成功・失敗事例から学ぶ商品開発、市場開拓とそのポイント

月刊誌 食品と科学 2013年11月 55巻11号18-21 掲載記事 

鈴木修武  鈴木修武技術士事務所

1. はじめに・・・商品開発はなぜ必要か。
       開発の考え方とそのポイント

   永年の夢であった食品技術コンサルタントになり、早8年が過ぎた。ライバル会社からの誘いや地方への単身赴任などの嫌いな仕事は断った。独立してまで自分の意にそぐわない事をする必要があろうか。営業の口調は「食品中小企業応援団」「食と農の応援団」で、行列が出来る技術士事務所と言っているが実体はほど遠い。
    成功や失敗事例が山ほどあり、失敗事例をどこまで書けるかあるいは書いてよいか悩んでいる。いま、商品開発でテーマや市場開拓に悩んでいる後輩の開発者の参考になれば幸いである。

2.新商品開発はなぜ必要か

     新商品開発はなぜ必要かと問われれば大きく二つある。企業の継続と社会的な貢献である。企業が継続するためには付加価値商品を販売することによる利益の確保が必要である。長期的には企業の将来を担う役割もある。商品開発をすることにより技術の蓄積が増し企業の実力となる。さらに既存商品の利益のカサ上げやこれらの補強、販売促進などにも利用出来ることにもなる。

    新技術の導入や全社的な品質向上が企業の競争力を高め、同業他社に対する優位性を保つことによって企業が繁栄する。

    技術の蓄積は時代を背景とした情報収集、後継者育成、世代間交流であって社内の活性化にも影響することがわかった。新商品開発をしている会社とそうでない会社との概念図を図1に示した。

図1.

    新商品を販売することにより利益の確保はもちろん、既存商品であっても付加価値をつけて販売しなければならない。付加価値を付けるには、販売先の情報収集が必要であり、現場にあった提案が必要である。現場の情報収集をすれば、顧客のニーズが良くわかり顧客満足の行く商品を提案できる。この時に新技術のネタでも品質向上の情報でも営業的な情報でも顧客の喜ぶことが必要である。

 現役時代には部下に日ごろ町を歩く時には漫然と歩くな、問題意識を持って歩けと言っていた。新たな開発は時代背景を的確に把握しないと良い商品はできない。
なぜ現場が必要かといえば、次の開発のニーズが陳腐化した情報ではなく、常に新しい現場情報であり、未来の情報にもつながっている。

 品質管理活動のデミングサイクルによく似ている。すなわち、PDCAサイクルを回すことが必要である。Plan(企画・設計)⇒Do(開発)⇒Check(市場導入)⇒Action(販売・サービス)まさしく開発管理活動そのものである。品質向上と同じようにこのサイクルを回せば開発ニーズに困ることはない。

 現役時代、ある大手企業の販売員が尋ねてきて3回応対した。同じ商品を持っての説明であり発展も展開もないので以後出入りに禁止したことがある。多分油業界の情報収集かと思われたが、販売にもギブ&テイクをしないと会ってもくれない恐れがある。その企業はその後どうなったか知らないが多分その部門は閉鎖されたと推測する。

 もう一つは企業の社会的な貢献である。商品でも企業でも社会的な貢献をして世の中に役立たなければならない。その産業の商品が正しく使われるために啓蒙活動が必要である。

 筆者が開発した簡易型酸化測定器(アブテスター、後継器柴田科学製シンプルパック)は、法律の改正により現場で酸価を測定することが必要になった時の開発商品である。また酸化安定油は保存性があまりなかったサラダ掛け製品に使われると酸化され難く日持ちが著しく長くなり廃棄損失も少なくなった。ハネない油は食卓で油がハネることによる一家団欒の危険から守ることにより消費が拡大した。

 食品製造現場では、炒め油、炒め機が労働力の低減、労働環境の改善や省力化になり、離形油は剥がれることにより洗浄が著しく簡便になり、ロス率も少なくなった。
炊飯油は油の分散性を考えた結果、釜離れがよくなり、機械におにぎり飯が付着することによる製品のロス率が低下した。

 新商品開発の他の効用は多方面に分かれるがその時々に述べる。

3.商品開発と市場開拓のポイント

 商品開発のポイントを表1に示した。長年の経験より考えたものでご参考になれば幸いです。商品が売れるか売れないかは開発者の才能であり、7~8割の役割がある。また、自信を持って売っても売れず、自信がなくても市場のニーズに合って売れた商品もある。その商品のニーズは市場に問わなければわからない。業種によって異なるが開発はむかしより千に三つと言われている。仕事仲間にエネルギー関連の開発者がいるが10年の長期的な計画らしい。健康食品関係では4~5年程度をかけている。

 筆者の場合は、38年間で約70開発し、約20商品にして市場開拓し、商品になったが他は失敗である。市場のことは市場に聞けと言われ、潜在ニーズをいかに発掘するかであるが、それは現場にしかないと思われる。市場を歩いていると同じ業種の顧客から同じような要求があり、特定顧客より強い要求がある時もある。この見極めは開発者の感性であるが、注意深く聞いているとわかる。感性の磨き方はこれまでの街が変っていく様子を見ながら今の時代を見つめることである。逆に世の中より自分を見ることである。商品の比較は同業他社ばかりではなく、食品の異業種や他の産業を視野に入れる。

