国連で取り上げられた減塩

食品化学新聞2019年6月6日掲載

 石田賢吾 (技術士農業部門)

 食塩は、ヒトが生きるための必須物質であり、食品の味、料理や食品加工において重要な基礎的物質である。ここでは、食塩(ナトリウム)の食品に対する有益な機能と、過剰摂取の健康への影響についてまとめた。

食塩の呈味性

 食塩は、五原味の一つである塩味、塩から味を有し、低濃度の塩味は、1価陽イオンを通すイオンチャネルによって、受容される。 
 この塩味は食品の基本味として、うま味やコクの増強に寄与し、甘味、酸味などへも影響を及ぼす極めて重要な味である。 一方、塩味が足りないと料理は「味気ない」と言われるように物足りないものになる。

 食塩の塩味を感じる最低濃度、いわゆる閾値は0.2%で、水溶液で最もおいしいと感じる濃度は、0.9%程度とされている。一方、5%程度の高濃度になると、嫌味が増し嗜好性が低下する。

 一般の食品においては、スープや味噌汁などの液ものでは食塩として1%弱程度、食パンに1%強、かまぼこ、竹輪、ハム、ソーセージ、きゅうりや白菜の塩漬けには2%強、塩から、梅干しなどでは10%以上含まれる。

食塩の調理・加工機能

 食塩は調理や食品加工において、各種の有益な効果を発揮する。食塩の浸透圧向上作用を利用するのが、野菜の塩モミや塩漬け、魚の塩ジメ、塩蔵である。タラ、ニシン、カズノコなどの水産は塩蔵物が有名である。

 加工食品で最も食塩を巧妙に利用したものが水産練り製品である。これは、塩ずり工程で、2%程度の食塩を加えて擂潰することにより、塩溶性の筋原繊維たん白のアクトミオシンが溶解し、絡み合って加熱により、いわゆる弾力性のある”足“を形成する。

 ハム、ソーセージなどの食肉加工品の塩漬工程でも食塩は使用されて、結着性や弾力性、風味、色の生成に寄与する。

 また、小麦粉を使用するパン、麺類の製造では、小麦グルテンに対する食塩の作用により、優れた弾力性が形成される。

 その他、味噌、醤油、魚醤などの製造においても、食塩は必須の原料であり、保存性を保ちながら、発酵、熟成が可能となり、世界に誇る調味料の製造に欠かせないものである。

 その他、野菜の色素クロロフィルの緑色の保持、果物の酵素酸化による褐変の抑制などにも使用される。

食塩の必要量

 食塩のナトリウムは、必須ミネラルの一つで人体の細胞外液の主要な陽イオンであり、細胞外液量を維持している。即ち、浸透圧、酸・塩基平衡の調節、神経伝達、心筋収縮や体内の水分調節に重要な役割を果たしている。

 厚生労働省の食事摂取基準(2017年版)では、食塩の推定平均必要量を、成人で1.5g/日とし、通常の食事をしていれば、これが欠乏することはないとしている。

 但し、高温下での労働や運動時の発汗では相当量の食塩が喪失されるため、多量発汗の対処法としての水分補給では、適量の食塩添加が必要である。

摂取量と推奨量

 食塩摂取量と高血圧との関係については、疫学、臨床学的解析により、過剰な食塩摂取は高血圧に繋がることが確認されている。

 一方、食塩非感受性のヒトがいること、脱水、低血圧の場合は、食塩制限が良くないこと、食品をおいしく食べるなどの観点から、余り低減する必要はないとの意見もある。

 2017年の厚労省の国民健康・栄養調査による食塩摂取量は、男性10.8g、女性9.1g/日であり、減少傾向にあるとされている。一方、24時間蓄尿から推定した食塩摂取量では、余り低下していないのではないかとの報告もある。

 同省の日本人の食事摂取基準(2015年版)では、一日当たり、成人男性8.0g未満、女性7.0g未満が目標量とされた。この数値は、欧米での大規模臨床試験や高血圧治療ガイドラインの減塩目標の6g/日未満や、実行の可能性から設定されたものである。特に、肥満や高血圧、腎臓病などのヒトは、減塩に留意することが重要とされている。

国際連合学識者会議

 2011年国際連合は「生活習慣病対策のために世界がとるべき5つのアクション」を発表した。これによると1番がタバコに関すること、2番目に食塩がとり上げられ「食塩の消費を抑えるためのマスメディア・キャンペーンと食品企業による自発的な活動」とされた。3番目は、肥満、不健康な食事、運動不足、4番が有害飲酒、5番は心血管系疾患のリスク低下に関するものである。「減塩すればその分だけ血圧の上昇が抑えられ、脳卒中や心筋梗塞による死亡率が減るだろう」との米国の研究Gの計算もその根拠とされている。

減塩対策 

 日本人は、一般の加工食品から大部分の食塩を摂取しており、その調味料に由来するとされている。

 調味料メーカーでは、減塩しても味気なさがなくて、おいしくなる減塩調味料や調味処方を開発している。市販の加工食品においても減塩食品が多数開発され、医療機関では、減塩食品の格付け等を行い、行政機関も減塩と健康について、食事摂取基準、食育、食品表示などによって減塩の啓蒙を行っている。

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