しています。
   さらに、バニラビーンズの香気成分も生合成することができました。Dihydrocapsiateからバニリルエステル → バニリルアルコールへと反応が進む。アルコールの種類を変えれば多様なエステルが生成可能で、豊かなバニラビーンズの香気成分となるのです。                   

   辛くないトウガラシは、発展性があって、これから種々の利用の道を開発していきます。興味のある方は、一緒に開発もできればと思っております。

(文責:食品技術士センター)