食品産業におけるAI活用について

荻野 武 氏  
キユーピー株式会社生産本部
未来技術推進担当担当部長

キューピーの印象

 荻野氏は、日立製作所から転職され、食品については知識がなかった、とのこと。転職しての印象をキューピーは、社内でしばしば理念教育をしているのに驚いた。『良い商品は良い原料からしか生まれない』は、創業者の言葉だが今でも伝えられ大切にし、思いを大切にする経営を貫いている。商品3,000種類、売上5700億、利益率6%の食品会社。食品企業でのAIの現場実装について話された。

AIとは?に統一定義がない

 AI(人工知能)とは?学術界でも統一した定義はなく、だからいろいろに受け止められ混乱を生んでいる。AI技術は、人手不足への対応が期待されているが、実際の効果のある稼働実績はまだ4%でしかない。

 AIブームを引き起こしたディープラーニング(深層学習)の強みは、特徴量抽出の自動化が行われていることです。AI学習とは、判断に重みづけした分類をすること。従来は、人が特徴を抽出して、分類していた。ディープラーニングはこれらを自動的に行うことです。

 画像識別競技会でエラー率が30%当たりで競っていたのが、2012年の競技会でトロント大学が、エラー率12%を出し頭抜けた進歩を示した。そこから深層学習が大いに発展した。画像識別の人間のミス率は5%程度だが、AIは2015年にはそれを上回り、人間が判別するよりもAIの判別の方が、成績が良くなったのが現状。深層学習において、中国、アメリカの注力ぶりと比べて日本は遅れている。

AI導入に失敗するパターンと成功するパターンの相違

 世の中はAI、IoTブームです。社長にAIを使って何とかしろと言われて、取り組む企画はだいたい上手くいっていない。あるいは、古い解析技術をAIと称してPoCを行い、高い料金を支払っているのを良く聞く。

 AI導入でうまくいくのは具体的課題の解決型の開発に取り組むことですまた、AIはまだ技術ではなく、イノベーションと考える。イノベーションという言葉も各論あるが、イノベーション理論を最初に提唱したシュンペーターの言う「新結合」と解釈するのが良いかと。新結合とは、異なるものを結合させて新しい飛躍的な価値を創造することだが、イノベーションは、ボラティリティが大きく、確実に成功するものではないのも特徴。キユーピーでは、強い現場力とAIを新結合させるイノベーションを推進した。例えばキユーピーで取り組んだチャットポット。計画通り2か月ででき、社員600名に使ってもらったが、総すかんになった。それから1年半、チューニングを繰り返し漸く導入できた。一番敷居の低いチャットボットでさえもこのありさま。AIの活用は、非常にボラティリティが高く、イノベーション的状態が現実です。

AI原料検査機を独自開発

 キユーピーにおける、具体的な重要課題の一つに「原料の安全・安心」がある。特に幼児用食品に使われる野菜原料の検査で、4.8mm角ダイスの野菜(ポテトおよびニンジン)が流れるベルトコンベアーで、変色したダイスをはじき出す装置が必要でした。

 すでに、ヨーロッパ製の検査装置があったが、値段も高く(5000~8000万円)、検出精度も満足できるものではなかった。よって、独自開発すると決めた。

 原料検査装置を開発するに当たり、「原料の安全・安心を世界へ」という「志」を持ち、キユーピーだけで使うのではなく、必要とされる原料メーカー、食品メーカーにもお使頂けるよう、1.世界一の検査精度、2.世界一廉価(欧州メーカーの1/10)、3.誰でも使えるシンプル・コンパクトを目標とした。

 開発チームを作り、目標の手書きのコンセプト図を描いて意思統一。そして、どことオープンイノベーションするのが最適なのかを調査して、Googleとの協業を決め、パートナーとして(株)ブレインパッドを紹介してもらい、原料検査のAI化へ取り組んだ。開発に当たってはいくつもの会社と連携したが、重要なのは企業ではなく人(会社の中の特定の人)と結びつきであった。

すべての現場の仕事にAI化を行ってゆく。

 演者は、知力の機械化をAIと考えている。更にAIはイノベーションと捉え、それぞれの仕事の現場力にAIを掛け合わせることにより価値を創造することを目的としている(十字の図)。現場力とは、それぞれの現場が今まで培ってきた知恵やノウハウ、人間関係であり、現場力が強くないとAIの現場活用は難しい。更に「志」ともいえる共感性がある現場でないとできない

 開発に成功した要因の一つに、「良品」を選択するアルゴリズムを採用したことがある。良いものだけを学習させてそれ以外を不良品としてはじき出す操作が、深層学習して合理的に動く。検査合格率100%を達成することができた。ちなみに、ヨーロッパ製の検査機は、不良品を選ぶアルゴリズムで

現場で使用できるようにサニタイズには特に注意した

あった。不良品はさまざまあって設定が大変であり、検査精度が上がらなかった。

 検査機は、鳥栖工場に1年半かけて入れることができたが、最初の導入では、工場がわから無数のダメ出しがあって撃沈した。厳しい衛生度の問題、サニタイズ性、パソコン扱えない作業員でも扱えること、などなど、食品製造現場稼働のハードルは高い。

 ようやく昨年8月にOKをもらえることができた。

AI検査機を現場実装できたのは、強い現場力に

変色しているポテトダイスをAI識別機が無人で見つけ除去する。

よってできたと考えている。AIだけが重要なのではなく、実際に使える機器にするには、今まで培っていた現場力が不可欠なことがよくわかった経験だった。

 壊れないようにシンプルに構成していることとモジュール化して部分交換できるようにしているので食品現場に強い。

 将来、現在扱っている3000種類の原料の識別ができるようにとそれぞれ開発を進め、他社にも使ってもらえることを前提に開発を進めている

ヨーロッパ製の検査機の1/10以下の価格を実現している。

 食品原料メーカーの問題点は多々あるが、とこも多々検査が大変、ひとも得られない、コストも限界。 食品製造現場に本当に役立つAI、安くて使えるものを目指している。産総研、大学も入ってもらって、システム系の中小企業も一緒に入ってやっていただけることを進めている。政府・行政のサポートももらっている。

 価格に拘ったのは、多くの中小企業の原料、食品メーカーも無理なく導入できるようにしたかったため。これにより、我々の「志」である、「原料、食の安全・安心を世界へ」を実現していきたく考えている。

Q&Aから

Q:コンベアーで流して上部からカメラで見ているから底面だけが変色しているのには対応できないのでは?という会場からの質問には、
A:技術的に全面見ることは可能だが、価格が高くなる。一方、今回扱っている原料は、1面だけが不良である、というような野菜はほとんどないものはほとんどない。全面見ることが絶対必要であれば2台使うと良い。

Q:同じニンジンでも規格サイズが違うダイスに関しては? 
A:別途に学習させる。

Q:学習させた機械以外にも技術は導入できるのか?
A:学習したものをほかの機械へもファイルのコピーだけで移植できる。

(文責:食品技術士センター)