 後述するが、酸素、温度、光線による油の酸化対策は油で解決することもあるが、光線に起因する場合は包装資材でも解決することがある。また、商品開発は高度な技術(ハイテク)を使うことも必要であるが、従来技術(ローテク)でも解決できる。同業他社と同じようなヒット商品を作れば売れた時代は終わり、オリジナル商品であっても市場開拓や販売には苦労する。筆者の経験では、オリジナル商品は少なくとも3年くらいの販売促進が必要であった。他の食品企業では開発に10年売れだすのに10年掛り、最近では億単位で売れている商品もある。開発者がこの時間に耐えられるかどうか。その会社の伝統や風土もあり開発者だけ頑張っても営業がその気にならないと売れない。開発者は商品に精通しているので顧客に行って説明することが大切である。

 開発者は変人?と言える。私の例かも知れないが、独自の発想を持っており
最適者がいる。最近では女性の感性や使う立場より考えて商品化することが大切である。開発は誰でもできそうであるが育成が大切である。

 市場調査・マーケティングは売るためのすばらしい手法であるが、商品開発のセミナーで理路整然に説明されると本当かなと疑問符が付く。

 どんな商品でも全国に売りたい、世界に売れる商品にしたいと思ってもその商品自体に商品力がないと売れない。地方の商品を東京で売りたいのであれば、地元で有名にして上洛することが必要である。市場開拓のポイントを表2に示した。


 日ごろから市場、顧客の動向、使われそうな現場、食品業界や同業他社、政治、経済の情報を収集していれば市場開拓のヒントになる。潜在ニーズを現場で見つける最大のチャンスはクレームである。クレームが出ると商品の販売会社や使用現場に危機感がある。その商品の欠陥か、使用している現場のミスか、流通上の問題か、早急に判断する必要がある。クレーム商品を見て分析し、現場を見て結論を出す。ここで現場を見られる可能性が高くなる。以前使用現場を見ずに化学分析をし診断した時に、ある顧客より現場を見ずにわかるかと御叱りを受けた。これ以降必ず使用現場を見て判断することにした。筆者の自慢は日本一現場を歩いた油の技術者と思っており、その時期に一番開発テーマが出ている。現在の技術士仲間は厳しいギブ&テイクの世界で、実社会でも仁義と恩義の世界であると思う。自分の利益ばかり考えると仲間や顧客との信頼関係が結ばれない。市場開拓で一番うれしいことは、自分の商品が使用現場で評価されることである。

 油を売っているとかなり幅広い業種や地方の食品工場に行けた。農家の倅の利点を最大限に生かし、工場従業員は兼業農家の人たちが多く仲良くなり商品が売れたこともある。新商品の現場試験がスムースに行くのは作業員とのコミュニケーションが大切で、生産現場に開発や市場開拓のヒントがある。
開発した商品の説明は小学生でもわかるような簡単で技術用語を使った言葉は厳禁である。市場開拓にはその商品を知っている開発者の説明が一番効果あるのではないか。

 自社の販売員との意思疎通も技術支援も日頃の行いが大切である。ある販売員の問い合わせで私が半日掛けて調べた情報に3ケ月にまた同じ質問がありその人には二度と情報や資料をやらなかった。電話一本で資料が得られる関係にするのは、どちらも信頼関係である。相手の立場を想像し気を使う謙虚さがいる。

3.商品開発における経営者の重要性と4:4:2の法則

 この法則は、新商品開発、HACCP、品質管理などで役割の重要性への提言である。

 現役時代には中小食品企業に開発や技術支援、研究所では安全衛生管理などをした。ある時、ベテランの先輩技術士とともに仕事をした折、社長の出席しない技術指導の発表はするなと警告された。やはり組織のトップの経営方針、姿勢や日頃の言動、指示などには非常に影響される。この4:4:2の法則をわかりやすく説明するために図2に示した。

 経営者の重要性は四割で、商品開発や会社運営の役割にとって重要である。四割の大きな責任があるが、発生する頻度は極めて少ないと考えられる。商品開発は社長が替われば経営方針が変わり、どこに重点を置くのかで組織も変わる。

 次に管理・監督者も大きな責任を持ち、直接実働部隊を率いるので四割程度に重要である。時代の変遷や荒波にもまれながら、潜在的なニーズや現商品への不満など色々な情報が入る。また、収集した情報や将来計画などを上部組織の経営者に助言をすることも重要な役割である。従業員は個々の現場で常に商品開発のための実験や試料作り、情報収集などするが、重要性は二割程度で組織の指示に従えば良い。筆者の実感では大企業ではこれくらいの比率であるが、中小食品企業において7:2:1である。

 商品開発は市場に出しても売れないリスクもあるが、開発しないリスクもさらに大きい。企画や計画、開発を実行することにより、新たな情報や技術や知識が集まり、収集した情報も分析することにより関連部門も動き社内が活性化される。

 商品開発とは違うが、ある食品の品質管理やクレームについて委託先の要請がありその工場に行った。社長に会い改善案を具申したが、採用されず、間もなく倒産した。倒産した原因は、その会社の商品全体の品質低下による売り上げ減があったと思われる。

4.これからの連載にあたって

 新入社員の頃、業界で有名な技術コンサルタントが顧問になった。会社ではこれで新商品ができると期待したが、自分が開発した商品の説明ばかりであり期待はずれあった。その時に、そうか既存の商品以外を考えて開発すれば良いかとその手法や考え方を学んだ。今までに多くの先輩達に会ったことが自分で実践した開発商品の着眼点、手法や考え方に非常に役立った。

 これからの連載では、技術士の先輩に言われた失敗事例を多く公表しようと
思う。クレームが付くと危惧するがもう時効ではないかと思う。

 後輩の開発者や技術者に参考になればと願うとともになにかの助言や激励があれば、ご連絡頂ければ幸いである。

この記事は、株式会社 食品と科学社より許可を得て再掲しております。