ヒドロラーゼとリアーゼ

食品化学新聞 2018年4月26日掲載

白兼孝雄 技術士(生物工学部門) 白兼技術士事務所

 酵素には、その反応特異性と基質特異性の違いにより、酵素(EC)番号(4組の数字)と、系統名および常用名が与えられている。
 酵素はまず、その反応特異性により6つのクラスに主分類される。EC 1はオキシドレダクターゼ(酸化還元酵素)、EC 2はトランスフェラーゼ(転移酵素)、EC 3はヒドロラーゼ(加水分解酵素)、EC 4はリアーゼ(脱離酵素)、EC 5はイソメラーゼ(異性化酵素)、EC 6はリガーゼ(連結酵素あるいは合成酵素)である。

 酵素は、さらに基質特異性により、サブクラス、サブ-サブクラスに分類される。
① ヒドロラーゼ
 食品業界では、デンプン、タンパク質、脂質、核酸、植物組織などを加工する酵素が広く用いられている。一般的には、高分子有機化合物を加水分解して低分子有機化合物を生成するヒドロラーゼの利用が主体である。
 例えば、デンプンの液化・糖化によるグルコースの工業的生産においては、α-アミラーゼ、枝切り酵素、グルコアミラーゼが用いられている。タンパク質からアミノ酸調味料を製造する場合には、プロテアーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼが用いられている。脂質(油脂)をリパーゼにより加水分解して、モノまたはジアシルグリセロールや脂肪酸を製造する。
 一方、食品加工におけるリアーゼの使用例は少ないが、本稿ではその興味ある多糖類への用途について紹介する。

② ペクチンリアーゼ
 ペクチン質の主成分は、D-ガラクツロン酸がα-1,4結合した多糖(ポリガラクツロン酸)である。D-ガラクツロン酸のカルボキシル基がメチルエステル化されたものをペクチン、メチルエステル化されていないものをペクチン酸と呼ぶ。
 ペクチンはゼリー形成力を有しており、果物のジャム類を製造する際の重要な成分である。
 ペクチンを脱離分解するペクチンリアーゼは、ペクチンエステラーゼやポリガラクツロナーゼとともに、果汁やワインの清澄化、果汁搾汁率の向上などに用いられている。
 また、4.5-不飽和ガラクツロン酸分子を含むペクチンオリゴマーは、例えば腫瘍の形成・転移の抑止などの薬学的利用が思考されている。

③ アルギン酸リアーゼ
 アルギン酸は、コンブやワカメなどの海藻に含まれる直鎖状の多糖(β-D-マンヌロン酸とα-L-グルロン酸が1,4結合したポリウロン酸)である。アルギン酸は増粘剤やゲル化剤などとして様々な分野で利用されているが、最近その酵素分解物を機能性食品素材などに利用しようという試みが実行に移されている。
 アルギン酸を加水分解するヒドロラーゼは発見されていないため、エンド型およびエキソ型のアルギン酸リアーゼを活用する。
 エンド型アルギン酸リアーゼは、アルギン酸の内部の1,4-グルコシド結合を脱離分解し、不飽和ウロン酸を非還元末端にもつ不飽和オリゴ糖を生成する酵素である。この不飽和オリゴ糖をさらに分解し、不飽和ウロン酸を生成するエキソ型アルギン酸リアーゼも報告されている。この不飽和ウロン酸は非酵素的に開環し、4-デオキシ-L-エリスロ-5-ヘキソロースウロン酸(DEH)になる。
 不飽和オリゴ糖(アルギン酸オリゴ糖)は市販されており、機能性食品、化粧品などの用途がある。DEHは、アルギン酸由来の希少糖として生理機能が期待されている。

④ α-1,4-グルカンリアーゼ
 α-1,4-グルカンリアーゼは、デンプンなどのα-1,4-グルコシド結合の非還元末端からグルコース単位で脱離させ、1,5-アンヒドロ-D-フラクトース(AF)と呼ばれるアンヒドロ糖を生成するエキソ型酵素である。
 AF はケト-エノール互変異性のため、水溶液中では2-エノール型、2-ケト型、2,3-エンジオール型などとの平衡にあるが、希薄溶液中では水和型が優勢となる。
 AFは、食品分野での用途が期待されている。食品などの酸化防止剤としての利用、抗菌性ではグラム陽性細菌に対する生育阻止能、血糖値上昇抑制効果などの機能性が有望視されている。

⑤ グルクロナンリアーゼ
 β-1,4-グルクロナン(セロウロン酸)は、触媒酸化で得られるセルロースのC6位の水酸基が酸化された酸性多糖であり、グルクロナンリアーゼにより分解されることが明らかになっている。
セルロースを始めとした木質系バイオマスの有効利用の一環として、β-1,4-グルクロナンは生分解性を有するため、新規セルロース誘導体としての利用が期待されている。
 以上、多様なリアーゼの触媒作用を生かすことにより、多糖類の脱離分解から生まれる新たな糖質の用途展開が望まれている。

食品化学新聞より許可を得て掲載しております