食品テロ計画・覚書

食品化学新聞 食品技術士リレーシリーズ2017年12月11日掲載

横山勉 技術士(農業部門)横山技術士事務所

 俺は加工食品を製造している工場の作業員だ。食品テロを計画していることを告白する。検討してきたことをまとめておく。最初に理由を説明しよう。会社の評価や給料・工場の勤務条件に不満がある。現在の日本社会も面白くない。好景気というが、実感はない。儲けているのは金持ちばかり。俺の給料は多少増えているが、スズメの涙だ。社会を大混乱させれば、スッキリするだろう。

 ソフトターゲットに車で突入というのは、除外した。血を見るのは不快で、逃亡も困難なためである。食品テロなら、繰返し実行でき、逮捕を免れる可能性がある。調査してきたが、過去の事件や食品防御ガイドラインは参考になる。会社に不満があるが、周囲に悟られないよう努めている。工場で製品をキズつけるといった悪戯をしたい気持ちはあるが、抑えている。

 重要なのが、混入させる有害物の入手である。さらに、どこで・どのように混入させるかの配慮が必須だ。有害物をハザードというらしい。生物・化学・物理の三分野に整理できるという。生物関連は食中毒や病気を起こす微生物がある。基本的に入手困難だが、不可能ではないだろう。化学関連では農薬が挙げられる。ホームセンターで入手可能だ。トリカブトなどの自然毒も候補になる。物理関連なら、縫針やカッターの刃などがあり、いずれも簡単に準備できる。社内の品質管理部に製品サンプルを届けている。そこでは、微生物や化学薬品を扱っている。これらを入手できれば、使えるかもしれない。

 有害物の特徴も把握した。微生物は摂食時に気づくことはなく、被害が現れるまで時間がかかる。農薬などの化学物質は臭気・味により、すぐ判明するだろう。ただし、無味無臭の有害物質も存在する。混入量によるが、毒性が現れるのは短時間である。縫針なども、摂食時に気づくことが多い。

 どこで有害物質を混入させれば、よいだろう。工場内は不可である。俺の作業衣は、ポケットがなく、私物持込み禁止である。製造時間と勤務実態・監視カメラから犯行はすぐバレる。これはアクリフーズ事件から、誰でも理解できる。倉庫や流通工程も適切ではない。前述のガイドラインに沿って、対策が進められている。企業により差異があるが、外部からの侵入は容易ではない。

 これらに比べ、スーパーの店頭はどうだろう。不特定多数の人間が自由に出入りしているのに、吃驚するほど無防備ではないか。俺が作っている製品も並んでいる。社会の混乱であれば、総菜コーナーやレストランのサラダバーも有望な候補である。どこにするか、迷うほどだ。食の製造から食卓までをフードチェーンというらしい。頭の部分は対策が進んでいるが、尻部分は丸見えである。「頭隠して尻隠さず」というのは、正にこのことだ。

 スーパーなどで総菜がむき出しになっていれば、有害物混入は容易である。ただし、監視カメラの有無は重要なポイントになる。総菜コーナーに開閉する透明カバーを設けている例がある。さらに、店員の眼が感じられる店舗もある。このような防御が進んでいる店舗は、テロ対象から除外しよう。防御不足のスーパーやレストランが山ほど存在するためである。

 有害物の混入は、自宅で行うつもりだ。犯行が分かり難いためである。混入品を図書館や自販機取出口などに置くことが、選択肢になる。犯人特定が困難なためである。ただし、社会を大混乱させるには至らないだろう。子供たちの教育が対策になるからである。おかしな食品があれば、警察に届けることを教えればよい。混入製品をバックに忍ばせて、スーパー店頭に置くことにしよう。二千二十年の東京オリンピックで盛上った時に、テロが公になるよう準備を進めている。俺が願っている効果を最大にするためである。消費者は総ての加工食品に不安を感じることになるだろう。

 水道についても触れておこう。水道水に不安が生じれば、社会の混乱効果は大きい。事故例があるクリプトスポリジウムという生物ハザードがある。これは取水時に検査している。また、数十種類の有害物質を分析しており、頭部分のスキはなさそうだ。ただし、ビルなどの屋上に設置されている給水タンクの防御は心許ない。ここも尻隠さずである。

 以上、テロリストの視点から配慮すべき事項を記した。スーパーやレストランなどは食品防御の対策が遅れている。食品テロがいつ発生してもおかしくない。従業員教育とともに、可能な部分からハード面の対策を進めていきたい。同時に、ビルなどの給水タンクの点検も併せて行う必要がある。

食品化学新聞より許可を得て掲載しております