醗酵工業いろいろ

食品化学新聞 2013年7月4日掲載

齋藤 健 技術士(農業部門) 

 筆者は1989年から1994年までローマにある国連食料農業機構の農産加工担当官として勤務して、年間2回は案件発掘のために途上国の醗酵工業を調査して歩いた。あまり知られていない途上国の醗酵工業の実態を少し古くなった体験から紹介してみたい。

ブラジルのアルコール発酵

 初めてブラジルを訪れたのは1978年である。某エンジニアリング会社からブラジルのアルコール生産量が急速に伸び始めている。アルコールプラントを売りつける機会があるかもしれないというのが発端であった。

 当時私のいた協和発酵は400キロリットルの醗酵槽を沢山保有して年間5万キロリットルの清酒添加用アルコールを作っていたからちょっと見てくるかと出かけたのであったが、全く異なった醗酵法に会って驚いた。それは原料が日本では廃糖蜜であるのに対してブラジルは甘蔗搾汁を使用していたこと、糖度が薄いので醗酵時間が早い、殺菌が不要である、酒母には市販の生パン酵母を使う、などのことから醗酵設備が開放型、つまり蓋がない醗酵槽で蒸留装置も僅か2塔しか要らないし、蒸気は一緒にある製糖工場からのバガスボイラーから供給される、唯一の高等な設備は遠心分離機であり醗酵終了液から酵母をスラリーとして回収し次の醗酵の酒母として使うための装置であった。遠心分離機を除いては鉄板の現地加工で建設可能であり設備費用は極めて安くて済む。

 コンタミしたらどうするのかと質問したらペニシリンをもろ味に加える事によって対策とする、コンタミ菌は甘蔗畑のほうから飛んでくるとのことであった。1978年では140万キロであったのが1989年には1200万キロ、更に2010年には2533万キロリットルと倍増している。これらのアルコールはすべて自動車燃料としてガソリンに混和するか或いはそのまま使われている。

 日本においても第一次安倍内閣のときに燃料用アルコールを年間600万キロ生産するという計画があったが、その後どうなったのか原子力発電事故の陰に隠れてはっきりとしてこない。ガソリンがリットル当たり150円もするようになった昨今アルコール添加は経済的にも有利になってきているかもしれない。アルコール添加自動車燃料が日本で進まない原因は石油会社と経産省の利権がらみの陰謀としか思えない。

 ちなみにブラジルでは2014年にはアルコール3100万キロ生産して600万キロは輸出する計画とのことである。ブラジルの砂糖黍は年間6億トン近く生産され、砂糖とアルコールに半分ずつ使用されているという。ブラジルの砂糖黍は竹のように太くたくましい。

トルコの醗酵工業

 トルコはビート生産国でありビート糖蜜を原料とした醗酵工業が盛んである。日本ではパン用酵母は生酵母しか生産できないがトルコでは活性乾燥酵母まで生産して中南米まで販路を持っている。会社の名前はPak Gida Uretim ve Pazariama A.S.という。製品の商標はPakmayaである。クエン酸をトレイによる表面培養法で生産している会社もある。醗酵廃液はメタン醗酵と活性汚泥法で処理して放流していた。死んだ豚を河へ流す中国とは大分違う先進国である。名前はFURSAN Fermentasyon Urunleriという。この両者ともIzmitという町にある。首都アンカラよりもイスタンブールに近い。輸入の問い合わせをやられるのであれば住所を提供します。

 またバイオ関連の研究を行っているMarmara Research Centerという国立の研究機関もあり技は術の水準は充分にあると思われる。Tekelという会社の生産する葡萄から作ったRakiという焼酎もかなりの物である。

チエッコの醗酵工業

 東欧は森林の国である。ポーランド国境近くにBiocelと言う会社があり年間50万トンの木材から20万トンの亜硫酸パルプと2万6千トンの飼料酵母を生産している。使用酵母はCandida utilisであり粗タンパク含有量は52%あるという。醗酵は連続式に行われている。

 興味があったのは醗酵槽が下部攪拌方式を採用している事であった。醗酵槽が大型になると上部攪拌ではモーターの重力を受けるのが構造的に難しくなるが、メカニカルシールが充分に機能すれば下部攪拌の醗酵槽が材料的にも有利になる。東欧の科学技術の水準の高さを痛感した次第である。チエッコにはアルコール発酵やパン酵母をビート糖蜜から生産している会社もある。

 チエッコには昔レンドルという有名なテニスの名選手が居た。緑濃い空気の綺麗な環境でレンドルとテニスをやろうというようなツアーが生まれても良いような気がした。

筆者紹介:醗酵工業会社で35年間、国連食料農業機構で5年間、ODAコンサルタントとして8年間、農産加工・流通、再生可能エネルギーの経験あり。日本エッセイストクラブ会員。

食品化学新聞より許可を得て掲載しております