HACCP解きほぐし2 不思議な言葉「HACCPに基づいた衛生管理」

食品化学新聞2019年2月7日掲載

浅野行蔵 技術士(生物工学/総合技術監理部門)

 食品衛生法が15年ぶりに改正された。そのなかにHACCPの制度化が入っている。厚生労働省としては、食中毒数の減少へと導きたいところだ。昔と比べると日本の食品産業での衛生度は明らかに向上しているが、食中毒患者数の推移は約2万人で下げ止まり (厚労省) 状態である。HACCPの制度化によって日本のすべての食品関連企業が食品の安全向上のためにHACCPを使用すると、国際標準化するという政策だ。

 導入のための参考資料に、リーフレット「ご存じですかHACCP」(https://www.mhl : w.go.jp/stf/seisakunitsuit : e/bunya/0000161539.htm は、高く評価できる。なぜならCodexのHACCPに完全準拠しているからだ。漫画も入れてわかりやすく表示されている。そして、危害要因分析(HA)の表は6項目となっており、FDAと全く同じで、これも高く評価できる。

 ところが厚労省は、小さな企業や店舗でも実施できるようにと、簡易版の意図で「飲食店における衛生管理」などを紹介している。また、不思議な言葉「HACCPに基づいた衛生管理」や「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」と表現された紹介もある。

 これらには問題がある。もし、あなたの会社の企業規模が大きくないので、これらを参照 しようと導入を図ったら、この道は有益な結果には至らない可能性が高いであろう。なぜなら 「HACCPに基づいた…」とか書かれているが、HACCP にどのように基づいているのかの説明はなく、書類を作ったり、記録を書かねばならなかったりと面倒くささが先に立つ。

 一方、安全向上への手応えが薄いと予想される。これらでは唐突に「食中毒予防の3原則っけない、増やさない、やっつける、で対応が可能です。」と出てくる。HACCPと論理的につながる説明はされていない。この3原則は昔から使われているが、具体的対応法へと落とし込めていないので食中毒が減少しないのだと考えている。

 中小企業者はHACCPをしなくても良いのだと、厚労省は不思議な言葉を使って発信して いることになる。これらを実施しても、肝心のカンピロバクター食中毒を減らせないと私は心配している。厚労省は、食中毒の約6割は飲食店が原因で、いずれも中小企業にあたり、企業規模の小さいところの変化が必要である、としているが、変化を起こせるのだろうか。厚労省のこれらの提案は、中小の食品企業はHACCPの導入が難しかろうから、という老婆心?上から視線?があるようである。

 また重要な間違いは、記録(原則7) を重んじていることだ。記録がHACCPだと受け取ってしまう誤解を生み出している。原則7は、それ以前の原則が実施されている場合にのみ 意味ある記録であり、あってもなくても良いような記録までたくさんの記録を要求してしまう危険性もある。従業員が、なぜその工程の数値が重要なのか? ということを理解していたら、自然に正しい記録 (原則7) を残してくれる。訳がわからぬまま記録!記録!と要求されると、記録の質はとたんに悪化する。厚労省の視点は、あくまで監視者の視点を離れず監視しやすい記録を重要視している。製造側の視点に立てば、どの工程の現実の数値が重要なのかの理解こそが必要で、理解が達成されたら質の良い記録が自然に残る。これがHACCPの効用である。

 HACCPが取り入れられている飲食業を監視するのなら、HACCPのもっとも大切な原 則1 (危害要因分析)が出来ているか?を監視すべきである。すべての心配事 (危害要因) が リストアップされているか?そして、それぞれの心配事に対して6項目の危害分析表として、 心配事に対するその企業の処理の決定が納得行くか?を監査すべきなのだ。

 監視側にこれを出来る力量の監視員がまだ少ない。そこで、安易な方法、すなわち原則7 (記録)を強調して、ウンコを見る監視、というはめになってしまったようである。さらに現 実的には、HACCPが正しく作られて運用されているか?を判定するのは、時間もかかり判 断者の経験と知識レベルの高さが求められる。

 整理整頓が出来ているか?見かけの衛生管理ができているか?を判定するのは、工場をザー っと視察するだけで判定が出来る。それで良しとする穴に落ち込むのが、不思議な言葉 「HACCPに基づいた衛生管理」や「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」なのである。

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