L-グルタミンと食品用酵素

食品化学新聞 2016年6月2日掲載

白兼孝雄 技術士(生物工学部門) 白兼技術士事務所

 L-グルタミン(Gln)は、L-グルタミン酸とアンモニアからグルタミンシンテターゼによって生合成される。
 Glnは非必須アミノ酸の一種で、ヒトの体の中に一番多く存在するアミノ酸である。特に筋肉では約60%をGlnが占める。筋肉を強化したり、腸の働きをサポートしたり、免疫機能を高める効果がある。
 運動後や日常生活で消費されたGlnはサプリメントとして補給されるが、水に溶けにくく溶けても比較的速やかに非酵素的な反応によって環状化(ピロ化)し、うま味のないL-ピログルタミン酸(5-オキソプロリン)になりやすい。Glnの物理化学的な欠点を改善するために、L-アラニル-L-グルタミンが化粧品や輸液製剤にGlnの代替品として使われている。

 一方、食品中の遊離Glnやタンパク質中のGln残基は、食品用の様々なグルタミナーゼによって酵素的に加工され、その呈味性やタンパク質の物性が改善されている。本稿では、酵素科学的な視点から各種グルタミナーゼの特長に触れてみたい。

① グルタミナーゼ
 グルタミナーゼ(EC 3.5.1.2)は、Glnを加水分解してL-グルタミン酸とアンモニアを生成する酵素である。
 L-グルタミン酸ナトリウムは「うま味調味料」として多用されている。そこで、味噌、醤油などの発酵調味料やタンパク質を酵素的に分解して得られる調味食品に、グルタミナーゼを添加することによりGlnを加水分解してL-グルタミン酸を産生させ、うま味を増強した食品を作ることができる。
 L-ピログルタミン酸はピログルタマーゼによってL-グルタミン酸に変換されるが、一般的に用いられる酵素ではない。
 なお、グルタミナーゼのアミノ基転移反応を利用し、Glnとエチルアミンを基質としてL-テアニン(ストレス緩和や睡眠改善効果などがある緑茶のうま味成分)の工業的生産技術が確立されている。

② ペプチドグルタミナーゼ
 2種類のバチルス属ペプチドグルタミナーゼが報告されている。ひとつはペプチジル-グルタミナーゼ(EC 3.5.1.43)で、オリゴペプチドのC末端のGln残基に作用して脱アミドする酵素である。もう一つはプロテイン-グルタミングルタミナーゼ(EC 3.5.1.44)で、トリペプチドのN末端から2番目のGln残基に作用して脱アミドする酵素である。インシュリンA鎖(酸化型)のようなポリペプチド中のGln残基には作用する。これらの2種類の酵素の実用的な用途は報告されていない。

③ トランスグルタミナーゼ
 トランスグルタミナーゼ(EC 2.3.2.13)の系統名は、プロテイン-グルタミン:アミンγ-グルタミルトランスフェラーゼである。タンパク質分子間架橋重合、タンパク質分子の脱アミド、タンパク質分子への一級アミン導入の3種類の反応を促進する転移酵素である。
 本酵素のGln残基の脱アミド反応はペプチドグルタミナーゼの反応と同様であるが、タンパク質分子間の架橋重合反応に最も大きな特長があり、食品タンパク質の改質が可能となっている。
 麺類の小麦タンパク質の改質を初めとして、水産練り製品、食肉加工品などの食感、物性改良にトランスグルタミナーゼが広く利用されている。

④ プロテイングルタミナーゼ
 タンパク質中のGln残基を脱アミドする酵素は、これまで存在する可能性が指摘されていた。しかし前述のプロテイン-グルタミングルタミナーゼは分子量5千以下の低分子ペプチドにしか作用せず、高分子タンパク質に作用する酵素は知られていなかった。
 クリセオバクテリウム属のタンパク質脱アミド酵素(プロテイングルタミナーゼと呼称)が新たに見いだされた。高分子タンパク質(カゼイン、小麦グルテンなど)のGln残基を効率的に脱アミドする酵素であるが、トランスグルタミナーゼのようなタンパク質分子間の架橋重合反応は認められない。

 本酵素の食品工業への新しい応用として、タンパク質の機能性改善(溶解性、乳化性、気泡性など)が期待される。しかし、第583回食品安全委員会において、平成19年8月2日付けで厚生労働大臣から食品健康影響評価要請があった本酵素については取り下げられたものと認め、調査審議は中止することとなった。
 酵素の特徴は一般の化学触媒と異なり、温和な条件(常温、常圧、中性付近)で、極めて高い触媒特異性(反応特異性、基質特異性)を発揮できることである。今後も、食品分野における酵素科学の進展に注目していきたい。

食品化学新聞より許可を得て掲載しております