品種の名を冠した商品はおいしいか?

食品化学新聞 2018年6月14日掲載

東剛己  技術士(農業(農芸化学)、総合技術監理)

 「コシヒカリの日本酒」、「とよのか苺のクッキー」。世の中には品種をうたい文句にした商品がたくさんある。加工食品メーカーの開発者であれば、要望があるなら有名な品種の素材を取り寄せて商品を開発するだろう。しかし思う。「おいしくない上に価格が高いものを、なぜ開発しなくてはならないのか」と。

 そんな馬鹿な、と思うだろうか?
 前述を例にすれば、お酒を造るには通常「酒造好適米」を使用する。品種としては「山田錦」や「五百万石」が有名だ。当然こちらでお酒を造った方が品質の良いものができる。対して「コシヒカリ」や「ササニシキ」は白米用ブランド米である。炊けばもっちりとおいしいのは間違いない。しかし炊飯でおいしいからお酒にしてもおいしいと考えるのは大間違い。加工方法が違えば適する品種も違うのである。もちろん価格も高くなる。

 「とよのか」も同様にそのまま食べれば名前の通り香りが高くおいしい。つまり「生食用苺」である。これをクッキーなどの加工に使おうと水分を全て飛ばして粉状にすると、色も味も薄い特徴の無い粉ができあがってしまう。クッキーに使うなら「加工用苺」を使った方がいい。そのまま食べても酸っぱくて硬いもかもしれないが、色や味のインパクトが高く、加工に適している。品種としてはジャムに使われるヨーロッパ原産の「センガ・センガナ」が有名だろうか。もちろん価格も安い。

 有名な品種を使用した方が製品の価格は高くなる。ただし、それはおいしいからでも希少価値があるからでもなく、本来の使われ方と違うので、集めるのも加工するのも手間がかかるからである。
 もっとも、開発側と販売側では見方がかなり違う。販売側は、葡萄なら「巨峰」、リンゴなら「ふじ」、ミカンなら「温州ミカン」といった有名品種の名前を冠した商品を作りたいと考える。その方が高くても売れる。だから開発側に有名品種の素材を使うように指示してくるのである。商品そのものよりもイメージの価値の方が売上に直結するということだ。
 開発側も意地があるので、できるだけ要望に応じたおいしいものを作る。でもそれは有名品種を使ったせいでは全くない。商品に適した加工用の品種を使えばもっとおいしくなり、安くなることは間違いない。ただ、相手の要望なので仕方がなく高価な上に大しておいしくもならない有名品種を使う。

もちろん地産品種の利用を目的としているなら問題ない。本来の加工法で食した方がおいしいとしても、それだけでは消費が少ない。お酒にしたり、お菓子にしたり、ジュースにしたりして宣伝に利用する。知名度を上げることがとても重要だろう。

 品種が少なかった時代にはどんな農畜産物も限られた品種で色々な加工を行って、おいしく食していたはずである。ただ、加工方法が増え、品種も多様になるにつれ、よりその加工に合った品種を求めていった。
 米一つとっても、白飯、おかゆ、炊き込み、丼もの、おじや、カレー、チャーハンなど加工方法は様々。潰せば餅、焼けばせんべい、発酵させれば酒である。糯米の品種は餅やおかきに適しているし、ジャポニカ米の品種はご飯などの炊飯に、インディカ米の品種はカレーやピラフに合う。業務用米と呼ばれているものはメーカーが丼ものに適した品種、おにぎりに適した品種などを選定して使っている。酒造好適米の品種は言わずもがなである。決して「コシヒカリ」や「ササニシキ」が何にでも使える最高の品種ではない。「おかゆ好適米」とか「せんべい好適米」だってあるだろう。それは白米用ブランド米の品種とはもちろん違うはずである。

 そんなことを考えながら市場を見ていると、おいしさに全く影響しないであろう品種の宣伝が気になって仕方がない。「どうせ香料で似た味にしているだけだろ」、「たぶん味がわかるほど素材を入れてないよ」、「そのまま食べた方がおいしいのに」、などと妙に斜に構えて見ている自分がいる。

食品化学新聞より許可を得て掲載しております