パーム油を取り巻く動向と課題

食品化学新聞 2013年6月13日掲載

中谷明浩 技術士(農業部門) 

1. はじめに

 食用油脂の原料でもある穀物。近年その動向が変化している。穀物取引価格の高値推移、バイオエタノール、バイオディーゼル。もはや「機械も穀物や油脂を食べる」時代である。
このような情勢の中、「パーム油」が世界食用油脂生産量でトップとなり、次世代の食用油脂として期待され、さらに生産量が増えていくものと予想される。

 一方、パーム油の原産国であるマレーシア、インドネシアでは、急速な農地開発により、森林伐採による生物多様性の低下、プランテーション・工場操業による環境汚染などの多数の問題が指摘され、パーム油生産のための開発や製品への利用に対し、批判されるケースも目立っている。はたしてパーム油は生産、環境保全、消費と共存しつつ、次世代の食用油として恒久的に利用、かつ持続可能であるのか。その動向と課題について考える。

2. パーム油の特性と食用油脂としての可能性

 2004年から2006年にかけて、大豆油は約3000~3500万tの生産であるのに対し、パーム油は2006年には3600万tを超え、世界一の生産量となった。さらに、その伸び率は高く、2009年には4400万tまで達している。もはや「油脂生産量ナンバーワン」の地位を不動のものとしたと言っても過言ではない。

 パーム油には他の食用油にはない特性がある。それは、主にパルミチン酸である飽和脂肪酸と、オレイン酸である不飽和脂肪酸からなり、酸化安定性がよく、保存性食品や汎用のフライ油としても好適であるという点にある。また、常温において個体であるという特徴から、加工油脂原料としての適性を兼ねしなえている。具体的には、冷却などの方法によりパーム油を成分ごとにわける「分別」を行うことにより、①液状で酸化安定性に良い成分、②カカオ脂のように常温固形で口解けの良い成分、③石鹸、界面活性剤に好適な成分を得ることができる。そのため、他の食用油脂として、食品への用途が非常に広い。これらの特徴から、我が国では2004年ごろからその輸入量が一気に増加した。

3. パーム油の生産・開発にともなう課題と解決のための産地、世界の動き

 このような背景から、原産国の急速な農地拡大によるマイナス要因も指摘されはじめた。具体例として、①森林伐採による生物多様性の低下、②プランテーション・工場操業による環境汚染、③農薬・肥料の使用による環境汚染や健康問題、④地元住民、先住民の権利侵害、⑤労働問題などである。

 これらの課題に対応すべく、パーム油に関わるステークホルダー(業者等利害関係者)によって2004年に「Roundtable on Sustainable Palm Oil」(RSPO・・持続可能なパーム油のための円卓会議・本部・・スイス チューリッヒ)が設立された。目的はパーム油の供給関係者の協調とステークホルダーとの対話により持続可能なパーム油の開発、成長と消費を促進するところにある。2010年3月で会員数は482団体で農園業者、金融、環境団体、NGOなどであり、加盟農園企業の一部は8原則、39基準に合致した農園運営を実践している。

 活動の特徴としては、政府組織によるものではなく、任意の団体であるほか、大企業から中小企業まで幅広く加盟している点にある。この特徴により、パーム油にあけるサプライチェーン全体を包含し、末端の食品メーカーや小売業も多いことから、企業のCSR活動の一取り組みとして、自社で販売されるパーム油の関連商品について、RSPOメンバーからしか仕入れないという調達施策を採用している企業も多い。

 さらに、RSPO認証制度のもと、2012年現在、110万ha以上の農園が認証を取得しており、年間生産量はパーム油全体の10%、約550万tに達する。この認証制度は2008年に開始されたが、急速に浸透しつつある。
このように、RSPOの活動は加速的に活性化、さらに拡大していることから、各種課題に対する解決へ向けて期待されている。

4. むすび

 パーム油の開発・生産においては、環境保全とパーム油生産のバランスを保ちつつ、恒久的に持続可能なパーム油開発における取り組みが国境、団体を超えて進められている。

 単発的な開発によるものではなく、穀物同様、人類の生きていくための必要不可欠な「地球規模の大事な資源」として、環境と生産のより良いバランスを構築しつつ、恒久的かつ持続可能な開発、生産を考え実行してゆくことが、これからの「食の未来」にとって重要である。

食品化学新聞より許可を得て掲載しております