食と健康 ―乳由来ラクトフェリンの機能性―

食品化学新聞2019年6月27日掲載

水道 裕久 技術士(農業部門) 

 乳には、栄養素以外に数多くの生理活性物質が含まれている。特に、初乳にはラクトフェリン(LF)、免疫グロブリン、リゾチームなど、免疫系が未熟な乳児を感染から守る感染防御因子としての成分が多く含まれている。LFは哺乳動物の乳に含有される分子量約8万の鉄結合性タンパク質であり、生体の免疫システムにおいて重要な役割を果たしている。ここでは、LFの代表的な生理機能、およびLFを大豆由来の成分でコーティングした製剤(LLF)に見出された新たな機能について紹介する。

1.ラクトフェリンとは

 ラクトフェリン(LF)は、牛乳の乳清画分から「赤色タンパク質」として1939年に発見され、その名前は、「ラクト=乳」の中の「フェリン=鉄を結合するタンパク質」ということに由来する。LFは殆どの哺乳動物の乳に含まれおり、その濃度は動物の種類によって大きく異なる。特に初乳では常乳に比べて濃度が高く、ヒトの初乳に5~7 mg/mL、常乳で1~3 mg/mL、牛乳では初乳に0.8 mg/mL、常乳に0.1~0.4 mg/mLの濃度のLFが含まれている。牛乳のLF濃度はヒトの母乳の1/10程度であり、ヒトの母乳中の濃度は非常に高い。LFは乳だけでなく、外界と接する涙液、鼻汁、唾液などの外分泌液、粘液および白血球の一種である好中球にも存在し、外部から進入する細菌やウイルスから体を守る防御因子の一つである。

2.LFの生理機能

①抗菌作用・免疫調節作用

 LFは、大腸菌、ブドウ球菌、真菌など種々の有害菌に対して抗菌作用を示す一方、腸内環境を整える働きがあるビフィズス菌の増殖を促進する作用を持っている。また、単純ヘルペス、ロタ、B型・C型肝炎ウイルス等に対して抗ウイルス作用を示す。さらに、白血球や腸管上皮細胞の表面上には、LFに対するレセプターが存在し、好中球やマクロファージの有害菌に対する貧食作用および殺菌作用を促進し、NK細胞を活性化するほか、炎症部位での白血球の過剰な活性化を抑制するなど、生体の免疫機構を調節する作用があることが報告されている。

②鎮痛・抗炎症作用

 疼痛モデル動物を用いた実験において、LFには鎮痛作用やモルヒネの鎮痛効果を相乗的に高める作用があること、またリウマチ性関節炎モデル動物にLFを連日経口投与すると、関節の腫脹がステロイド系の抗炎症薬デキサメタゾンの効果の約50%に抑制され、関節痛が劇的に抑制されたことが報告されている。

③抗不安・抗ストレス作用

 ラットの実験で、赤ちゃんの一匹を母親や兄弟から離してしまうと、赤ちゃんは親を探す不安行動を示す。しかしLFを投与しておくと、この不安行動が明らかに抑制され、かつ副腎皮質ホルモンの分泌も有意に抑制されたとの報告がある。このようなLFの抗ストレス作用は成熟ラットにおける実験でも確認されている。

④その他

 LFの機能として、骨の成長、ドライマウス、シェーグレン症候群におけるドライアイなどの改善効果が報告されている。

3.LLFの生理機能

 近年、LFの胃での分解を抑えるため、LFを大豆由来の成分で多層コーティングした製剤(LLF)に関して、次のような生理機能が検討されている。

①歯周病軽減作用

 歯周炎のモデルラットにLLFを経口投与することで、歯周組織にTNF-αという炎症起因物質が発現するのが抑制されたこと、および歯槽骨を破壊する破骨細胞が増加するのが抑制されたことが報告されている。また、LLFを経口摂取した歯周病患者において、歯肉溝滲出液(歯と歯ぐきの隙間から出てくる組織液)中のMCP-1という炎症性物質が摂取2~4週後に低下したことや歯周ポケットの深さがやや浅くなったことなど、歯周病の状態を軽減する作用があることが示唆されている。

②起床時の眠気や疲労感を軽減する作用

 睡眠状態が不良の(睡眠の質に不満や悩みを持つ)ヒトがLLFを経口摂取することにより、起床時の眠気や疲労感の軽減が期待できるとの報告がある。

 このように、ラクトフェリンは我々の体内にも存在するものであるが、様々な生理機能があることがわかってきており、体調がすぐれない時などサプリメントとして補完的に摂取することで健康状態の維持や正常化に役立つものと思われる。

専門分野は、食品の機能性、口腔衛生および労働安全衛生(化学・保健衛生)。

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