「地方公設試」の活用術

食品化学新聞 2018年4月19日掲載

滝口 強  技術士(農業部門) 未来食品研究所 代表

 「地方公設試」あるいは「公設試」と呼ばれる、地方自治体によって運営される研究・支援機関があることはご存知と思う。その目的は、該当する地域の、主として中小企業を技術面から支援することで、私も現役時代は某県の公設試に所属していた一人である。それぞれの公設試は自治体の規模に応じて人員や規模・設備には差があるものの、中小企業へのさまざまなサービス提供を業務としているところは共通している。ここでは、公設試と呼ばれる機関の特色、機能から、その利便性、効果的な活用方法について述べてみたい。

食品関係の公設試
 食品関係を担当している公設試は、以前はほとんどの都道府県に1つずつあった。名称は、〇〇県食品工業試験場、〇〇県発酵食品試験場のようにさまざまであったが、現今では「食品」を冠している機関は少ない。機構改革のため、機械・金属・化学・電子、環境などの分野と統合され大きな「センター」になったためで、食品部門だけで独立しているところは少ない。以前は、各地域の特色を活かし、例えば山梨県ならワイン、青森県ならリンゴ、群馬県ならこんにゃくの加工というように、それぞれの特色と強みをもっていた。統合により特色はやや薄れ、名称も変わり、「食品」の名がなくなったといえども、公設試の中に食品部門は健在である。中には新技術への対応をアピールするため「バイオ」や「健康」、「機能」を冠する名称になっているところも多い。

困った時の駆込み寺もしくは主治医として
 公設試と企業との関係は、企業が困った時の駆込み寺あるいは主治医であると思えばよい。公設試の果たす役割は、技術相談、依頼試験、試験・研究、企業診断、情報提供など幅広い。基本的にどんな技術相談にも的確に対応し、相談者(つまり顧客)の抱える技術的問題の解決に努めるのが公設試職員の使命であると言える。私は現役時代、50歳を過ぎてから思い立って技術士資格を取得したが、技術士の業務は公設試研究員の日常業務の延長だなと思ったものだ。当時は中小、零細の企業の経営者や従業員が、それこそ種々雑多な問題を持ち込んできたもので、それに対してアドバイスしたり、簡単な試験をして証明書を発行したり、相談に応じていることに生きがいを感じていたものだ。私は公設試の研究員こそ技術士資格をもつにふさわしいとつねづね感じている。技術相談等は基本的に無料であり、どんな相談事でも拒まれるということはない。規模の大小にかかわらず、企業にとって公設試は頼りになる主治医であり駆込み寺になりうる存在である。

公設試の側の問題点
 名称が変わったように、公設試の中身にも変化が無いわけではない。公設試を支えているものはそこで働く研究員であり、公設試の変化は研究員の変化に他ならない。ちょっと寂しいことであるが、統合・組織改編によって個々の研究員の、食品そのもののエキスパートたらんとする意識は薄れたように感じる。公設試の地域性というか特色は明らかに薄れた。私が現役のころ、中小企業の顧客からよく聞かされたのは「建物が新しくなり、設備も立派すぎて敷居が高くなったようだ」という言葉である。「高くなったのは建物の天井だけですよ」と返していたものである。しかし、身近な「試験場」から「技術センター」へと変わったことに伴う公設試側の変化を、顧客の皆さんは敏感に感じ取っていたのかもしれない。良いか悪いかはここでは控えるが、成果主義の影響がなかったとは言えない。

変わる相互の関係と活用法
 上記のような公設試側の変化を踏まえて、良好な関係を作るにはコツがある。研究員は日々の業務に追われており忙しい。求められる「成果」への対応も無視できない。そうした研究員と、できればWIN-WINの関係を作り、互いに顔の見える関係になることがポイントである。名称が変わって「食品」という言葉が目立たなくなり、食品企業にとっては縁が遠くなってしまったような観を抱かれるかもしれない。しかし、食品について研究し情熱を燃やしている研究者は各公設試の中に脈々と息づいている。公設試を自社の駆込み寺、主治医であると感じられるようになればしめたもの、公設試、そこにいる研究員があなたの企業にとって大きな力になってくれるものと確信する。

食品化学新聞より許可を得て掲載しております