HACCP制度化への対応と課題

講演記録 2019年3月16日

HACCP制度化への対応と課題
立石 亘氏
(株)食品化学新聞社 食品化学事業部 
月刊フードケミカル
編集部記者

 15年ぶりの食品衛生法の改正は、来年から順次施行されて行く。5つの改正だが本日はHACCPの制度化を話す。しかも、食品技術士センターという専門家の集まりなので、「HACCP制度化施行後10年経過したEUにみられる課題」に焦点をあてて話す。EU委員会FVO(Food and Veterinary Office)は2015年、HACCP制度化から10年を振り返り7つの鍵となる問題点と整理した「Better HACCP implementation」を発表した。(図1)。


 日本のHACCP制度化の経緯において、EUの取り組みを参考にした部分もあるため、ここで示された課題は、わが国の課題となる可能性がある。
 演者は、この報告の和文化に当たって、塚下和彦氏がフード・フォーラム・つくば講演会より引用して紹介した

鍵となる問題点① 法的な規制とガイドライン
 HACCPプラン/HACCPプログラム/HACCPシステム:3つの言葉が、違いを理解されないままに使われている。それぞれの相違の理解と利用が必要
HACCPプラン(岩本嘉之氏作成資料からの引用)
 7原則すべてを文書化したもの。つまり、ハザード分析の結果、CCPがなければ原則3~7のCCP関連はなくなりHACCPプランは存在しない。
HACCPプログラム
 HACCPプランと前提条件プログラムを含む、HACCPシステムを動かすためのプログラムすべてを指す。したがって、SOPやSSOP、組織図、見取り図、フローダイアグラム、トレーニングプラン、それらの記録類もすべて含まれる。CCPがなくても、さまざまな手順書はある(例えば衛生管理マニュアルなど)。つまり、CCPがなくてもHACCPプログラムは作られる。
HACCPシステム
 7原則を実施した結果を指す。つまり、ハザード分析をしてCCPがなければ、HACCPプランはないが、HACCPプログラムは存在する。それを運用した状態(結果)がHACCPシステムである。
HACCPの範囲
食品の安全には、悪意ある妨害などもあるが、HACCPでカバーする範囲を認識し共通理解としておくのも必要だ(HACCPの範囲の図)。

鍵となる問題点② 前提条件プログラム(一般衛生管理SSOP)とHACCPの役割の理解
○行政と事業者の双方で、前提条件プログラムとHACCPの役割の違いについて理解不足がみられる。
 ⇒例:前提条件プログラムが適所にないままで、HACCPを実施している。
 ⇒例:前提条件プログラムでコントロールすべきハザードに対してCCPを設定してある。前提条件プログラムでコントロールする方が(CCPでコントロールよりも)適切であるなら、必ずしもCCPを設ける必要はない。

問題点③HACCP原則の実施 (特に「ハザード分析」「CCPの設定」「検証」の理解)
鍵となる問題③-1 ハザード分析

○事業者が「HACCPは難しい」と思う原因の一つは、「ハザード分析の正しいやり方」についての理解不足である。特に小規模事業者においては、利用可能な専門知識が不足しているので、ハザード分析の手順の実行が困難となっている。
○ハザード分析では、ハザードの起こりやすさと(起きた時の)健康影響の重篤さで評価を行うが、それが正しく行われていない場合が多い。
○微生物ハザードの特定はできているが、化学的ハザードを見逃している場合などもみられる(既存の手引き書でも、微生物ハザードにはフォーカスを当てているが、その他の種類のハザードに関連する情報が不十分なものもある)。

鍵となる問題③-2 CCP
○CCPについて「妥当性のあるCLを設定する」のは、事業者にとっては難しい作業である。
 ⇒理由として、CL設定のための知識や経験が足りない場合などがある。
 ⇒CL設定では、文献、法律、ガイドなどを参照してもよい。業界ごとのガイドラインも有用である。

鍵となる問題③-3 検証
○「モニタリング」「検証(verification)」「妥当性確認(validation)」のコンセプトを混同している。 ⇒具体的な事例を示したガイドがあると有用だろう。
「モニタリング」 CCPがコントロール下にあるか否かを評価するための、計画された観測(observation)の手順、またはコントロールのパラメーターの測定を行う活動
「妥当性確認(Validation)」 HACCP計画の要素が有効であるという証拠を得ること

鍵となる問題点④柔軟性、弾力性(Flexibility)
○EU規則では「HACCPは十分なフレキシビリティをもって行うこと」としている。しかし、「フレキシビリティ」というコンセプトについては共通理解が不足している。
○フレキシビリティの運用については、国によって相違はみられる。規制当局の間でも理解の共有に欠けている面はある。個々の監視員(インスペクター)間で解釈の違いが起きないようにする必要がある。

鍵となる問題点⑤規制機関による監視 (official control)(ハザード分析の問題点を指摘できない、監視員の力量のばらつきなど)
○規制当局による監視は、定期的に、リスクベースで、適切な頻度で実施する。その一方で、規制当局の間(あるいは監視員の間)で、監視に一貫性が欠けている場合があることは、重大な課題として指摘されている。

鍵となる問題点⑥教育と訓練(監視員、事業者の双方で課題)
○監視員には、常に能力の更新が求められる。
○監視員はHACCP原則についてトレーニングを受けているが、必ずしもすべての監視員が、あらゆる分野でHACCPの評価ができるトレーニングを受けてはいない。
 ⇒監視員による法律やガイダンスの解釈にバラツキがみられる。
○前提条件プログラムとHACCPに精通していること、工程に関する知識があることが求められる。そうでなければ、表面的な監視になる恐れがある。
 ⇒監視員のトレーニングでは、工程の技術にもっとフォーカスを当てるべきである。

鍵となる問題⑦ 管理上の重荷(administrative burden)
○HACCPを柔軟に(フレキシビリティをもって)実施すると、不必要な記録保管という負担をなくせる。しかし、小規模事業者では過剰な記録保管によって、HACCPの運用が難しくなっている場合もある。
○フレキシビリティの理解が不足していると、結果として不必要な文書を維持することにもつながりかねない。

日本の厚生労働省の考え方
 厚生労働省のHACCPへの態度は、同省Webの「HACCP に沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」を参照してほしい。情報は、随時追加されている。別の言い方をすれば、運用に関する厚労省の考え方を書いているのはQ&Aしかないのが現状。
 例えば、問13 事業者が民間認証を取得している場合は「HACCPに沿った衛生管理」を実施しているといえるのか。問22 HACCP に沿った衛生管理の制度化にあたって、食品衛生監視員の質はどのように担保されるのか。

 さらに講演は、新しい動きとして、アメリカでのFSMA(Food Safety Modernization Act、食品安全強化法)、そして、イギリスでの小規模食品授業者向けのSafer food, better business(SFBB)などについても紹介されて盛りだくさんの内容の講演となった。
                             (文責:食品技術士センター)