町おこしのための知的財産活用術

食品化学新聞 2012年12月5日掲載

技術士(農業部門)中谷明浩

1. はじめに

 農山漁村の6次産業化、地産池消など、地域活性化の取組である“町おこし”が盛り上がりを見せ、その中で「知的財産」を活用しようという活動も積極的に進められている。「なぜ、“町おこし”に知的財産が必要なのか?」そして、「知的財産とうまく付き合うためには?」について述べたい。

2. 食による地域活性化と知的財産

 我が国における農産物を生産する大部分の地域は、地方の農業地域であるといっても過言ではない。それら地域において地元の食材・食文化に注目し、地場のものを利用した食品を開発、加工、販売によって、地域活性化へつなげようと奮闘し、実際に成果を上げているものもある。いわゆる「ご当地グルメ」はその一例であろう。

 これらの取組が、順調に推進され、拡大、発展していくことを心から願わずにはいられないが、実際には様々な問題にも直面することもある。その一つが知的財産の問題があげられる。

 奮闘の末、地場食品の製品化に成功しブランド化を達成しても、模倣されたり、類似品を第三者に生産、販売されれば、その地域の享受すべき利益が大きく失われるばかりでなく、品質やブランドにも悪影響を及ぼし、地域活性化の大きな障害となりかねない。

 そこで、特許(発明)、実用新案(考案)、意匠(デザイン)や商標(ネーミング)等の知的財産権の活用が有効であることはよく知られているところであるが、一方で、それらの権利取得・維持には多額の費用を要するという現実もある。さらに、特許においては、開発した技術(発明)を公開する代償として排他的独占権を与えられるという性質から、第三者に公開された技術を密かに実施されてしまえば、その立証と権利行使が難しく、さらに訴訟等の費用がかかるというケースも考えられる。一方で、権利を行使される場合もあり、大きなリスクになりかねない。そこで知的財産とうまく付き合うためにはどうしたらよいのか。

3. 開示知財と守秘知財の使い分け

 示知財とは、先にあげた特許、実用新案、意匠、商標や著作権などの公開される無体財産のことで、守秘知財とは、ノウハウや営業秘密などの公開しない無体財産のことである。ここでは、特許や実用新案の対象となる発明や考案に絞って述べる。

 守秘知財には、一長一短があり、長所としては第三者に情報が洩れず、権利取得もしないことから経費が少なくて済み、さらには期限なく独占実施できる点にある。一方の短所は、実施している技術やノウハウの情報漏えいリスクや、第三者に権利化され、実施できなくなる等のリスクを抱える点にある。そこで、長所を生かし、短所を回避するためにはどうするのかが大切である。

 侵害の発見が容易な「物」の発明、例えば「健康維持に寄与する関与成分が入っている食品」など、分析をすることでわかるような場合は、開示知財として特許出願をすることが望まれるが、一方で、侵害の発見が難しい「製造方法」の発明、例えば「食品を生産する過程における製造方法で、その食品を分析してもわからない」場合は、守秘知財としてノウハウ化することを考えてみてはいかがであろうか。

 ここで、ノウハウ、営業秘密とする場合には、第三者の特許等の権利となった場合等に備え、「先使用権」の主張ができるよう準備をしなければならない。先使用権とは、特許法に定められている通常実施権(特許法79条)のことで、対象となる第三者が特許を出願の日に、すでに実施、または実施の準備等をしていれば、継続して実施ができる権利なのである。ただし、この権利を行使する場合には、「すでに実施、実施の準備をしていた」ことの法的証明がなくてはならないので、実施に関する書類、電子ファイル等に対するタイムスタンプや、公証制度の利用と書類の管理が必要不可欠である。

 これらの対応については、ケース毎に適切な対応方法があるので、検討するに際し弁理士、技術士、知財関連支援法人等の専門家のアドバイスのもと実施することが、間違いのない対応という観点から大切であるし、そして無理なく計画的に進めていくことも大切である。

4. おわりに

 無論、知的財産だけで“町おこし”の切り札となる逸品は生まれない。他にマーケティング、開発、生産、販売、プロモーションも非常に大事な要素である。これらをバランスよく推進し、我が町の自慢の逸品を完成、流通させて地域活性化につなげられるよう心から応援したい。

食品化学新聞より許可を得て掲載しております