日本で生まれた食品を海外に売る

食品技術士センター 2019年新年例会 記録

 食品企業の成功・失敗例に学ぶ海外進出事例

 海外進出事例として4名の仕掛け人にプレゼンしていただいた。特に企業からの3名は、それぞれ海外で体を張って活躍された方々で、さらに重要なことは、3名とも海外には存在しない「日本発の食品」を売られていることである。海外のお客様が見たこともない食品の導入、拡販を進め黒字化されました。興味あるご発表と質疑応答をダイジェストしました。

講演1  「食品企業の海外事業展開ポイント」

杉野浩史氏 日本貿易振興機構(JETRO) 農林水産・食品部

 〇中堅食品企業の為の海外事業展開の具体的実施ポイント。
 JETROのHPにはたくさんの海外進出情報を載せている。個別に相談頂ければそれぞれ対応します。食品の輸出支援のサイトも設けており(https://www.jetro.go.jp/agriportal.html)、どんな食品をどこの国へ輸出かによって注意すべき規制や現地での連絡場所など種々の情報を集めて利用いただける状態にしてあります。
 JETROでは、種々の企業サポートのプログラムを用意している。個別の企業に寄り添うコーディネーターをつけて輸出業務を進めるというのもある。今までいくつもの企業サポートを行った経験から、業種ごとにも多数の事例が蓄積してきており、相談いただければ適切な方向性をご提案できると思います。

杉野浩史氏

 多数の例から、中小企業が輸出でつまずくポイントも蓄積しています。分析力を高めましょう。SWAT分析やマーケッティング分析なども大手では当たり前だが中小ではまだまだなのが現状。JETROはこんなところからサポートしています。  (清酒、たくあんなどいくつかの輸出事例の紹介がありました。)

会場からの質問に答えて
Q:酒類のビンの容量について、 A:焼酎の容量は、日本では720mlだがEUやアメリカでは蒸留酒の規格は750mlしかない。ウイスキーやワインでなど酒類によって規格容量が異なるので注意が必要。EUやアメリカなど海外の規格をJETROで情報提供している。

Q:国別食品規制について、ベトナムと日本の食品添加物の差異はあるか? Q:商品ラベル表記に関するJETROの具体的支援策はあるか? 
A:食品添加物規格についても国によって異なる規格を情報収集して提供しています。このあたりの情報はJETROの強いところです。

 Q:代金回収の失敗事例を知りたい 。A:よくある失敗として注意していただきたいのは、納品する前に代金をもらうこと、即ち前払いが大原則です。納品後となると代金回収に失敗する例も多いので注意。日本の商感覚は通用しない。

講演2  「海外マーケティング&食品規制への対応策」

赤星良一氏 技術士(農業部門(農芸化学))、当センター会員、(同)RDBサポート代表

 会社に在職中も含めて現在まで40近い国に食品や食品原料を開発、販売してきた経験をもとに話しをします。
 食品を輸出するなら、先ずは食文化の違いを知らなくてはなりません。例えば中華系の人々は、屋台やフードコートで食事をすることが多く、家庭で食事を取ることが少ないのです。ヨーロッパの人は、暖かい食事を取るのは休日くらいで平日は冷たい簡素な食事で済ましています。日本の家庭での日常の食の風景とずいぶん違うのが海外の食習慣です。日本で売れている食品だからと言って輸出するでは、食文化が違うとその食品を使ってもらえるシーンがないかもしれないのです。日本で売れているから良いものを安く提供すれば成功すると思い込んで、勇んで進出して多くの企業が2~3年で撤退しているのには、こんな背景があることが意外に多いのです。

赤星良一氏

 海外進出にあたり、日本とは異なる使える食品添加物・表示方法・食品の分類の違いでの税金の違い・宗教上の制約など、いわゆる非市場という障壁が立ちはだかっています。
 食品に関する法規制への考え方が異なることにも要注意です。特に明らかな違いがあるのはヨーロッパで、自分達でルールを作りそのルールは自分達の有利なように制度を作り、利用します。例えば、オリンピックの柔道やスキージャンプで日本選手の力が落ちていないのに勝てなくなるときは、ルールの変更が大きな要因です。国や地域によってルールの力学があることを理解して海外業務に当たらないといけません。

 一方で、日本のルールは国際化していません。そもそも日本の食品関連の法律は英訳されていないものが多く、海外の人が参考しにくいのです。
 最近の事例では、2015年のASEAN統合の時に、ヨーロッパの国々はEUの制度を積極的に紹介して制度構築の支援をしました。その活動によってEUと類似の法律になり、その結果、EUからの貿易のハードルは低くなるあるいは無くなりました。

