日本国だし「鰹節」

食品化学新聞2018年11月1日掲載

 石田賢吾   (技術士農業部門)

 日本醸造学会は2006年麹菌を「国菌」に認定した。麹菌は古来我が国の醸造をはじめ、各種の食品製造に用いられ、日本の食文化やバイオ技術の発展に貢献したことを、認定の根拠にしている。

 日本食の基本味を作り上げたのは「昆布・鰹節だし」であり、食品工業の発展に寄与したことから、「国だし昆布・鰹節」と言える。 

 先のリレーで昆布について述べたので、今回は鰹節に関する近年の情報や研究開発動向を含めて解説する。

鰹節の歴史

 鰹節の原型は奈良時代の養老律令、平安時代の延喜式に記載されている「堅魚」「煮堅魚」及び「堅魚煎汁」とされている。そして、現在のような「焙乾法」は延宝二年(1674年)紀州熊野浦の甚太郎が考案した方法で、土佐、薩摩、焼津他に広まり、昆布と共にだしとして和食の基礎調味料となった。

鰹節の風味成分

 鰹節では香気とうま味成分が重要であるが、香り成分としては、400種余の化合物が同定されており、特に肉質的な香りとしての揮発性含硫化合物(メタンチオールなど)、香ばしい焙焼香(ロースト香としてのジメチルピラジンなど)、燻煙香(フェノール類など)、そして魚らしい香り(カルボニル化合物など)が重要な香気成分とされている。

 鴻巣、福家先生は鰹節の重要な味の成分についてオミッションテストで解析され、うま味には、イノシン酸が中心で、グルタミン酸などが関与し、乳酸、ヒスチジンが酸味に、持続性などのコク味にイノシン酸、グルタミン酸、塩素イオンが関与していることを報告されている。

鰹節の生産量と用途

(株)にんべんのHPによると、鰹節の国内生産量は、29,000t強(2016)、鯖節等が21,000t強と記載され、鹿児島大学の久賀先生は、鰹節のうち一本売りが6%で、削り節62%強、粉砕品が31%の割合であること、近年、つゆ・たれ、風味調味料としてのだし利用が増大していると述べられている。

鰹節から核酸系調味料

 池田菊苗先生によって昆布よりうま味物質のグルタミン酸ナトリウムが発見されたのは、1908年であるが、その5年後、小玉新太郎先生は、鰹節のうま味成分がイノシン酸の塩類であることを明らかにされた。

 1955年、ヤマサ醤油研究所の国中明氏は、‘5-イノシン酸やグアニル酸がグルタミン酸との共存により、うま味が相乗的に増大すること、‘2や‘3-では相乗性を示さないことを発見された。

 グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸は、三大うま味成分と呼ばれ、複合調味料、風味調味料、その他合わせ調味料や加工食品に広く利用されている。

 これらの核酸系調味料は、酵母RNAからの酵素分解法や発酵生産によるイノシン、グアノシンより酵素的にリン酸化する方法によって製造されている。
 核酸系調味料の日本国内の消費量は、5千トン弱(2017年)で、世界では3万トン強(2015年)に上り、近年、増加の傾向を示している。 

鰹節の薬餌効果   

 鰹節は古くから、体力の回復などに有効であるとされ、現在でも沖縄県の“カチューム”、鹿児島県の茶節”があり、疲れや二日酔いに効くとされている。

 近年では、ヒト臨床試験や動物実験で、鰹節において、血圧降下作用、精神および肉体の疲労改善効果、眼精疲労改善効果、乾燥肌・荒れ肌改善効果、脳血管障害の予防作用などが確認されており、古くからの言い伝えを実証している。

 また、鰹節は、減塩しても食物をおいしくする作用が認められている。食塩の過剰摂取は健康上問題点が多い。減塩すると料理は味気なく物足りないものになるが、鰹節だしを用いると、これが美味しくなる、即ち美味しい減塩調味が可能となる。

やみつきになる鰹節

 伏木亨先生は、高栄養を求める動物では、脳内の報酬系が関与しており、これを、いわゆるやみつきになる食べ物とされている。

 このやみつきについてネズミを用いて研究され、コーン油と砂糖の摂取がやみつきになるのと同様に、鰹節だしもやみつきになること、これには鰹節の香り成分も関与していることを報告されている。ヒトの快感を満たすための油脂と砂糖の過剰摂取は健康上問題がある。一方の鰹節だしの摂取による快感は健康な食生活に有益であると述べられている。

 厚生労働省の「エネルギー産生栄養素バランス(PFCバランス)」を、P13~20%、F20~30%、C50~60%に適合させるためにも鰹節だしを用いた日本型食生活が有益と考える。

鰹節の海外への展開 

 2013年「和食」がユネスコ無形文化遺産に認定された。海外の日本への旅行者の増大に伴い、和食の味が世界に広まっている。和食の味の基本は鰹節や昆布によって作り出される。日本式鰹節のフランスなどの海外生産も話題になっている。

 鰹の漁獲量が多いモルディブでは古くから、鰹の乾燥品が作られていたこと、鰹の水揚げの多い海外での鰹節の製造や、「和食」の味を作り上げるための輸出など、鰹節も世界的に注目されている。

 「和食」の基本味となる鰹節がおいしさ、健康を訴求する理想の食材として、世界に広まることを期待する。

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