食品特許の動向 (2014)

食品化学新聞 2014年7月3日掲載

中谷明浩  技術士(農業部門) 

1. はじめに

 食品特許の出願数は年々減少している。国際特許分類A23L(食品または食料品)で見ると、2011年は2005年の出願数と比較して約6割程度である。我が国における全体の特許出願件数も減少傾向にあるが、食品分野の特許出願の減少においては特有の「課題」と知財戦略の変化が影響しているものと思われる。

2. 食品特許出願の動向

 食品特許の出願数は、2005年で2,949件(特許庁・特許電子図書館IPDL検索で、国際特許分類A23Lに分類されているもの)、2008年で1,932件、2011年では1,805件と年々減少している。一方で、開発した技術は、しっかりと特許権等で保護しようとする考え方が定着している昨今、なぜ、出願数が減少し続けているのか?その背景を考えてみたい。

3. 食品特許の課題

 食品特許には、次の課題があると指摘されている。①代替技術が比較的簡単に開発されて迂回しやすい、②特許侵害されても把握することが難しい、③技術的の高度でないものが特許となる場合がある、④商品サイクルが早く、特許の効力が弱い、⑤食品特許のライセンス対価は低い、⑥ノウハウとして秘匿される技術が多い(1)、である。確かに、食品は多様な原料を混合・加工したものが多く、分析によって特許の権利範囲であることが分からない場合がある。また、早い商品サイクルという点では、特許で有効に保護している期間が実質的に短いというところに権利取得へのためらいが生じてくるのではないだろうか。つまり、容易く迂回され、侵害も見抜け難く、権利が実質的に短命であるのならば、開発した技術を公開までして権利を得るということに、果たしてどこまでメリットがあるのかと考えるのが普通であろう。低迷した経済状況も影響していることもあげられるが、やはり出願数の減少は、これらの課題が影響しているという見方もできる。

 しかし、そう単純な話でもない。そもそも特許権等の知的財産とは、事業を推進する上で、そのために開発した技術等の保護を図ることにより、安定した事業の拡大と収益の確保につなげていくものである。そうすると、知財権は、その事業戦略に有効に作用するものでなければならず、効果のある質の高い特許権等の確保が求められるはずである。一方で、食品特許の課題を解決しなければ、事業戦略に有効に作用する権利とはならない。そこで、中長期的な事業のビジョンを勘案したなかで、ノウハウとするのか、権利として確保してゆくのかが検討され、特許出願を選択した場合には、上記課題の解決がなされた安定した質の高い権利を目指し推進していこうと考えるのが自然である。

 さらに、昨今の知財戦略の考え方も変化してきており、特許は「量」から「質」の時代を迎えつつある(2)(3)。そして、特許の価値を評価する研究や様々な手法も開発され、これら手法を用いて客観的に特許を評価し、質の高い特許権を効率的に確保しようという考え方が定着しつつある。

 つまり、食品特許出願数の減少傾向は、単にその課題の解決が難しいわけではなく、事業戦略を効果的に推進するために、質の高い効率的な特許権等の活用を目指そうとする表れではなかろうか。

4. おわりに

 特許権等の知的財産を取り巻く環境は絶えず変化している。これらの状況を的確に把握し、関係者と上手くコミュニケーションをとり進めていくことが権利の有効活用のコツと云えるかも知れない。

参考文献:
(1) 株式会社フード・ペプタイド.“トピックスNo.17 食品と特許”.(オンライン), 入手先http://topics.foodpeptide.com/?eid=680861,(参照 2014-03-20).
(2) 東京大学政策ビジョン研究センター.“特許の価値と質‐競争と協調のための特許制度を考えるために”.入手先http://pari.u-tokyo.ac.jp/event/report/ref_090611/WATANABE_TOSHIYA_REF_JP.pdf,(参照 2014-03-27).
(3) 日経 BP知財Awareness.“「量」から「質」へ大きく転換した特許戦略”.http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/manufacture/nec20040928.html,(参照 2014-03-27).

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