Q:日本に不利な海外のルールを変える方法はあるか? 
A:食品業界と政府機関が協力して、ルールの改正を国際機関に働きかけることです。その場合、いくら正論であっても賛成してくれる国がないと改正はできません。関係国に賛成してくれるように働きかけるロビー活動も重要です。日本人がロビー活動を後ろめたいことをしているように感じていることに、国際的なビジネス感覚との乖離があります。
 また、決まったルールを変えるのではなく、決まる前に積極的に制度構築にかかわるべきです。そもそも日本人の考え方は、「法は御上が作るもの、民は守るもの」という概念が強く、これが日本人の国際ビジネス感覚を鈍らせている背景と考えています。

 ハラールは、宗教上のしきたりと受け止められているが、イスラム教の食品衛生法と捉えるべきです。食品衛生管理指針と理解すると合理的な対応ができやすいと思います。

Q:ハラールについて、認証機関別の違いはありますか。
A:同じイスラムの国でも制度の中で詳細なところには違いがあります。それではすべて事業対象国の機関の認証を受ける必要があるかというとそうではなく、各認証機関の相互認証制度もあるので利用されると良いでしょう。

Q:各国の食品の法規制はどのように情報収集するか? 
A: 各国政府のHPから調査するには、英語の資料を丹念に読み込む必要があります。そこで、概要をつかむにはJETROや農水省のHPにある調査資料、そしてILSI(国際生命科学研究機構)の国際協力委員会が農水省の委託事業として調査した食品関連の法規制情報である。ILSIは、1978年にコカコーラが出資してアメリカで設立された非営利の団体で、科学的な視点で、健康・栄養・安全・環境に関わる問題の解決および正しい理解を目指している(http://www.ilsijapan.org/index.php)。ここからの情報は、日本語で簡潔にまとめられているので海外で事業活動を開始する時に大いに役立つと思います。

 最近は、食品の機能性を訴求する商品が増えています。機能性を訴求する東アジアの法制度は日本のトクホの概念と類似しています。これは「医食同源」の中国食文化の影響を受けているからです。しかし、EUのヘルスクレーム法はビタミンやミネラルが中心で、いわゆる食品免疫の概念はないことに注意が必要である。また、米国のGMOに対抗するために食経験の有無に関するハードルがノベルフードとして制度化されています。

海外展開を図るときには、対象とする市場の消費者がどんな生活をしているかを知ることが重要です。観光や出張の時に見る食のスタイルは、その地域の一般的な人たちのそれとは大きく異なることが多いものです。例えば、インドネシアでの進学率は現在51%です。これを日本に置き換えるといつなのかを調べて見ると昭和30年頃になります。ジャカルタのホテルやレストランで食事をしてもそれは分かりません。昭和30年頃の生活をしている人々に自分は食品を売ろうとしているのだと思うとマーケッティング戦略もより具体的に作ることができると考えています。

 一方、技術士としての視点すなわち科学的根拠に基づいてビジネスを作ったこともあります。アジアに住むほとんどの人たちはモンゴロイドという人種です。モンゴロイドである日本人と同様に内臓脂肪がたまりやすくインシュリンの生成能が低くことから耐糖性が低く糖尿病になりやすい遺伝形質をもっています。この科学的根拠から、アジアでは当時まだ普及していなかった低カロリー甘味料のマーケットの大きさを確信して、低カロリーや低糖の食品ビジネスを進めてきました。すでにかなりの市場に育っていますが、これから短期間で数十倍の市場になると見ています。

 現在、「日本の食品製造業をもう一度元気に」をコンセプトに、研究開発から海外進出まで新たなビジネス創造の支援を行っています。

 

講演3.「お好み焼きソースを輸出する、海外製造する」我が社の海外進出苦労談

宮田裕也氏 オタフクソース(株) 国際本部 本部長

 オタフクソースは、お好み焼きのソースで有名で、本社は広島市にあるが今では海外製造拠点をアメリカ、中国、マレーシアに展開している。従業員593名。ソースは1950年から製造を始め69年になる。ソースの売上げは全売り上げの60%で、そのうち半数は業務用のオーダーメイドのソースとなっている。海外輸出は、2000年から始めた。売り上げ全体の10%(250億円/年)を輸出したいと目標を立てた。そもそも海外にはない「お好み焼き」というメニューを普及させることから先ず始めた。

宮田裕也氏

 輸出業務は、韓国、台湾、中国行きは自社で直接販売し45%を占める、その他の地域へは商社を通じて売ってもらっている(55%)。2013年からは中国とアメリカで工場を立ち上げ現地製造を始めた。海外製造の3/4は業務用でBtoBでの展開が進めやすかった。

Q:「お好みソースや焼きそば」は海外ではどのような食品に利用されているか?(面白い事例) Q:海外で「お好み焼き」を広める施策は何か? Q:海外での「お好み焼き」のイメージを知りたい。
A:確かにお好み焼きは海外にはない。しかし、お好み焼きは、小麦粉を食べる一つのレシピなので、海外の国々も料理は違えども小麦粉を食べる食文化はある。プレゼンや試食会を開いて、まずは「お好み焼き」を知ってもらい、お好み焼きにはオタフクソースをかけるとおいしいと覚えてもらうことを繰り返して行い認知度を高めた。

