“〇〇フリー”な商品

食品化学新聞 2018年10月25日掲載

東 剛己 技術士(農業(農芸化学)、総合技術監理)

 日本と同じように欧米でも「〇〇フリー」は商品として訴求力があるようで、2010年頃には「フリーフロム商品」というカテゴリーができあがっていた。
 「フリーフロム(free from)」とは原材料から消費者が健康に悪いと思っているであろう物質を取り除いた食品のことを指す。除かれるのはアレルギー物質、遺伝子組み換え作物、食品添加物、抗生物質など様々だが、販売者によって考え方は違う。日本ではイオングループが具体的な物質名をHPに公表し、「フリーフロム」という言葉を使って商品訴求をしている。この言葉が使われなくても、店に行けば様々な「〇〇フリー」の商品を見かけるので、すでにおなじみの販売方法だろう。似て異なるものに「ギルトフリー商品」というのもある。これは罪悪感がない商品ということで、砂糖や小麦粉や食品添加物などが避けられるようである。

 このような「フリーな商品」は科学的な安全性や毒性の評価、栄養学的な知見とは全く別である。あくまでも「消費者が嫌うであろう物」「罪悪感を持つであろう物」を避ける「販売戦略」である。乳化剤や合成着色料、保存料、中国産原料など、安全性に対して根拠があろうが無かろうが、消費者が嫌いそうだと思えば入っていないことをアピールして売上につなげていく。
 こういった「消費者が嫌うであろう物」はどこから生まれてくるのだろうか。

 一つは学会や論文等で発表された危険を示すデータである。遺伝子組み換え作物、一部の食品添加物はもちろん、脂質、糖質、ビタミンに至るまで、何かしら危険を示すデータというものは存在する。今まで気にしていなかった、むしろ安全と思われていた物が危険であるという報告が出ると一気に話題となり、マスメディアも大々的に取り上げる。もちろん危険を示すデータがあるからといって、その物質が忌避すべき危険な物と証明されたことにはならない。その後に蓄積される数多くのデータとそれをメタ分析した結果でやっと一定の評価が下されることとなる。かなりの場合、日常的な摂取ではまるで危険は無いという結果に落ち着く。そんな話題性のない情報は広まらないが。

 他の原因としては食品にまつわる事件や事故がある。中国産食品の「事件」や過去における食品・食品添加物の「事故」が思い出されるだろう。センセーショナルな事件や事故はとても印象に残るものだ。ただ、これらのほとんどは個別案件である。それ以外の現場や商品では問題がなかったり、すでに対策済みであったりすることの方が多い。それでも風評で否定されることになる。

 そんなこんなで話題となった物質は「フリー」という「販売戦略」によって完全に定着する。過去の学術データや事件のことをすっかり忘れてしまっていても、ある特定の物質を「フリー」と書けば消費者は「よくわからないがたぶん何かあったのだろう」と考え、それが入っていないことを安全と考える。化学っぽい物質名、「合成」「人工」などが書かれていれば完璧である。

 全く逆に、ある特定の物質を「〇〇配合」と大々的に書けば、消費者はそれが体にいい物だと勘違いする。古くから「ビタミンC」が有名で、「レモン〇〇個分」とか「レモンの〇○倍」という商品があふれている。冷静に考えてみればそれだけの量のビタミンCをとって本当に体にいいのか分からない。おそらくほとんどのビタミンCは体内で使われることなく排出されているだろう。

 「フリー」が健康とは無関係な販売戦略である以上、開発側と消費者側でも主張は微妙に違ってくる。「フリーな商品」を作るある程度知識のある開発者は、「フリーは消費者の要望であり、フリーだから安全ということを言っているのではない」と答える。なぜならフリーだから安全ですといえば自分の無知をばらしていることになるし、国や専門機関が安全と認めているデータを明確な根拠もないままに否定することにもなる。しかし、もちろん消費者にとっては「フリー」は「安全」なものであり、安全だから購入するのである。
 食品に携わる者としては、これ以上「フリー」にフリ回されたくないものだ。

食品化学新聞より許可を得て掲載しております