検便でノロウイルスは防げない

食品化学新聞 食品技術士リレーシリーズ2017年6月21日掲載

横山勉 技術士(農業部門)横山技術士事務所

 2017年2月、立川市にある七つの小学校でノロウイルスによる食中毒が発生した。判明した原因食が「刻み海苔」と聞いて驚いた方が多かったに違いない。乾物は食中毒とは縁遠い食品というイメージがあるからだ。細断・梱包作業は委託先の作業員が行った。下痢症状があったにも関わらず、素手で作業を行ったことが原因とされたようだ。

 下痢等の自覚症状がなく、手袋を着用していれば、問題はなかったのだろうか。実はそのような状態でも、ノロウイルスによる食中毒が発生している。2014年1月、浜松市の給食パンが原因となった集団食中毒では、手袋を着用していた。スライス食パンを1枚ずつ異物検査する過程で付着したらしい。手袋の着用手順が悪かったと指摘できるが、本質的な原因とはいえない。

 頻発するノロウイルス食中毒に業を煮やして、厚生労働省は「大量調理施設衛生管理マニュアル」の改正を行った(2016年10月)。この中に「10月から3月(流行期)は、月に1回以上のノロウイルス検便検査を受けさせるように努める」という内容が加えられた。意図は理解できるが、筋のよい対応とはいい難い。検査は一部分の抽出でしかなく、プロセスの妥当性確認が目的になるためである。品質は、プロセスで作り込む必要がある。

 通常の検便では、赤痢・サルモネラと腸管出血性大腸菌に関して、3から5項目の検査を行う。料金は千円台である。ノロウイルスの場合、簡便なイムノクロマト法で3500円、高度なリアルタイムPCR法では1万円程度と高額であることにも難がある。それ以上に、陽性者が多く検出され、現場が混乱することを懸念する。

 ノロウイルスの感染源として、カキ等の貝類がよく知られていた。状況が変化して、現在ではヒトからの「便口感染」が多数を占めると考えている。2006から2007年は、新しい免疫型が生じたため、大流行が起きた。2015年、同様に新免疫型が認められ、流行拡大への注意喚起があった。現在も本状況が継続している模様である。新型により流行が拡大するのは、インフルエンザとよく似た現象である。異なるのは、インフルエンザは感染者を容易に認識でき、小学校等における学級閉鎖も頻発している。ウイルスの場合、下痢や嘔吐といった典型的な感染者を周囲に観ることは稀である。食中毒事件を除いて、集中して感染者が発生することはない。

 新型ノロウイルスにより大流行が起きるのは、多くが免疫を持っているということを意味する。典型的な感染者が少ないのに、免疫を持つ者が多いのは何故だろう。感染して小腸内でノロウイルスが増殖しても、発症しない不顕性感染が多いためである。また、「おなかが緩めだな」「風邪気味かな」という程度で完治することも少なくない。不顕性感染者は排出ウイルス量が少ない傾向だが、大差はない。状況によるが、ノロウイルスの排出期間は2から4週間におよぶ。

 感染源として、注視すべきは不特定多数が使用する駅や飲食店のトイレである。状態は様々である。一見して使用をためらうところもあれば、きれいに管理されているケースもある。清潔に見える後者であっても、冬季はノロウイルスだらけと認識すべきだ。便器周辺はもちろん、手洗いの蛇口やドアノブの汚染は濃厚に違いない。トイレットペーパーの三角折はいうまでもない。これらに触れた手で顔を触れば、遠からず相当数のノロウイルスが体内に入る。感染成立は、小腸まで達した数と本人の免疫力による。以前いわれていた10個は少なすぎるが、100個レベルなら十分に感染が成立する。

 ノロウイルスでも、プロセス管理が可能である。まず、作業者教育が必須である。上記状況をシッカリと理解いただく必要がある。濃厚な汚染箇所を触らないことが、感染しない要点になる。さらに健康であっても、自身が不顕性感染であるとして行動すべきだ。重要なのが、①作業前の手洗いであり、②大便後の処置である。①が的確ならば、感染者であっても「作業可能」と考える。手洗いにも要点がある。ネット検索して正しい洗浄法を学んでほしい。上記がソフト面の対応になる。

 ハード面では、作業者専用のトイレ設置が好ましい。手洗い部の洗剤や水、ドアの開閉は自働にしたい。手洗いは疎かになりやすいため、録画カメラを設置することも一つの考え方である。これは、食品防御対策にもなる。ノロウイルスは、活性ウイルスを培養細胞によりようやく識別できるようになった。今後、より適切な対応が進むことを願っている。

食品化学新聞より許可を得て掲載しております