おたふくwebより引用

Q:海外工場の現地スタッフについて、Q:国内からの派遣か? Q:現地スタッフの育成方法は? Q:  現地習慣の難しさは?
A:最初に海外で製造工場を作った時に、本社の製造系の人材を海外に送れなかったのが辛かった。

Q:海外生産の場合、包装資材は日本から調達されていますか? 
A:海外での製造で困ったことの一つに包材の良いものが手に入りにくいこと。例えばホット充填に耐えられる容器やキャップが、特にアジアで入手できず、その結果、賞味期限を短くせざるを得なかった。なかなか日本と同じようには進まない歯がゆいが、その状況で何とかせざるを得ない。

おたふくwebより引用

Q:海外生産の場合、原料はどこから調達されているか? 
A:海外工場では、現地の食材を用いてソースを製造している。出来上がりは日本の味に合わせている。

Q:ソースのとろみを付ける素材は何か? 
A:ソースのとろみは、日本と同じようにデンプン質を用いている。

現在では、海外工場も単年度黒字は達成できている。商品の味は、それぞれの国で現地向けに開発している。

 プレゼンいただいた宮田裕也氏は、2009年より海外向け営業の事業部隊の責任者を務めておられる。当初は赤字傾向だった輸出事業の売り上げ拡大に尽力され、現在は海外法人の売り上げも含めてグループ内における成長事業となった。「2019年9月には海外事業をグループ内10%の売り上げにすべく取り組んでいます!」とのこと。

Q:売り上げの多い韓国でも製造工場を建設しないか?の会場からの質問に、 
A:広島から韓国へは目と鼻の先の感じでとても近いので工場をもつメリットは少ないと判断している、とのこと。

講演3  「いなり寿司の皮を輸出する」

本松 洋氏 オーケー食品工業(株)営業企画部商品企画課 課長代理

 業務用いなり寿司の皮を製造販売している会社。福岡県朝倉市(従業員458名、味付けいなり製造 アジア諸国に輸出)
 海外進出して5年になる。業務用の市場から入っていったのが良かった。現在輸出額6億円の売上まで進んできた。輸出国数は28カ国で、輸出量の半分は韓国。

本松 洋氏

 いなり寿司という日本独特の食品なのだが、これを海外に持って行くと面白いことが起こった。中の具がカラフルで豪華になった。それを見せるように置き方が日本と上下が逆で具が上から見えるように置かれている。海外は、カラフルで豪華な食品を好むように見える。シドニーやサンフランシスコでもよく売れている。繁華街の店舗代が高いところで売られているので、単価は高く設定されており2個で600円という値段がついている。いわば進化形の寿司となり、いまや「いなり寿司の世界市場」という言葉を使えるようになったほど。

 いなり寿司の皮という安価な商材を海外拡販するのに、よく質問されることは、「渡航料などコストが見合うのか?」で、その答えは、「とにかく動く、そこに道ができている」といつも答えている。LLCも使用しているしコスト低減を図っている。

Q:いなり寿司の日本では想定していない「使用方法、食べ方」があるか? 
A:包む中身はご飯とは限らない。フルーツなど思わぬものも入る。

クックパッドより引用

Q:「いなり寿司」の国別調味料の「差」はあるか? 
A:海外のお客様の嗜好は、「日本食そのものが欲しい」というニーズで日本食が売れている。基本的に日本の味付けで販売している。海外の傾向としては、ちょっと甘めの味付けがよく売れている。

Q: 「海外営業部」ではOKでも、「品質保証部」でNOの場合の対応策は? Q:いなりの冷凍での輸出について「賞味期限」の設定はどうしているか? 
A:現状は、皮は冷凍で賞味期限1年で販売している。

海外展開への準備、姿勢にかんして、Q:相手国の文化をどのように学ぶのか? Q:相手国の感性はいかにして身に付けるのか? Q:海外進出の最低限の知識・情報の理解は何か?
 A:海外進出への考え方は、社長の意向が大きいだろう。オーケー食品では、社員を海外へやる時に「1年間目をつむるから、今まで見なかった世界を見てこい」と送り出している。もっとも大切なのは心理的なハードルを下げること。「海外」と別の言葉を使ってあたかもハードルがあるかのように表現するのでなく「遠くのお客様」へ販売してくると考えている。出かける先を国名でなくバンコクとかジャカルタとか都市名で読んで国境を意識しない「遠くのお客様へ」という意識を全社で徹底している。

Q:自社の売れそうな商品をどのように考えているのか?
A:「先ず動く、とにかく動く」ことの重要性

演者のユニークな販売経験に基づいた話題提供に、たくさんの質疑応答となり、引き続き開催された立食パーティーにも引き継がれ、多くの情報交換が行われました。

会場からの質問をKJ法でまとめて効率的な質疑応答が行われた。

来年の新年例会は、食品技術士センターの50周年記念として、おなじ帰山倶楽部で開かれます。ご期待ください。